住宅計画方法論

一般庶民住宅の計画を建築学の分野に持ち込み、その調査研究の展開と計画方法論の樹立に大きな貢献をしたのは西山外三でした。彼は昭和12年から敗戦までの数年間、国民一般の住宅を対象として、研究面では既存住宅の平面形式の研究、住様式の研究から、さらに国民住宅の計画的建設の方式に関する総合的な提案を発表し、また実施面では住宅営団の技師としてその規格設計の立案に参加するなど、幅広い精力的な活動を行ないました。これは単に住宅そのものの発展に貢献しただけでなく、建築学の分野において、計画学というものをはっきりと確立したものとして評価されます。建築家の社会的責務に関する歴史的認識に立って、それまでほとんど研究の対象とされていなかった一般住宅を計画にのせることを意図したのです。住み方調査という研究方法は、以前同潤会において建設されたアパートの検討として行なわれたことがありましたが、さらに幅広く都市の一般住宅について行ない、特に就寝方式や食、寝関係について分析されました。

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それまでの一般的通念では、畳敷きの日本住宅はその部屋の用途が固定せず、ふとんを敷けば寝室となり、食卓を出せば食事室になるという融通性、転用性が長所と考えられていました。17年に建築学会住宅問題委員会によってまとめられた、庶民住宅の建築学的研究も、基本的にはそのような考え方に立脚しています。しかし、西山はこれに対して疑問を持ち、異論を唱えました。大邸宅ならいざ知らず、一般小住宅では部屋の機能はむしろ固定しています。特に会事室は、一般の長屋でも小住宅でもほとんど小室に固定していて、ここでは就寝が行なわれません。これを西山は豊富な実態調査によって示し、食寝分離は一般小住宅における基本的住要求であり、これを実現しえない住宅は基本的な秩序を保ちえないものであることを立証したのです。この考え方は住宅営団の規格設計にも全面的に採り入れられ実施されましたが、これは現状の理解にもとづいて今後の方向を定めるという計画の考え方の見事な結実です。
しかしこの食寝分離論は、単に実態調査の積み重ねによって自然に導かれたものではありません。当時太平洋戦争に突入していた日本は、すべての国家体制が戦争の遂行に向けられ、衣食住全般にわたる国民生活は次第に圧迫されて行ったのでした。住宅建設の統制ももちろんその例外ではありませんでしたが、日本住宅の転用性賛美論は、意図すると否とにかかわらずこの住宅の水準を圧迫して行く方向に利用される危険性がありました。こういう情勢の認識の上に立って、国民の生活の水準を守り、さらにこれを確保向上する方策の理論的支柱として、食寝分離論は重要な意義をもっていたのです。
戦時の統制経済は、国民が自由に住宅を建てることを禁じてこれを政府の統制下に置きましたが、一方これは、庶民住宅の計画的建設への気運をも醸成しました。多くの建築家から、国民の住居の水準向上やその建設方式に関する提案が出されましたが、西山が昭和16年に発表した庶民住宅の建築学的課題は、この計画と建設に関する総合的な提案として、特に計画というものの考え方を示すものとして価値があります。その計画方法論を簡単に記すと次のようなプロセスとなります。まず国民の住居の状態やその中における住生活の状態の広汎な調査研究を行ない、それにもとづいて住宅の基礎的条件を明らかにします。次いでそれを実現するための計画基準を定め、住宅の型を設定し、それに則って標準案を作成します。さらに、その案による住宅の居住状態を検討し、フィードバック的に再検討を繰り返して、規格設計を完成させるという過程です。これは当時庶民住宅の計画にほとんど方法論をもたなかったがために、大邸宅を縮小した転用論などが幅を利かせていたのでしたが、これに対し現状にもとづきその発展をはかった科学的計画論をうち立てようとしたものであり、しかも、その各プロセスを不完全ながらみずからの研究によって示しました。いわゆる住み方調査はその最初の段階であり、食寝分離論や就寝方式の設定などは計画基準に相当し、型の設定、標準案の作成は住宅営団における設計や著書である国民住居論攻における提案によって示したのです。これは、そのプロセスにおいて現代の計画学の考え方と基本的に通じるものであり、もちろん調査技術や検討方法、統計処理方法等において未熟な点が見られるのは致し方ないとしても、その計画方法論の樹立は極めて現代的な意義をもつものといえます。

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