土地供給側の特性

日本の場合には、条件として限界地の所有者が農家であって、宅地供給とはまったく異質な農業によって生計を立てることができるという制限があります。地価が農業上の評価の水準を越えるようになると、農家の意識は潜在宅地地主に変質しますが、表面は依然として農家です。土地を売らなくても生計が立てられるために、利子率を越える地価の上昇のつづくかぎりいつまでも待てばよく、兼業農家の場合でも、現在のように雇傭の機会が多いと兼業取入を加えて生計が立つかぎり、土地を手離さなくても生活は成り立ちます。その上、さらに物価上昇の影響も加わります。資金を活用する方法に疎い農家にとっては、土地を売ることは、増価する資産と滅価する資度との交換を意味します。

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この宅地供給を抑制しょうとする農家の意識をさらに強化するものとして、土地所有の零細性という要因が加重されます。地価が農業上の評価を越えるようになると、農家の性格は本質的にはもはや農家ではなくなり、潜在宅地の所有者として地主的性格をおびることとなります。しかし、地主といってもその所有面積は狭く、所有耕地面績が2ヘクタールを越えるものはきわめて少なく、平均で1ヘクタール未満、0.5ヘクタール程度のものが多く、このわずかな土地を売却してしまえば、もはや地主ではなく、農家ではなおさらありません。土地の切り売りの場合でも、農家としての自立性はそれだけ失われるのです。巨額の土地売却代金、それも実質的には年々滅価するのですが、代金をいだくことができても、祖先伝来の生業は失うのです。売却代金を確実に運用できる自信のある少数の人は別として、大部分の農家にとってそこに恐怖があります。土地は維持することが安全なのです。
以上は耕地に視点を当てた考察ですが、都心にはなお土地が残っています。土地の所有者は農家のなかでは比較的富裕な層であり、そうでなければ不在市町村地主です。生活上に不安がなく土地を売る動機の最も少ない階層です。地価の上昇率が利子率と物価上昇率を越える場合に土地を売る動機は乏しい。
以上を要約して、昭和三○年以降の経済発展とその大都市集中による土地需要の増大という条件、次に物価の上昇という条件、そのような環境条件下にある零細土地所有を基礎とする農家の潜在宅地地主への変質という条件、これら三条件が結びついて、土地を今売ることは損だという意識をがきたてて、地価の上昇率が利子率を越える状況をつくり出しました。持越費用を必要としない土地は、元来、地価上昇率が利子率を越える場合に、ただちにその商品としての対象性を失う性質を持っているので、地価はさらに激しく上昇せざるをえませんでした。つまり、大都市圏の地価の上昇は、外生的条件としての激しい経済発展とその大都市集中という環境条件の下において、土地所有一般にあてはまる地価の運動法則と日本の潜在宅地の所有者としての農家の特殊性の結合にょって説明されるものです。
純粋地主の場合に戻って、地価上昇率があまり高くて、原則として土地が売買の対象性を失った場合に、地主は所有地をどのように取扱うでしょうか。先にかれらは宅地供給を専業とする地主であると仮定しているのであるため、土地を売らなければ所得は得られません。ところが土地は商品性を失っています。この矛盾は土地の貸付けに吐け口を見出さざるをえません。貸付形態の場合には、限界地が外側に延びるにしたがって、その内側の土地の地代を高めて、損失をまぬがれることができるからです。貸付形態の一つの特色は、スプロールが生じにくいことです。土地を失うことを恐れる必要もなく、貸さなければ土地の経済価値を発揮させることができないわけだから、便利なところから先に貸付られ、都市化現象は濃密な同心円的な外方への拡大となるはずです。
しかし、貸付形態も安定を欠き易く、その土地の上には動かしにくい他人の家屋が建てられます。その耐用年数は長く、借地契約期間を耐用年数よりはなはだしく短くすることはできません。そして、地価上昇率が高くても、それに伴って現実の借地料を高めるような契約を取り結ぶことは容易ではありません。その上、物価も上昇するという条件が加わると、貸主としては、少なくとも物価上昇に相当する地代上昇くらいは確保したいと期待するはずです。このような条件を契約に盛り込むことも容易ではありません。
以上は一般論としての推論ですが、大土地所有の場合には、その所有地は多くの借地人に分けて貸付られることになるので、順送りに部分的に借地期間が満期になるとき、現勢に合せて地代を改定すればよいのですが、日本のような零細所有の場合には、貸付けてしまうと地代は上げられないのに、地価上昇も物価上昇も激しいので、致命的となります。このようにして、貸付けの対象にもなりにくくなった土地を、なんとかして貸付けの対象にしょうとすれば、売買の場合同様、長期の地価と物価の上昇を見越して、それを先取りすることとなります。そして、土地の貸付対象性もまた失われます。
日本でも戦前には、土地を貸す者があり、借地人がそこに持家を建てることががなり普遍的な形態として存在しました。当時は物価は比較的安定しており、大都市の場合でも人口集中速度はそれほどでなかったので、地代も安定していて土地は貸措の対象になりえました。ところが戦後になると、今日まで物価の上昇傾向はやまず、高度成長段階に入って以降は、土地の貸付対象牲はほとんど失われました。戦前から貸付ていた土地の場合には、地代の変更が困難で、物価に対しても対応ざせることができなくなり、土地貸借は経済行為としての意味を失いました。こういう状況の下では、特別の条件でもないがぎり新借地契約が可能なはずはありません。借地契約が行なわれる場合をみると、売買に等しいほどの権利金必要で、借手の手持ち資金額の少ないことを考えて、賃借の形をとっているにすぎず、実際は売買に近いものです。こうして、大都市圏の土地は売買や賃借など、いわゆる経済行為の対象になりにくくなってしまいました。土地は多数の所有者に所有されているのに、あたかも土地独占の下にあると同様な供給条件にあるわけです。

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