建設業での重層的下請制の崩壊

戦前の土木建築請負業が戦後建設業と名称を改めてから、対内的にも対外的にも多くの改善策がとられてきました。戦後の建設業の展開過程は、その意味では近代化過程と呼ばれて差し支えないものですが、それは歴史的に形成されてきた日本の建設業のもつ特質の根本にメスを入れるまでには到りませんでした。表面化した労働力不足が生む賃金の上昇は、労働条件の改善を否応なしに促進するとともに、労働節約的な機械化を進めて建設業に一定の近代化をもたらしたのですが、下請生産機構そのものについての近代化は、必ずしも十分には進められなかったのです。建設業における下請生産機構が製造工業におけるそれと異なる特質は、極端に表現すれば、自己の製造工場も直用労務者も全く有せず、すべての生産活動を自己の経営外の下請業者にゆだねるところにあるとされてきました。

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元請業者は請負った工事の全般にわたってその部分工事を専門の下請業者に分割して請負わせます。この専門ごとの下請業者を一つの工事目的に統括し、金融面あるいは資材調達面で面倒をみて工事を完成させるのが元請業者の姿であるともいわれてきました。この元請、下請の関係を支えているもののなかには、しばしば前近代的な従属支配の関係がありました。市場把握力のない下請業者にとっては、元請から仕事を与えられる以外に存立の基盤はありませんでした。そしてまた直接生産力を持たない元請業者は時には出血を覚悟しても仕事をとり、これを下請に与えることが下請に対する自らの在立基盤を示すことでもありました。建設資本の商業資本的性格、生産過程においてよりもむしろ流通過程からの利潤抽出に専念するという性格も、ここから生れるものとされてきました。
このような元請、下請の関係は戦後の民主化や建設工事量の増大、さらに労働力不足のなかで次第に変貌していきました。とりわけ労働力不足の進展は、元請業者についても一定の直用労働者を雇用しなければならない必要性を生み、さらに保有機械についても質量ともに増加させずにはおきませんでした。しかし規模の拡大による効率化が働きにくく、生産場が土地に固定していることから生じる地域独占力が発生しやすいという建設生産の特質は、このような元請業者の近代化についても一定の限界にとどめずにはおきません。それゆえに元請、下請という生産機構のもとで、直接労働力を調達管理する下請業者の労働力性保と効率化をはかる必要が増大し、機械化は中小業者にも波及していかざるをえなかったのです。
この近代化はすでにみたような矛盾を生み出し、工事量の増加にもかかわらず収益率の低下をもたらしているのです。特に低下の著しい中小業者は、生きのびてゆくために従来の元請企業だけでなく、これまでは関係のなかった元請企業や新たに進出してきた商社や他産業の下請にも移動しつつあります。このことは、建設業に伝統的であった下請制度の崩解を物語るものにほかなりません。いいかえるならば、徒属的な関係の上にあぐらをかいていた元請企業の存在は次第に許されなくなってきていたのです。元請対下請の法的な関係については業法改正ともからんで多くの議論を呼んでいるところですが、事態はそれをこえて先行しているといわねばなりません。
それを端的に示しているのは、元請の製造原価に占める外注費の比重の増大で、外注費年々増大しています。下請業者に従来のように元請に対していちだん低い下請の地位にあるのではなく、新しい技術や建材の開発のなかで専門化した技術を売る専門業者へと変貌を遂げようとしているのです。機械化によって増大する資本費負担と上昇する賃金をまかなうに足るだけの、そしてまた高度化した技術水準にふさわしい価格を求めようとしているのです。もちろん依然として後をたたない過当競争は、下請相互の過当競争を激化させ、その力を弱めていますが、しかしそれはもはや従来のようなタテの元請、下請の関係ではなく、強力な下請が一社専属ではない独立の専門業者として自立しうる条件、そして元請はこれと対等の取引関係を結ばなげればならないという条件を増大しつつあるのです。
このような条件変化に対する元請業者の対応は立ち遅れていたといわねばなりません。そこで求められている元請業者のあり方は、もはや従来と同じ概念のものではありえません。従来の元請業者、大手元請業者は、幾段階にも階層化した巨大な下請業者のピラミッドの頂点に君臨し、それぞれ系列下の業者を駆使することによって年間何百億という工事を消化してきました。しかし、下請業者が自立した専門業者へと成長し、いくつもの元請と取引関係を結ぶようになれば、元請に求められるものは多様な専門工事業者や職別設備業者、あるいは定材業者と取り引ぎしつつひとつの工事を総合的に仕上げてゆく機能です。その機能はもはや戦前的な請負業者のそれとは質的に異なるディベロッパーとしてのそれになります。年間に何百億、何千億という工事を消化する元請のうち、この機能をそなえているのはごく限られたものにすぎません。生産、労働関係の近代化こそ日本の建設業の近代化の焦点ですが、戦後の著しい成長にもかかわらず、それはなお不徹底にとどまっているのです。

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