木造住宅生産の伝統

日本の伝統的な建築生産を特徴づけているのは、大工による木造建築枝術です。特に住宅については年間建設量の大部分を木造が占めていました。建築材料は、その国で最も手近かに得られる安価な自然材料が選ばれるといわれますが、日本の場合は豊富な木材がそれでした。多年にわたって、一貫して木造に終始してきたことによって、意匠と構造、設計と施工を体系づける木割術が発達し、また他方では、早くから木工具が完成の域に達し、それを通じて木造技術が洗練されて、加工労働の生産性は向上することができました。
大工は律令制のもとでは古代政府の営繕機構の長の地位を意味していましたが、中世においては政府や寺社の行なう個々の工事の統轄者の称となり、座の長としての大工職に転化していきました。やがて大工職が世襲化し、能力の如何にかかわらず、その職につくようになると、設計は革新に向わず一定の規則に従えば誰でもが無難に設計出来るような固定的なシステムが編み出され、技術維持に機能しました。これが木割術です。木割術の基本は、建築の種類に応じて柱間に対する柱断面寸法を決め、柱断面の寸法を単位として各部材の寸法を割り出すところにあります。骨組構法の木造建築にあっては、間取りさえ決まれば、木割術によってたちどころに詳細設計まで出来てしまいます。従って、設計は自ずから固定化されがちになり、実際にも技術の停滞をもたらしましたが、他面で、職人の技能修得を容易にし、職人養成に大いに役立ちました。

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木割術は設計と施工との関係に重要な変革をもたらしました。つまり、中世の初期までは設計が建築主としての支配階層によって進められ、施工者としての職人は、ひたすら、その設計に従って施工するのみでした。しかし、木割術による設計の簡易化によって、設計システムが施工者に体化し、それ以後、大工が設計者の手によらずに、設計施工を行なえる道が開かれることになりました。それとともに、古代においては、施工対象によって建築工事の質と種類が異なり、技術の質にも歴然とした階層差がありましたが、時代が下るに従って消滅の方向に向い、遂に近世において、技術は本質的にはすべての工事に共通のものとなり、上下の関係はしだいに消滅していきました。
欧米におけるモデュールの発展は近代に至ってようやく緒についたのであり、そのモデュールが、たとえば4インチという小尺度の採用から出発しているのと比較すると、木割術が空間寸法と断面寸法とからなり、両者が一つのシステムに組み込まれているのは見事であり、その先進性は高く評価されます。
近世の建築生産の発展は、仲間と請負の発生に現われています。近世における建築需要の増大に対応する職人層の増加と、木割術や工具の発達による職人技術の標準化は次第に職人を縦の結合関係から切り離し、地縁的な横の結合を強め、やがて自治的な集団としての仲間を組織させるようになります。仲間の意義は、仲間内での特権職人の否定と平等な就業権の確保にありましたが、外部に対しては,建築市場の独占による仲間外職人の営業の防止として機能しました。暮府は軍事的な目的で、建築労働力を確保する意図をもって、公役の貢納を条件に仲間を認めました。しかし、都市における建築需要の活発化に伴って労働力需要が増大し、他方で都市、農村における階層分化が仲間外労働力を発生させることによって、仲間制の矛盾が露呈されました。仲間の大工に頼っていては、建築需要を満たされない建築主は、次第に仲間制を無視し、他地域の大工や無札の職人を使うようになりました。
都市の建築職人は,城普請に際して諸国より集まり、城下町の建設過程で一層集中が進み、同業種の特定地域への集団居住をみましたが、経済生活の発展につれて、やがて各町に分散していきました。それにつれて、建築需要の重心は城下町建設当初の公共需要から、次第に民間需要に移っていったものと思われます。建築請負が盛んに行なわれるようになったのは、江戸時代に入ってからです。幕府の作事においても軍事的性格の強いものや、官廷作事は直営で行なわれましたが、一般工事は請負によるものが次第に多くなっていきました。請負いには手間請負と一式請負とがありますが、いずれの場合も暮府作事方が作成した設計図と仕様書によって、見積り入札が行なわれました。請負者が建築主に対して提出する請書の内容はきわめて片務的なものでした。直営から請負への移行の背景は、建築主側には、直営に要する達築主側の技術陣が工事量の増大に次第に対応しきれなくなってきたことや、請負によって工事費の節約がはかれるといった事情がありました。一方請負者側には、親方大工と平大工の間の階層分化の進行に伴う親方層の雇傭主化、企業化、設計技術を含む建築技術の修得による建築主側技術からの相対的な独立の達成等の要因が働きました。
民間工事においては、公共工事以上に請負が一般化し、建築工事一式を請負、いわゆる、建て渡しが盛んになりました。大工仲間の定書には、入札に関する多くの規定がみられます。大工職人は繩張り、いわゆる得意出入をもっていますが、これを相互に尊重して、他人の繩張りを荒らさないことが原則となっていました。従って入札には、工事対象に出入りする大工のみに参加が許されました。このような大工による建築生産の形態は、今日に至るまで、民間木造住宅生産形態の原型として命脈を保ち続けています。

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