住宅調査と標準設計

公営住宅は木造の応急住宅から出発しましたが、昭和22年には鉄筋コンクリート造が試作され、その後建設量は年々伸びて行きました。公営住宅は全国いたるところ、大都市に限らず中小都市や町や村においても建設されました。したがってその質を一定以上に維持するためにも、基準が必要とされるのですが、鉄筋コンクリート造ともなると,もはやその建築技術は一片の基準では指導しえません。特に戦時中から戦後初期にわたる数年間は、一般の建築において本格的鉄筋コンクリート造は途絶えており、地方においてはこれを扱いうる技術者もほとんどいませんでした。このような事情から、鉄筋コンクリート造公営住宅は、建設省において標準設計が作成され、図面や計算書や仕様書も準備されて、地方でもそのまま建てられるような制度がとられたのです。一般に標準設計というと、大量生産のためのものと考えられがちですが、公営住宅では、全国的にみれば大量であっても、その建設方式は、従来の現場生産を主体とする請負工事によっています。したがって、この場合の標準設計はむしろ地方に対する技術指導、水準の統一、そして設計技術をもたない地方においても建設しうるための図面の量産という意味が主体となっていました。しかしそれと同時に、これが住宅計画の進歩につくした役割も大きものがありました。

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標準設計の作成のためには、建設省から日本建築家協会を通じて著名な設計事務所に委託され、また建築学者の参加も得て研究成果の注入が行なわれたため、その計画は意識的に発展させられたのです。初期には量的に主体をなしていた末造公営住宅では、計画基準があるのみでその設計は各府県や市町村に任されていました。しかもこれが中央に集められることも、互いに公開される機会もなかったため、その計画のほとんどは旧態依然たるものであったし、ある自治体での新しい試みもそれが他に影響を与えることがありませんでした。これに反し耐火造のものの進歩は意識的に図られて行ったのです。
昭和22年に初めて試作された型は、戦前の同潤会アパートにならって作られましたが鉄筋コンクリートの構造体の中に畳敷きの室をはめ込むという考え方であり、平面計画の点で特に新しさはありませんが、構造的には当時の経済状態を反映して徹底的にロ一コスト化がはかられ、この結果壁構造による画一的形態が誕生することとなったのです。
戦後の住宅復興の気運に対応して、住宅の調査研究は当時にわかに盛んになっていました。特に東大吉武研究室の一連の住み方調査は、戦時中の西山夘三の研究を受け継ぎ発展させたもので、これが公営アパートの標準設計に大きく貢献することとなりました。
昭和26年度の公営住宅標準設計は、住宅計画の発展の上で特筆すべきです。この年は研究者、建築家、行政官のかなりの数を集めた委員会が作られ、その討論によって標準設計が作成されましたが、これはすべての案件を一応客観化するうえに有効でした。特に吉武研究室の基本設計になる51C型は、以後の公共住宅の平面形式の基本となりました。この型は、いくつかの提案を含んでいます。
食寝分離の実現のため、食事は台所を広くした場所、いわゆるダイニングキッチンで行なう。
畳の室は寝室と考え、それぞれの寝室が独立しうるよう、各室に布団の入る押入を設ける。
2寝室間の間仕切りは、隔離性を高めるため、壁とする。
寝室の寸法は、必ずしも従来の畳の寸法にしばられず、布団および家具の配置から考えて適正な寸法とする。
行水ができるように、水の流せる場所を設ける(当時公営住宅に溶室はありませんでした)。
各戸に物置を設ける。
これらの主張は、いずれも住み方調査によって裏付けられていたところが強味でした。特に食寝の分離と就寝室相互の間隔は、この平面の最大のねらいといえます。食寝関係は、住戸内のスペースの性格を支配するものとして、戦時中の西山夘三の住み方読査でもその主要な問題となっていましたが、吉武研先室では特に少数例の精密調査をもとにして、2室、3室の小住宅の寝室分解過程に及ぼす平面構成の影響を詳細に追求したのです。そして食寝分離、寝室分解を共に実現する手法として、戦時中の営団住宅では小規模食事室の形式がとられていましたが、ここではダイニングキッチン形式が採用されたことも特徴的です。当時ダイニングキッチンが決して一般的だったわけではなく、むしろほとんど海外の存在としか考えられていませんでした。しかし労働者住宅などの住み方調査においても、数こそ少ないが台所を増改築してそこで食事をしている例が存在すること、しかもそれが住生活に対し意欲的な世帯において見られることが、この形式へ踏み切らせるモメントとなりました。つまり、少数の例であってもそこに今後伸びようとする芽を見いだしたからにほかなりません。しかしこのダイニングキッチンが直ちにその意図通り使いこなされたわけではありませんでした。食事には畳の部屋が好まれ、板の間はただ広々とした台所としてしか使われない住み方も少なくありませんでした。しかし年月とともにこれは次第に人々に親しまれ、これに適した椅子テーブル等も出まわり、やがてはアパートといえばダイニングキッチン形式であることが当然と考えられるまでに至りました。数年後の公団住宅調査では、この形式はすでに完全に人々のものとなって自由に使いこなされていることが見られます。
居室間の間仕切りについても同様のことがいえます。壁一枚でいささか強引に仕切ったこのプランは、当初は決して好評とはいえませんでした。居住者からは通風が悪いとか、冬は北側の部屋が寒いとかの苦情が出たし、またこれを建設する自治体では設計変更して壁をふすまに変える場合が多くありました。しかしこれとて、次第に家族内における個人の独立性が尊重される気運に伴って、特にホワイトカラー層の多い公団住宅などでは、子供の勉強室の確保のため、隔離性は歓迎されるようになって来るのです。住み方調査から標準設計へ、というプロセスは、このように、決して現状べったりの要求追随ではありませんでした。むしろ調査は、現実の住生活の動向を知り、今後の住生活の方向を考察し、その実現の可能性を推し測るというところに、計画上の基本的な意義があったのです。そしてこのためには、現実の住生活を仔細に調査して、住要求と現実の住宅の形との間に生じた矛盾を発見することが有力な手段とされ、こうして調査の考え方と手法は次第に発達して行きました。

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