町場での住宅生産

日本の近代国家への変革は職人社会を解体し、階層分化を促進した親方層のある部分は請負人となり、その地位を確立していきましたが、大多数の職人は賃金労働者となりました。特に出職人とよばれていた大工、左官などの建築関係の職人は土木建築工事の規模が拡大するにつれて職人労働の市場が拡がり、また請負人が出現するにつれて賃労働者としての性格を早くから帯びるようになりました。しかし、これらは主に急速に需要が拡大した公共用、産業用の大規模建築工事、いわゆる野丁場の仕事でした。住宅建設が比較的大規模な請負企業の対象となったのは、大正未の同潤会住宅以降のことです。

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間取り

産業優先主義の近代化が推進されるなかで、庶民住宅は低い水準におしとどめられ、住宅供給はごくわずかの公共住宅を除いては専ら個人の自力建設によるか、零細な民間家主の経営にゆだねられてきました。住宅の平面計画は改善、改革の運動や研究を通じて進歩してきているものの、大工による木造住宅の生産の、いわゆる町場については、工業生産一般の著しい発展をよそに、基本的には何らの変革も受けずに今日に至っています。近年、住宅の供給方式、生産方式が急速に変化しはじめており、今後ますます変化の度を深めると予想されますが、今現在ではまだ大工による生産が支配的な住宅生産形態です。
大工による生産における第一の特徴は、仕事の受注経路にあります。町場の大工は得意筋とよばれる特定の顧客をもっており、得意筋または得意筋に紹介された仕事の比重が非常に高く、得意筋の数は20軒から30軒のものが多いのですが、これだけあれば各1軒について、20年毎に新築、5年毎の増改築が回ってくると仕事量のペースはそれで維持できます。それだけに得意筋との関係を断やさねことが大切で、良い仕事をするとともに、修繕や増改築の零細な仕事に積極的に応じるなどの日常的なサービス活動が欠かせません。手工業的な住宅生産においては、生産過程で建築主の希望が十分聞き入れられなければならず、品質や性能は職人の技能や人格によって大きく左右され、そのうえ巨額の建設費の使用を委ねなげればならないため、建築主にとっては生産物そのものよりもまずそれを生産する人への信頼性が優先します。生産者側にとっても同様で、建築主の希望を正確にとらえ、請負金の確実な支払いを受けるためには、建築主を日頃からよく理解し、信頼できるようでなければなりません。
狭い範囲の地域社会のなかで建築主と大工頭梁との間に結ばれていたこうした絆は、両者における世代の交代につれてだんだん弱まってきています。大工頭梁と得意筋との人間関係は、次第に契約に基づく経済的関係にとって代りつつあります。都市流入や世帯分離に伴って若い世帯が新開発住宅地に住宅を新築するような場合には、そもそも始めからこういう関係はないわけで、若い建築主は大工頭梁の選択に悩み、一方で大工頭梁は新規の建築主獲得への手がかりを得るのに苦しんでいるのです。
大工による注文生産住宅の生産組織は、大工頭梁とそのもとに常傭される職人とからなる大工組織、他から臨時に参加する非常傭職人、および、左官、手伝、建具、屋根、等々の職種よりなります。大工組織の大部分は10人以下で、特に1人から2人、5人から6人の組織が多い。親方が生産の過程において自ら主要な作業を行ないつつ、かつ全体を統率して行くには、組織規模は4人から5人が限度であり、同時に持ちうる現場数は2カ所が妥当なところです。この規模内では、大工頭梁は技術上の仕事の進行はもちろんのこと、組部にわたってのチェックも可能で、技術の高さを誇りとする親方のなかには意識的にこの規模内に止まろうとするものもいます。
規模が5人を越えると、親方は自ら現場で作業しながら、かたわらで仕事を細部にわたってチェックするのは難しくなってきます。複数にわたる各現場には墨付けのできる職人を配して現場をまとめさせ、親方は専ら仕事の進行状況をチェックして回るに止まらざるをえません。5人を越えた組織は、現場を単位として中間的な管理者を増加させつつ拡大されますが、木造個人住宅の受注生産を中心にやっていく限り、親方が仕事全体をコントロールできる規模の限界は10人程度だといわれます。
大工組織と他職種とのつながりはかなり固定的です。その原因には、労働力の調達に無理がきく、その大工独特の流儀がよく理解される、建築主に安心してもらえる、などの積極的な面と、義理があって変えられない、臨時の出入によるトラブルを避けるという消極的な面とがあります。これらのことは、大工による生産が一つには注文生産につきまとう受注の不安定性をカバーし、もう一つには在来的な住宅生産者技術の持つ主観性の欠陥を補い合うことによって成り立っていることを示すものです。
近年、建売、分譲住宅の全住宅建設量に占める比重が徐々に増大しつつあります。これらが在来的な木造工法による施工であることには変りはありませんが、大工頭梁のもっていた経営的機能は住宅供給業者に奪われているばかりでなく、技術者としての主導性も失われて、大工は単なる技能提供者に変化せしめられています。かつての零細な建売住宅経営や貸家経営においては、大工が自ら建築主になる例も少なくありませんでしたが、住宅経営の大規模化と専門化は徐々にそれを許さなくなっているのです。その上、競合的な新タイプとしてのプレハブ住宅の出現、若手労働力の不足、新建材の普及、電動工具の発達などは大工技術の変化、職種の変化をひき起こしつつあります。長い間停滞的に推移してきた大工による注文住宅生産は、今や流動化と変質を余儀なくされ始めています。

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