居住地としての農村

居住地としてみた場合の農村は、空気がきれいで自然も豊富である反面、生活施設や社会的な諸サービスが低水準であるというのが、今日の都市人の印象です。このことは外面的には正しいかも知れませんが、農村は長い歴史を通じて生産と生活の共同社会として生活に必要な利便を共同で自給してきたのであり、道路や水路の維持管理、災害復旧、さらには消防とか相互扶助など、都市では明らかに自治体の行政サービス機能に属するものを生活共同体のなかに内臓させてきた点を見逃してはなりません。ところが、近年における農業経営の後退と就業人口の流出が伝統的な生活組織の解体とセルフサービス機構の破壊を導き、その結果として都市と農村の生活水準の格差をさらに拡大しています。

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間取り

近郊農村にみられる通勤者や兼業通勤者の増加、あるいは地方農村における長期出稼ぎ世帯の増加、さらには地すべり的な若年層の流出といった現象が、村の生活集団と生活機能の解体の原因となっています。西日本における典型的な過疎地帯といわれる中国山地では、40歳以下の働き手はほとんど全部村を去り、40歳以上の中高年層も冬場の4カ月は大阪方向に出稼ぎにゆくといった有様で、残ったものが困るのは前述の共同体生活を維持してゆく上での地元負担の問題です。隣近所の多いときは共同で負担できたものが、戸数が減少すると荷が急激に重くなり、もともと人口密度の低いところて大量の人口流出が続くため、様々な社会的あるいは行政的サービス水準の低下はまぬがれません。小学校は、児童数の減少によって複式から複々式授業、さらには分校閉鎖で寄宿舎生活を余儀なくされます。ある山村の老婆は、予供たちが寄宿舎生活になってから家の中が寂しくて困る。と訴えていましたが、家族生活、あるいは児童生活に与える影響も無視することができません。せっかく苦労して設けた村の診療所も成り立たなくなって再びもとの無医村に戻ったり、利用客の激減によって村民の生活の足であるバス路線が廃止寸前の状態に追いやられたりします。このため住民は生活自衛手段として自家用車を持たねばなりませんが、車をもつ余裕のない人とか自らハンドルをとれない老人や子供の生活は著しく制約されます。このように、過疎化地帯ではもともと人口密度が低く公共的な生活サービスが行きわたっていないところへ、それを補っていた生活共同体が解体したため急速に居住性が低下しています。その一方で都市化の渦に巻き込まれている平地農村部では、工場からの公害、宅地からの汚水の流入、沿道での交通事故や騒音、振動などの公害や災害だけが都市レベルを上回り、それらの監視と対策の体制は都市よりも劣っているため、局地的には生活環境が都市よりも悪化しているケースが多くみられます。また、通学通勤の増加と輸送対策の立遅れは大都市のように派手ではありませんが、隠れた通勤ラッシュを生じさせていることも注目されます。つまり、これらの地区では、生活様式の都市化に対して生活環境の都市化が既存の都市に比べて著しく立ち遅れたまま放置されているのです。
都市においても農村においても、住宅問題は居住地問題と切り難しがたく結びついています。1世帯1住宅を目標とする今日の戸数主義住宅政策にみられる最大の欠陥は、まず住宅の質の低下を無視していること、次に住宅の立地と環境に対する計画性に欠けている点にあります。この点で、居住者が住宅空間において展開する住生活の内容程度を示すものに居住水準があるのと同様に、居住者集団が居住地空間で営む地域社会生活のレペルを示すものとして居住地水準を設定することがその実態と問題点の所在を明らかにしてゆく上で必要です。これについては、今日、住宅事情把握に用いられている方法論を参考とすることができます。住宅事情のもっとも単純な評価の尺度は住宅の物理的性状や環境に関するもので、例えば延べ床面積や居室数といった住宅の大きさとか、便所、キッチン、風呂などの設備の程度を示すものであり、狭義の住居水準です。居住水準というのは、居住者家族と住宅空間の関係をとらえる尺度であって、1人当り畳数や1寝室当り居住人員数などで表される居住密度、あるいは、間取りからみて食寝分離なり就寝分離の住み方が可能かどうかといった相対尺度がその例です。一般に住宅難世帯とは、こうした現象的に測定可能な項目についての住居水準なり居住水準がある一定の社会的な水準より低い世帯を意味しています。この考え方を居住地の場合にあてはめてみると、住居水準に対応するものとして、下水道とか公園、緑地の有無、宅地災害、火災、浸水などの危険性の有無、通勤手段の有無といったものが居住地水準であるといえます。また、居住水準に対応するものとしては、1人当りの公園、緑地面積、1万人当り保育所、幼稚園などの収容力、通勤の混雑度などを挙げることができます。ただ、住宅と居住地の場合を比較してみると、必ずしも単純にこの方法論を適用することができません。それは、居住地の水準を決定する選択肢がきわめて多岐に及んでいるため、単純な代表的尺度で評価することができないからです。
一般に居住地水準の評価の側面として安全性、健康性、能率性、快通性の四つがとりあげられていますが、居住地難を具体的に示す指標となるとその範囲はきわめて広いものになります。安全性の側面一つをとりあげてみても、宅地災害、交通災害、火災などがあり、さらにその原因とか被害形態別に掘り下げてゆく必要が生じます。

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