建設企業経営の身軽さ

建設業の特殊性は、またその企業経営の性格を現定しています。建設業の企業経営の性格としてまず注目されることは、経営の身軽さです。受注生産、一品生産、移動生産等による建設需要の多様性、不安定性や生産の断続性は、建設業の機械化を遅らせ、機械保有の増加は稼動率を低め、固定費の負担を重くする危険が大きいため、機械器具などの固定資産保保有は少なくなります。しかし原材料の買付は工事受注後工程に応じて行なわれるため、原材料保有を原則としてもちません。原材料にあたるものは未成工事支出金勘定に含まれ、すでに使用が決定しているか、使用中のものだけです。さらに労働力も常時直接の形で経営内に保有していません。労働力調達能力と工事監督能力をもつ親方とか世話役や機械オペレーターなど、少数の基幹的労働者等ごく一部の例外的労働考を除き、元請と労働者の間には直接の雇用関係はありません。工事に際しその都度工事に応じた労働組織が臨時に編成され、その労働力は下請により供給されています。原材料も労働力も工事がなければ必要でなく、工事ごとにその組合せが違っているため、それらを常時保有することは、資金を固定化するだけだからです。このように建設業は基本的生産要素をできるだけ切り離しており、経営の身軽さを特色としているのです。

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建設業の経営の身軽さは、初期投資をあまり必要としないことを意味します。必要とされる資本としては流動的な運転資本の方が大きく、これも前金払、中間払等の慣習的支払方法のため多額ではありません。したがって若干の工事経験と対人的な信用があれば容易に営業をはじめることができるため、建設業の参入障壁は低く、過当競争の危険が常に存在します。また必要資本額が少ないため、資本調達は多くが個人、同族の範囲になります。建設業の大半は個人企業で、会社形態をとるものも実質は個人企業と差のないものが少なくないのはこのためです。
経営の身軽さは経営組織にもみられ、建設業の経営組織は簡易で機動的です。町場の大工棟梁のような零細な規模の経営では、現場が一つのものが大部分で、現場組織がほとんど全てで、経営組織は施工組織と未分離であり、工事と経営に関する権限はすべて業主個人に属しています。規模が拡大し、複数現場を同時に施工し、経営が経営としての継続性をもってくると、業主は一つの工事だけにかかりきることができなくなり、業主と同様の機能を果たす下級の代理人が各現場に必要となります。単なる工事管理にとどまらない経営管理の必要がうまれ、経営組織は施工組織と分離してきます。しかし現場という生産物の単位が経営に対して持つ比重は大きく、しかも現場業務は多直的で定型化しにくく、素早い判断がたえず必要とされます。したがって現場にはその決定と行勤において本部に対しある程度の独立性が要求されると同時に、現場業務の成否は現場主任の能力の如何に左右されるところが少なくありません。そのため現在の建設業者の多くは比較的簡易な本部と現場組織をもって運営されていますが、現場と本部の責任権限の配分は一様ではありません。企業により同一企業内でも工事により、人により、事柄により様々です。業主にとり一定の利益が保証され、工事完成にあやまりがなければ、工事過程には干渉しないという個人企業的な代人制から、資機材の購入運用、下請の決定等を本部で集中的に管理するものまでその幅は広くなります。そして従来は現場優先主義が主体でしたが、経営規摸の拡大、施工技術の進歩、保有機械の増加、近代的管理方法の導入等は経営の一体的管理の必要と範囲を増大し、大規模業者では権限の集約化を強めています。しかし住宅建築を主とする中小零細業者にあっては、依然として経営組織が施工組織と分離していないか、分離しているとしても現場組織が大部分です。
また会計管理の方法にも特色があり、建設業の経営組織は自然発生的な事業部制に似た面があり、個々の工事の企業損益に及ぼす影響が大きいため、現場中心の個別的原価管理が会計管理上重視されています。そして本部の現場に対する統制も、生産活動がはじまる前に決定された請負価格を基礎とし、事後原価の経験を参考にして、多くの場合本部と現場組織の協議により決められた実行予算により行なわれます。実行予算は費用支出の基準となり、現場の経営評価もこれにもとづいてされるのが普通です。しかし建設物の原価は、建設物に個性があり、同一用途構造の場合でも建設現場の地形、地盤、隣地条件等自然条件により大きく左右され、また事前に正確に予測することができにくい要素が多いため、標準原価の設定は困難です。しかも実際の施工を下請に依存しているために元請けにとっての原価は下請の行なう部分工事の支払総額という形で発生する部分が多くなります。そのため建設業の原価計算では他産業では経費のなかに含まれる外注加工費が外注費として別立ての原価要素とされています。しかし、労務費や材料費のなかにも、真の数量や単価が不明で、部分工事の支払総額しかわかららないものも少なくありません。このことは建設業の原価形成が多分に商業的性格をもっていることを意味し、原価は下請取引の是非により影響されるところが少なくありません。そのために建設業の原価管理の重点が下請単価の切下げにおかれ、特に請負価格が低く、実行予算が少ない場合にはこの傾向が強くなります。有利な下請取引をする現場主任が有能であるとされ、工程の改良等による真の意味における原価引下げに対する感心を弱めることになりやすくなります。また生産が断続的で現場中心の原価管理に重点がおかれるため、建設業は期間計算になじみにくい性格があります。建設業では期間計算は個別工事の損益を集計したものにすぎません。近年における工事単位で処理の終わらない機械や鋼製仮設材のような耐久的生産手段の増加は、工事毎の損益と企業全体の損益の関係を複雑にし、経営管理方法の進歩と相侯って全社的な総合原価管理の必要を増大させています。しかし住宅生産を主とした中小零細業者の会計管理は遅れており、現在もどんぶり勘定的色彩が濃くなっています。さらに建設業の経営が受け身的であるということも特色の一つにあげられます。建設業は受注生産で、設計施工の場合を除き、施工は発注者側で用意された設計、仕様にもとづいて行なわれるのが普通であり、施工に際しても施主や設計事務所の監理をうけ、責任施工という態勢になっていません。のみならず生産設備や材料が施主、の貸与あるいは支給であったり、材料や下請が施主により指定される場合もあります。そして契約でも片務的で、お抱え大工、棟梁的な発想の名残りが残っており、発注者追随的です。そのため技術の開発や新材料の採用において主体性に乏しく、営業活動においても自らの製品や技術を売るという性格はきわめて弱く、また納期についても施主の都合により左右されるところが大きくなります。このことも建設業の性格にもとづく企業経営の特色といえます。

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