住宅生産と供給機構

住宅生産の発展を図るうえで、生産機構のあり方は重要な意味をもっています。住宅の大量供給、コストダウン、性能の向上、環境の改善をすすめるためには、生産の産業化は避けられませんが、逆に産業の自然な形成がそのまま目標達成につながるという保証はありません。住宅生産は物的生産のなかで、かなり特殊な性格をもっていますが、それだけに、生産、供給の機構も特別の工夫を要します。これについては現在形成されつつある住宅産業は、危惧の念を抱かせる点が多く、第一に住宅産業は住宅の生産、供給の一連の業務を分断し、それぞれを企業活動の対象とするとともに、それらを総合してシステム産業にまとめ上げた形態をとっています。資本主義下の企業活動の目的は、いうまでもなく、利潤の追求にありますが、住宅生産の全過程にわたって幾段階にもめぐらされた利潤の重みに、果たして多数の住宅需要者が耐え切れるかどうかについて大きな疑問があります。住宅生産に要する費用は、社会保障的な負担のない限り、購入費または家賃という形で、結局は最終需要者の家計によって賄われます。住宅は単一の財としては、家計にとって最大のものです。これまで住宅が衣や食、または耐久消費財に比べて、格段に貧しい状態にあったのは、基本的には家計からの支払能力の低さにあったといえます。

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住宅生産費を安くあげるために、安価な材料と低賃金労務が用いられ粗放な質に抑えられてきたばかりでなく、生産形態も実費主義とでもいうべき方法に頼ってきました。つまり公共住宅においては、建築主が直傭する建築家によって設計を行ない、低価格で請負う中小業者を用いて工事に当らせ、施工者の施工能力と価格の低さが原因となって常に低下しがちな工事の質を直営に近い技術指導で補ってきました。民間住宅においても、零細な大工、頭梁の生業的な営みによって費用は実費に近い水準に抑えられてきました。
現在では住居費の見掛け上の負担力は向上していますが、地価や建築費の値上りはそれを上回り、実質的な負担力は向上しているかどうか疑わしく、コストダウンや性能の向上は、本来、工業化の方法によって行なうほかはなく、実際にもその成果は上っています。しかし、工業化に必然的に伴う産業化は工業化の成果のかなりの部分を奪ってしまいかねません。住宅供給に必要な費用の支出が十分保証されないまま、住宅産業のみが育成されることになれば、住宅問題は解決に向うどころか、逆に激化するかも知れません。産業化によって住宅が商品化され、需要の動向に敏感に動かされるようになると、費用負担力の低い需要者に対して、低質の住宅を供給しはじめる恐れすらないとはいえないのです。工業化の技術的、経済的な成果を最大限に吸収しながら、しかもそれが無制限な利潤迫求に利用されない生産、供給機構をつくりあげる必要があります。そのためには公共と民間との適正な役割分担関係が設定されなければなりませんが、住宅供給についていえば、住宅が社会的共同施設として計画され、公共的に供給されることをもって基礎とされなければなりません。
第二に、住宅は土地の上に建設されて初めて機能し、土地と結びついて初めて住宅生産は本当の意味で完了するのです。近代的な住宅においては住宅用地は単に物理的に支えるだけではなく、交通、通信、エネルギー各種サービスを容易に利用しうるように装備され、良好な自然環境を備えていなければなりません。こうした性格は今後ますます強まっていくと思われます。ところが住宅の立地可能な土地は極めて限定されており、今後の住宅生産のネックになると予想されます。住宅産業に参加している多くの企業は自社の住宅需要を積極的に創出する目的と、粗土地の造成、分譲による開発利益を吸取する目的から、競って土地取得に乗り出しています。
こうした民間ディベロッパー等の活動が、しばしば土地利用の混乱を引き起こし、地価の上昇を助けていることは争えません。そもそも土地は地理的に絶対的な価値を持つため、利用の仕方によっては民間企業による地域的な独占を招来します。居住者は就業地との関係において居住範囲を限定されるため、好むと好まざるにかかわらず、いずれかのディベロッパーの経営に包摂されざるを得ないことも起こりうるのです。実際にも、私鉄開発地において、鉄道はもちろん、バス、タクシー、ショッピング施設等、生活利便の全般にわたって一つの大企業の系列企業によってシステム化されている例がみらます。このようにみてくると、民間企業の手による自由な宅地開発には、かなり疑問な面があります。宅地開発は全面的に公共体によって進められることが望まれますが、民問企業による場合にも、住宅地の計画および経営についてかなり強い規制が加えられる必要があります。
第三に、住宅の内容を決定する主導権の所在の問題があります。従来の住宅設計における問題点は、民間住宅については、実験、調査研究的な基礎の貧弱さであり、公共住宅については建築主側からの設計密度の高さにも拘わらず、その非競争的な環境と生産者側からの技術情報の欠如によって起こる硬直性でした。したがって生産者側での競争的な技術開発を刺激し、それを最大限に利用しうるような設計機構が望まれています。発注者は性能を指示するに止め、生産者から住宅内容を提案させる、いわゆる性能発注方式をはじめとして、二段階入札制度や修正提案制度など、様々な方式が提案され、すでに諸外国において実施されています。これらの諸方式は、発注者に最終需要者の要求を組織化し、住宅の性能条件にまでまとめる能力と生産者から出される技術的提案を評価する能力があって初めて可能ですが、それには設計能力を上回る程の技術的能力が必要となります。ここに最終需要者と生産者との中間に立つ中間需要者の重要な機能があり、建築家の新しい職能分野が開かれています。
個人の建築主と生産者との関係は、個人建築主にとって不利なものになりつつあります。伝統的な住宅生産においては、建築主は生産者とたえず接触を保ち、ある程度の緊張関係のなかで生産に関与してきました。設計、施工に長期間を要し、たしかに能率は悪いのですが、建築主にとっては、大金を投じ生涯の財産を形成するにふさわしく、かつ必要な時間であったともいえます。建売、分譲住宅やプレハブ住宅の購入において建築主が相手とするのは販売額の増力加にのみ関心を待つセールスマンであって、限定された選択肢のなかで早急な判断を迫られることが多くなります。
生産、供給機構が大組織になりシステム化されるにつれて、需要者側に立つ建築家による住宅の計画、購入、利用に関するコンサルティングサービスも必要になり、指導、助言、啓蒙を行なう公的機関の設立なども望まれるかもしれません。しかし、このような機構を本当に機能させるためには、生産者の活動と住宅政策に対してたえず注意を払い、常に正当な要求を打ち出していくことのできるような居住者の住意識の向上と、それに基づく住宅運動の高まりが条件となります。

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