建設業

建設業という言葉は、今日では日常的に用いられていますが、戦前ではほとんど用いられませんでした。戦前において、建設業に該当する言葉は土木建築請負業、あるいは単に請負業ですが、これは戦前の建設業の性格を端的に物語っています。戦前の建設業について調べようとするとき、まず直面する困難は統計の不備です。例えば建設投資額を把握するためには、一般会計中の土木費および建築費、市街地建築物法にもとづく警察の建築物統計などを給合して推計する以外にはありません。その中のどれだけを建設業者が施工したかということになると、大蔵省主税局の営業続計をみる以外に資料はありません。主要職業別に分類された営業税表の一項目として、請負業の請負全額と請負個数が記されており、これが業者施工高と件数に該当しますが、この請負業には土木建築請負業が主体ではあっても、人夫供給を業とする労働請負業から洗張、洗濯業にいたるすべての請負業が包括されているのです。

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戦前、政府の行政として建設業を所掌していたのは、商工省化学局無機課でした。それほど建設業は政府から無視された存在でした。政府が建設業を産業として注目したのは企業整備と労働行政上の問題のときくらいでした。これらの事実を考えると、戦前の建設業は、それ自体が独立した生産主体である産業というより、国、地方自治体、企業、個人を問わず発注者を主体としてそれに従属し、その工事の全部もしくは一部を請負う請負業としてしか存在しなかったといわなければなりません。その意味では洗張や洗濯業と同一の範囲に属し、生産的産業というよりはむしろサービス業、第三次産業的性格を多分に持っていたと考えられます。
このことは、戦前の建設資本が産業資本として成長することなく、商業資本の段階にとどまっていたことを物語るものでもあります。資本制生産のもとでの近代産業の確立とは、前資本的な商業資本に対比される産業資本の確立を意味します。単純な商品流通および貨幣流通をその在在条件とする商業資本は、経済的に未発達な地域間の商品交換を媒介し、その双方から不等価交換によって商業利潤を抽出します。つまり商業資本の利潤は、流通過程における不等価交換から生れます。これに対し産業資本の利潤は、生産手段と労働力の生産的消費である生産過程から生れます。それゆえに産業資本にとって利潤を増大させるためには、なによりも生産手段と労働力の効果的な消費こそが最大の課題となり、絶え間なく新たな機械、技術、労働組織を採用して、資本、労働の生産性を増大させることが必要になってくるのです。この努力が、資本制生産のもとでの生産力発展の原動力となることはいうまでもありませんが、戦前の日本における建設業には、このような商業資本から産業資本への転化はほとんど見られませんでした。終戦直後の企業集中、資本金規模、保有機械状況を列記すればそれは明白です。
企業集中についてみると、昭和年代においてすべての産業で独占集中化が進み、建設業にとって資材の購買先としてまたは金融先として深い関連を持つ鉄鋼、セメント、金融業では、上位10社が80%ないしは90%の集中度に達して戦後の集中排除法の対象となったのに対して、建設業では対象となるような大企業は存在しませんでした。
この原因は、単に建設生産や建設市場の一般的特質のみにあったのではなく、日本の建設業固有の体質に根ざしています。第一に指摘しなければならないのは、低賃金労働です。戦前の建設業における機械化の末発達の原因は、低賃金労働を基礎にした労働集約性にありました。戦前の建設労働を一言でいえば人海労働であり、中小建設業の存立基盤はそれのみにあったといっても過言ではありません。これを可能にしたのは、日本の資本主義の発展の不均等からくる農村における停潜的過剰人口と、急激な生産力発展が絶え問なく生み出す産業予備軍の存在でした。建設生産は作業の性格から農業労働に似た熾烈な団体労働に耐える労働者を大量に糾合することを必要とします。戦前の建設労働者の主な給源は、東北、北陸、南九州などの僻地農村における遊体労働力であり、また景気後退や恐慌期に生れる産業予備軍でした。とりわけ1920年の戦後恐慌からはじまって、29年の世界恐慌につづく経済的動乱期に発生をみた大量の失業者の多くは、不完全就業の形で建設業に流れこみ労働条件の低下を促進しました。低賃金と劣悪な労働条件によっても容易に吸収しうる膨大な過剰人口が存在するとき、機械使用の必要性が生れないのは当然です。戦前の機械化施工は、先進諸国からはるかにたちおくれて明治中期以降からはじまりましたが、機械を購入するのは、政府であって業者ではなく、また人力施工が技術的に不可能な場合や、寒地、僻地などで工期短縮が不可避な場合に限定されていました。さらに1920年にはじまった戦後恐慌以後、年々割り出される膨大な失業者を救済するための公共土木事業が、より多数の失業者を吸収するために機械使用を一定限度以上は禁止し、非合理的な人力施工を政策的に優先させたことが戦前の建設業の機械化阻止に与えた影響も見落してはなりません。
生産の特質から労働集約性を多分にもつ建設業は、国家政策による失業対策事業と土木建設事業との癒着によってその傾向をいっそう強めたのです。そこでは機械化を中心とする技術の進歩と発展、生産性の向上、労働条件の改善、高能率、高賃金という発展過程は望みえず、建設労働を底辺労働に押しとどめ、これを固定化させることとなったのです。

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