共用部分の共有

 共用部分が共有であるということは、これは管理の面からいいますと共同で管理しろということなのです。しかし、共同で管理するにはやはりそのルールがないとうまくいかないのですが、そのルールについて建物区分所有法は次のように規定しております。それによりますと、共用部分の変更というのは共有者である区分所有者全員の合意がなければできないことになっていますが、しかし、共用部分の改良でしかも著しく多額の費用を要しないものについては共有者である区分所有者の持分の四分の三以上の多数決できめてよいことになっており、それ以外の共用部分の管理に関する事項については、共有者である区分所有者の持分の過半数決議で決めることができ、さらに、共用部分の保存行為については共有者である区分所有者各自が単独ですることができるというのです。このように、共用部分の管理に関する建物区分所有法の規定は一見まことに明快であって、なんら疑義がないかのようにみえますけれども、しかし、些細に検討してみますと、実ははなはだ不明確であって疑義が多いということがいえます。

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 例えば、ここに一棟の区分所有されているビルがあるとして、このビルはもう建築後何年もたっていて、外壁がだいぶ汚れてきたなくなっているので、これをきれいに洗い直して元通りの色にするようにビルメンテナンス業者に依頼してきれいにしてもらうということでしたら、これは保存行為ですから、保存行為はさきほどいいましたように、建物区分所有法の条文では区分所有者各自でできることになっていまして、仮に区分所有者が十人いるビルであるとしても、十人がみんなで相談して決めることはなく、だれでもそのことを思いついた区分所有者が、その人の判断でビルメンテナンス業者に依頼して、外壁をきれいにしてもらってさしつかえないということになるわけです。
 ビルの汚れた外壁をきれいにするとか、それを専門業者に依頼するというのは確かに保存行為であって、この点に関するかぎり、建物区分所有の解釈上間違いないといってよいのですが、しかし、これをだれか一人の区分所有者の判断でできるとすると、実際上面倒なことになるおそれがあり、したがって、建物区分所有法第一三条第一項但書の「保存行為は、各共有者がすることができる。」という文書を、その宝石どおりに理解することは適当でないと思います。
 というのは、そのきれいにする費用、つまりビルメンテナンス業者に支払う全をだれが出すのかということになるからです。そのビルの外壁をきれいにしてほしいとビルメンテナンス業者に依頼したのが例えば甲野太郎という区分所有者だとして、その甲野太郎一人で全部費用を負担するというのであれば、ほかの区分所有者は何も文句をいわないでしょう。その人の費用負担で全部きれいになるというのなら結構なことであって、別に文句をいう理由も必要心ないからです。
 しかし、第一三条第一項の但書で、保存行為は共有者である区分所有者各自がすることができるというのは、それに要する費用を全部その人一人で負担しろということではなく、費用負担をどうするかはまったく別の問題なのです。
 建物区分所有法の第一四条をみますと、「各共有者は、その持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」と規定しております。この条文の趣旨は、例えば共用部分であるビルの屋上に区分所有者が相談して、第三者に広告塔を設置させて毎月その者から一定の広告塔設置使用料を払わせる場合、その収入はそのビルの区分所有者全員が持分に応じて分けるということであり、それと同じように、そのビルの共用部分の維持管理に要する費用その他の負担金も、区分所有者はそれぞれの持分に応じて分担して支払うということです。
 したがって、この第一四条とさきほどの第一三条第一項の但書とを合わせて考えてみますと、共用部分である外壁を洗い直してきれいにしてほしいということをビルメンテナンス業者に発注するのは、各区分所有者の判断でできるのですが、しかし、これに要する費用はそのビルの区分所有者全員がそれぞれ自分の持分に応じて分担しなければならないことになります。
 そうなると、実際上そのビルの区分所有者全員が共用部分である外壁について、汚れていてきたないから洗い直してきれいにしたほうがよいということで意見が一致するのであれば、そのうちのだれか一人が他の者に相談せず業者にきれいにすることを依頼しても、他の者はすんなりと費用の分担に応じてくれるのではないかと思うのですが、しかし、汚れていて洗い直しの時期にきているかどうかで、区分所有者間の意見が一致せず対立しているような場合には、区分所有者のうちのだれか一人がほかの区分所有者に相談しないで単独で業者に依頼したとなりますと、その費用の分担についてほかの区分所有者が応じないなどという事態が起きるおそれがあります。もちろん、そのような事態が起きて当事者間での話し合いがつかなければ裁判ということにならざるを得ないでしょうが、しかし、一つの屋根の下で所有を分け合い、そこで生活している者同士で裁判所にまでそれを持ち込むということはなかなか容易なことではないと思います。
 したがって、できることならそういうことになるべくならないようなことを考えるのがいちばんよいわけでして、そのためには、建物区分所有の第一三条第一項但書を次のように制限的に解釈運用するのが適当であると考えております。
 すなわち、第一三条第一項の但書では、「保存行為は、各共有者がすることができる。」と規定されていますが、これはいつでもできるという意味にとるべきではなく、あくまでも原則は第一三条第一項本文であって、たとえ保存行為といえども、共用部分の管理に関する事項として、「共有者の持分の過半数で決する。」のが当然なわけです。しかし、そういう原則にのっとって保存行為をする時間的余裕がなく、例えばビルの外壁の一部のタイルがはがれそうになっていて、落下すると人身事故をひきおこす危険があるというさしせまった状況にあるような場合は、とても区分所有者全員に招集通知をして協議するということでは急場に間に合わないのですから、だれでも気がついた区分所有者が業者に依頼して、応急処置だけでもやっておいてもらわなければいけないのであって、こういうような場合には例外的に「各共有者がすることができる。」というのでさしつかえないし、他の区分所有者もあらかじめ相談がなかったからということでその費用の分担に応じないというようなことは滅多になかろうと思うのです。
 保存行為をすることについて、共有者である区分所有者の持分の過半数で決めた場合、これに反対であった者はいわば多数決で破れたのですから、やはり多数決で決まったことには従わなければならないのであって、そうである以上、その保存行為に要する費用については共有者である区分所有者全員がそれぞれ持分に応じて分担するのは当然でありまして、自分はそのとき反対したのだから費用の分担に応じないなどというような勝手なことをいうことは許されないことはもちろんです。
 それからまた、建物区分所有法ではさきほどもいいましたように、共用部分の改良であって、しかも著しく多額の費用を要しない場合には、共有者である区分所有の持分の四分の三の多数決で決めることができることになっていますが、しかし、「改良」というのはどういうことかとか、あるいは「著しく多額の費用を要しない場合」というのはどういう場合なのかということが実際上、案外厄介な問題なのではないだろうかと思います。
 まず「改良」ということですが、例えば、さきほど区分所有しているビルの外壁がきたなくなったから洗い直してきれいにするという例をあげたのですけれども、そのビルの区分所有者らがどうせきれいにするのなら従来の色は白で汚れがめだつので、汚れてもあまりめだたないねずみ色に塗り替えたいというような場合もあるでしょうが、その場合、これは保存と改良の両方が混ざり合った行為のようにも考えられます。どちらともいいがたいようなのですが、しかし、全体的にみるとやはり結論的には改良であるとするのがよろしいのではないかと思います。
 次は「著しく多額の費用を要しない場合」ということについてみてみましょう。「著しく多額の費用を要しない」改良は共有者である区分所有者の持分の四分の三の多数決でできるのですが、「著しく多額の費用を要する」改良は共有者である区分所有者全員の合意によることを要することになっている関係上、著しく多額の費用を要するか要しないかというのは、何を標準あるいは基準にして決めるのか、これがまた案外めんどうなのです。
 その共用部分の改良に要する費用、普通は工事費用だろうと思いますが、その費用の金額のいかん、つまり絶対額によって、例えば、工事一件当りの費用が十万円以下であれば著しく多額の費用を要する場合でないとか、十万円を超えるのであれば著しく多額の費用を要する場合であるということになるのか、あるいはまた改良工事の費用の金額がモの区分所有ビルにおける管理費用の一年間の積立額ないし予算額とか、予算勘定科目の営繕費の何パーセント、例えば一パーセントント以下相当額であれば著しく多額の費用を要する場合でないとか、何パーセント、例えばて八パーセントを超える金額であれば著しく多額の費用を要する場合であるということになるのか、その他いろいろな標準、基準が考えられると思います。
 ところで、もしも著しく多額の費用を要する場合か、それとも著しく多額の費用を要しない場合かということが訴訟で争われるとすると、どのような標準あるいは基準でそれが判断されるであろうかということを考えてみますと、その標準あるいは基準として、例えば工事金額はいくらであるか、そのビルの区分所有者らは一年間の共用部分等の管理費用としていくら積み立てているか、その総額はどれくらいになるか、一年間の管理費の予算はどれだけあるのかとか、あるいはその改良工事をすることによっていったいどの程度区分所有者らの利便が増すのか、どうしてもそのような改良工事が必要なのかとかいうような、あらゆる事情が考慮されることになると思います。そういうもろもろのことがらを総合的に判断して、「著しく多額の費用を要しない場合」でないかどうかが決められるといって間違いないでしょう。
 とすると、立法技術的には「著しく多額の費用を要しない場合」というようなぎわめて抽象的な表現にせざるを得ないし、また、そうならざるを得ないというようにも考えられるのです。なぜかといいますと、「著しく多額の費用を要しない場合」というのを例示的にせよ、それを具体的に定型化して条文に書くことはきわめて困難であって、いずれにせよその判断は裁判所にゆだねざるを得ないし、またそれがいちばん妥当な結果が得られるだろうからです。
 しかし、そうはいっても共用部分の改良をめぐる区分所有者間の紛争がすべて裁判所に持ち込まれるわけではなく、むしろ持ち込まれることはあまりないだろうと思われます。そうだとすれば、やはり区分所有岩間であらかじめ「著しく多額の費用を要する場合」「要しない場合」に関する具体的な標準あるいは基準を決めておくことが紛争の未然防止にも役立つであろうし、また仮に紛争が起きた場合でも、そのあらかじめ定めてある標準あるいは基準がかなり有効な働きをするのではないか、したがってそういう具体的な標準あるいは基準づくりが積極的に行われることがのぞましいわけです。しかし、これまでのところでは、実際の分譲マンションの管理規約などをみてみますと、建物区分所有法の条文をそっくりそのまま書いてあるというだけのものが圧倒的に多く、この点は共用部分の改良に関する第一二条第一項但書についてもまったくそのとおりであって、これでは実際に紛争が起きた場合に、何の役にも立たないということがいえましょう。

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