生活空間と住居

ここでいう生活空間は、抽象的ないし知覚的なものではなく、人間が自らの生活を演出しそのためにつくりだす舞台装置、生活の物理的な基盤を意味しています。歴史を通じて、人間は自然に働きかけ生産労働を行ないみずからの生命を維持することでゆたかな生活支化を築きあげてきました。その過程のなかで、大小の道具や機械を発明するだけでなく、原野を水田や牧場につくり変え、避難所や集落さらには今日の大都市という複雑な構造をもつ定住生活生活を開発してきました。この意味で、生活空間は人間がつくり出した最大の物的システムであるといえます。個々の住宅、学校、工場、オフィス、図書館、ショッピングなどの建築は、普通に小空間といわれます。これらの小空間が道路、鉄道、広場、緑地によって連結され組織されて、大空間である都市や国土空間を形成します。社会的分業や生活様式の発展にともなって、生活空間はより多様な要因をもつ複雑なシステムへと進んでゆきます。現代都市人は一日たりともこの複雑なシステムを離れて生きることができません。現代では一戸の住宅や一片の宅地といえども孤立して立地することができず、上下水道、ガス、電力などのエネルギー供給、学校、店舗、保育所、病院などの施設、さらにはバスや鉄道などの通勤交通手段など実に多様な社会的サービスの綱の目によって組織されないかぎり、価値をもつことができません。住宅をとりまく居注地や都市空間のあり方がこれほど人々の居住水準を強く規定することはかつてはなかったことであり、今や、どんな環境に住むかは、どんな住宅に住むかと同じくらい重要な側面であるといえます。

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間取り

生活空間の発想は、基本的私達の生活の多様な発展に対応した様々な施設や環境を社会的なサービスシステムとして理解し計画し開発する実際的な必要から生まれたものです。生活空間の考え方を強調する第二の意義は、従来の産業開発第一主義の都市計画や地域開発によって破壊されてきた生活環境を国民の生活と権利を守る立場から総合的に分析し、解決の方向を見つけ出すという、きわめて現実的な課題にこたえることにあります。資本主義経済のもとでは、労働者の生活環境は資本による利潤追求のための生産空間主義と基本的に対立するものです。生活空間的側面と生産空間との矛盾を示す端的な例は、工場などの職場環境です。そこで働く人にとって工場は労働環境一生活空間の一部であるため、耳をつんざく騒音とか、冬でも耐えられぬ高熱とか、マスクをしていても苦しくなる排気ガスなどが工場内に充満していることは、忍びがたい苦痛です。また、労働空間が安全であり快適であるかどうか、厚生施設が整備されているかどうかは、賃金や労働時間などとともに労働条件、生活条件の一部を規定する重要な問題です。一方でその工場を経営する資本からみれば、労働環境の問題は労働生産性の低下とか労働力の消粍というかたちで利潤率の低下に影響する場合にのみ顧慮されるにすぎません。一般に労働環境改善のための費用は無駄な投資と考えられ、それが生産性の向上によって精算されない限り行なわれません。同じことが、都市空間についてもいえます。明治以降の興国殖産、富国強兵、さらに戦後の傾斜生産から高度経済成長にいたる日本の経済発展は、都市の急激な工業開発を基盤としてなし遂げられてきたものであり、その過程で都市はもっぱら巨大な生産空間として考えられてきたため、道路や港湾などの産業基盤は整備されても、住宅や居住地はこれらの巨大な工場の隙間に建てられた飯場か、せいぜい従業員宿舎のような存在でしかありませんでした。都市を国民の生活空間として整備する努力は怠られ、満足な社会的サービスも供給されないままに放置されてきたのです。
大気や水汚染などの公害や激発する交通事故なども、工場空間のもつ生産空間と生活空間の矛盾が都市に拡大された結果であるといえます。しかも労働環境では成年層の労働者が一定時間の生活を送る場所であるのに比して、都市では環境に対する適応性のより低い子供や老人や病人までが四六時中居住しつづけねばならないだけに問題は深刻です。かくて現代の生活基盤における様々な宅地難、通勤難、施設難や公害、災害を個々の間題と対策という低い段階でとらえるだけでなく、人間生活を原点にしてそれら諸問題の相互関係を全生活システムの破壊の姿として科学的にとらえ総合的な計画と対策に結びつけてゆくことが社会的に要請されます。生活空間の考え方は、住居、都市、地域、国土を非人間的な破壊から守り国民生活の基盤としてつくり変えるための一つの思想であり総合化の方法論であるといえます。

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