公共住宅の登場

日本の公共住宅供給は、大正12年の関東大震災の復興のために設立された同潤会に始まっています。同潤会の最初の仕事は、応急バラックの整理のための仮設住宅や小住宅の旧市外での建設でしたが、やがて要望に応じて、渋谷、青山等の旧市内にアパートメントが建設されることとなりました。これが日本初の鉄筋コンクリートアパートです。この建築の住宅生産史上における意義はすこぶる大きく、第一にアパートメント、集合住宅という住居形式が採用されました。これまでにも長家という平面的な連続建ての形式は一般的でしたが、アパートは単に水平方向のみならず、垂直方向にも集積されています。第二に構造方式、材料として鉄筋コンクリートが用いられています。鉄筋コンクリートは一般建築にようやく普及し始めていましたが、住宅といえば木造でしかなかったこの時期としては極めて画期的といえました。第三に、これまですべて大工まかせであった庶民住宅が、初めて大学出の建築家によって設計されました。第四に住店形式、構造方式、材料、建築規模の面から当然そうなるのですが、工事施王が町場の大工、頭梁によってではなく建設業者によって行なわれている。これらの四つの要素は相互に関連しています。大量の住戸を市街地に集約的に建設しようということから、当時欧米の事情として盛んに紹介されていたアパートメント形式が選ばれたのでしょうが、その結果として構造方式、材料は鉄筋コンクリートの採用となったのであり、またプロジェクトが一戸単位でなく棟単位、団地単位にまとまったことによって、住宅は建築家の設計と建設業者の施工の対象になったといえます。つまり住宅はその需要が同潤会という中間需要者の手によって集約化されることによって建築化され、伝統的な大工まかせから、一般建築生産へ飛躍する手がかりを見出したのです。

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間取り

同潤会の仕事は、やがて住宅営団によって引き継がれこととなります。住宅営団の供給する庶民住宅は国民住宅として型によって与えられるべきだという立場から、営団では型計画の研究開発が進められました。営団住宅の供給対象は様々な条件をもつ不特定多数の需要者ですが、需要者の要求への適合をはかりつつ、大量の安価な住宅生産を可能にする方法が開発されました。つまり需要者の住要求条件がグループ化され、各グループに対応する建築的解決が型として与えられ、さらに型は標準設計として展開されました。住宅計画におけるこのような研究は、単に住宅の分野のみならず、建築一般の計画方法論の基礎を築いたものとして現代的意義が評価されるのですが、それまで設計の対象としても不十分にしか扱われて来なかった住宅が、公共による大量供給を背景として標準設計論にまで発展させられたのは画期的な前進でした。
第二次大戦後、公共住宅は公営住宅に受け継がれましたが昭和30年以降は同年に発足した公団住宅にも分岐されました。公営住宅は政府および地方自治体の一般財源を資金とする低所得者向け住宅であるのに対して、公団は財政投融資を資金とする中高所得者を対象としており、住宅の質や規模にも多少の相違がありますが、生産経済上は次のごとき公共住宅に共通な特質を持っています。
第一の特質は、少品種大量生産です。年間数万戸の公共住宅建設戸数のうち、僅かな量の木造低層の公営住宅を除くと、残りの大部分は壁式中層耐火構造であり、これが少数種のプランタイプで建設されています。公団賃貸住宅の場合についていうと、僅か10種類程度のプランタイプで数万戸が建設されており、プラン種類別利用度を無視して平均をとれば1プランタイプ当り数千戸にのぼります。一般に工業生産において、少品種大量生差は大きな経済的効果を挙げるものですが、公共住宅の場合は標準化による集約化の有利性が十分利用されていません。全国計では数千戸の建設戸数も地域別、建設時期別にブレークダウンすると、一団地当り数百戸の程度となり、さらにこれが施工者に請負われる単位としては100戸前後に分割されます。工業生産の前提条件となる集約需要に生産体制が適応しておらず、逆に在来的な生産体制に合うように建設戸数が分割され、せっかくの集約効果は著しく滅殺され、規格化のもつ画一性の欠陥のみが表われるという最悪の結果を生んでいます。
第二の特質は設計の標準化です。少品種大量生産は量産を意味せず、標準設計の単なる繰り返し使用に止まりましたが、建設と管理の経験と研究の蓄積の設計へのフィードバックを通じて設計品質は高まりました。また、標準設計の採用は同時に設計業務の著しい節滅をもたらし、建築詳細の定形化によって施工品質を安定化させました。
第三の特質は建築材料、部品の指定、支給です。これのねらいは、銘柄選定を発注者が確実に行なうことで生産品質を確保する。材料、部品の使用量をチェックして生産品質を確保する。材料の大量購入による商業的利益を発注者側で吸収して工費の低滅をはかる。材料、部品業者を元請業者に対して保護する等にあると考えられます。公共発注者の材料、部品に対する関与は、やがて公共住宅の大量需要を背景として量産部品の開発を促し、低価格を実現し、公共住宅規格部品として工業化の方向に発展させていきました。
第四の特質は工事費の低単価性です。公共住宅の予算単価はもともと低い上に、設計品質はかなり高水準であるため、施工者にとってうまみは少なく、低単価性は大規模建設業者を公共住宅から遠ざけ、中小企業の市場としてきたのであり、それが1件100戸前後という適正請負単位の零細性を導いています。また一方で低単価、中小企業受注、低い技術力、公団監理への高負担、という連鎖関係をもたらしていました。発注者である地方自治体や公団の技術力が中小規模施工者のそれを上回る結果、本来ならば施工者のイニシアティブで行なうべき工事管理にまで発注者が干与し、施工者もそれを技術指導と考えて期待をかけていた面がありますが、これは技術支給であって公共住宅の低価格性維持のひとつの柱となっていたのです。以上の特質のなかにみられる公共注宅における公共団体の役割は、最終需要者に対しては中間需要者、施工者に対しては発洋者ですが、そればかりでなく、設計や工事監理を通じてかなり強く生産者的な機能を果たしていることがわかります。このことは公共建築工事における公共発注者と小規模施工者との関係に共通の問題であって、発洋者と施工者との技術水準の格差のもたらす結果だといえます。また、一面には施工者に企業規模の格差が存在する限り、中小企業を保護、育成する立場に立つことを求められる公共団体の産業福祉的な政治的考慮が働いていることも見逃せません。しかしながら、地方自治体や公団は、品質の良い住宅をできるだけ安価に入手することこそが本来の目的です。在来的な建築生産の構造のなかでそれを果たすには、技術と産業の二重構造における下層部分を直営に近い形態で利用するほかはありませんでした。しかし、公共団体は建築業経営に自ら乗り出すのでない限り生産者として徹底しえませんが、公共団体にはそのような素質はありません。公共団体はむしろ生産者的機能を捨てて、発注者に徹することが望まれます。

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