やどかり意識

自分の家を持たないで、他人の家に住まわせてもらうという所有関係は、本家に帰属する住宅に別家が住まわせてもらうという主従関係において中世からありました。応仁の乱以後、この主従秩序は貸借の経済関係に変質する傾向が顕著になっていき、借家の監觴といえます。江戸時代の商業資本の発展と江戸の急激な人口集中は、庶民を対象とする貸家経営を発展させ、長屋住居は借家の代表的形式となりました。長屋住まいの店子とその大家とは、封建的な上下関係を保ちつつも基本的には、はっきりとした経済的貸借関係でした。ここに、近世都市住民のやどかり意識が芽生え成長します。火事と喧嘩は江戸の華といわれましたが、火の手があがると長屋住人は家財をまとめてさっさと逃げ出しました。大八車はそのための発明といわれますが、家は焼げるものという焼け小屋心理が、長屋住まいにはありました。気楽に家を放棄できるのもやどかりなればこそでした。

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貸家経営は、明治後の近代資本主義体制下でさらに発展し、大正頃には全盛に入りますが、戦前大阪市の借家率は90.1%、東京70.5%の状況でした。玄関や窓に貸家と斜めに札を貼る空家は、ちょっと探すと容易に見つかり、借家階層も大学教授、官吏、会社員から労働者にいたるまで様々であり、それらの階層に対して手頃なものが空いていました。家族の成長、社会的地位、経済的余裕や勤め先に応じて、適当なものに住みかえていきます。なかには気に入った家を転々と住み歩くことが趣味の人さえいました。こうなると居住選択の自由と合理性は、はるかに借家の方に高くあり、持家には財産観と自己満足としか残りません。
戦後この状況は一変しました。敗戦直後400万戸の絶対的住宅難時代から質的住宅難に移行したとはいうものの、人口の都市集中により大都市の住宅難は、一層激化の傾向を示していました。この間、住宅政策が直接カバーする施策住宅の比率はきわめて低く、大部分が民間自力建設によりますが、それもそのための施策のないまま持家建設に終始し、今日大都市で手頃な借家を得ることは奇跡に近く、その結果が既述のように戦後大都市の高い持家率であり、所有意識調査例でも40%から90%の持家希望率となってあらわれていますが、これも住宅事情を反映する意識です。もっともこれも地域階層的に異なり、給与、公共住宅入居者ほど低くなり、意識以上の具体的取得計画となると、持家以外の住居を求める割合が1/3から2/3にもなります。このような実態は、むしろ潜在的なやどかり住意識の発展を予想させるものといえます。また賃貸住宅供給の合理性は、住宅政策面においても、居住方式面においても、戦前の状況よりはるかに望まれるべきものとして求められるのが、今後の都市生活事情であろうと思われます。
一つには一般の都市勤労大衆にとって、住宅の自己建設、特に宅地取得が、ほとんど不可能な時代になりつつあること、また金もうけ本位の零細不動産企業にたよるとしても、それらは低質の不良住宅をやたらに都市縁辺にスプロールさせるにすぎないことなど、国民の住居水準を保障する能力は、公共的なものに期待せざるをえません。
また労働力の流動性という観点からみても、大都市圏に集中する労働人口は絶えず流動しています。さらに大都市圏の連担するいわゆるメガロポリス内においては、その流動は活発です。しかし、それが現在の住宅事情下では、常に住宅取得難につながっています。このような事惰の下での持家所有は、住居にしばられる傾向を生じます。その点移動の自由に富む賃貸住宅を整備することは、今後の都市に最も重要なことです。
さらに賃貸住宅、特に公共施策によるものは、高層化、計画性等の面で、都市における土地利用の合理性を期待しうることにおいて、個人の思惑次第にバラバラに建つ持家佳宅より、はるかに有利です。このことは直接都市計画の利害につながります。その他、住宅難解消のためには、大量の供給、そのための住宅生産の合理化が望まれますが、この面でも賃貸住宅は合理性を多く含んでいます。
以上のような諸点から考えると、都市の住宅事情の現実に発展しつつある国民の住居観の把握と住宅計画、生産との結合の重要性が認められなければなりません。

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