建設業の従属性

戦前の建設業の基本構造や体質の形成について、見落すことのできない事情として、そこに働いていた経済外的強制ともいうべき要因があります。戦前の建設業は、請負業という性格と多数業者の乱立がからんで、常に買手市場の立場におかれていました。加えて資本主義的発展の未成熟による弱少資本は、発注者、施工主の立場を相対的に強化します。しかもその中心は、民間工事についていえば先進的大企業であり、官庁工事は絶対主義的ともいわれた官であり軍でした。戦前の建設業における発注者と請負人の関係は、従属的な支配、被支配の関係をもって貫かれてきたといっても決して過言ではありません。それを集中的に表現するものは請負契約です。明治23年に制定された会計法は、一般競争入札による最低価格落札制度を契約の原則として確立し、建設請負における資本主義的形態の定型をつくりあげたものではありましたが、決して対等な取引関係を確立したものではありませんでした。

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戦前の請負契約における極瑞な片務性は、それを立証しています。そのひとつである請負人の危険負担制度は、江戸時代から明治の初期にかけては、実費精算もしくはそれに近い方式をとることによって請負人に一方的にしわ寄せされることはありませんでした。しかし会計法の採用した入札契約方式と予決令さらに民法は請負人の危険負担の原則を確立し、日本の地理的条件のもとではしばしば起りがちな天災不可抗力による損害危険を、ほとんどすべて業者に負担させることにしたのです。それは民に対する官の優位の確立であり、資本力の弱い業者にとってはまさに経済外的強制とよばれるべきものでした。
工事費についてもそれを決定するものは請負人ではなく施主である官であり、しばしば経済性を無視した低い工事費が法律、予算によってきめられ、最低価格による落札の原則のもとに請負人に一方的に押し付けられました。片務契約の是正、入札および契約保証金と営業税の撤廃、被選挙権の獲得は、明治時代から建設業界が取り組んできた課題ですが、戦後しばしば取り上げられた物価高騰に伴う工事費の増額陳情が、国家権力が強い力をもっていた戦前においても行なわれたことからも、それがいかに請負人を苦しめるものであったかを知ることができます。
しかし、このような経済外的強制に対応する建設業界にもそれを許容する意識が多分に残存していました。それは封建職人社会における出入先関係の延長にほかなりません。たとえその工事が経済的には引きあわないものであっても、次の工事によって穴埋めをするということで不当な低価入札を敢えて行ない、あるいは監督官吏や発注者側を買収して、工事を通当に調整するなどの非合理が、当然のこととして行なわれました。それは請負人の官あるいは軍に対する権利の否定や未確立と表裏一体をなす義務意識の麻痺というべきものでした。そこでは不正や投機的性格が助長され、さらに下請に対する危検の分散や生産費切りつめのための労務費節滅、低賃金労働力の完全利用がもたらされ、建設業そのものの近代化が阻害されるという悪循環が形成されたのです。

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