公共事業に伴う事業損失

行政作用は、究極的には国民の福祉のために様々なサービスを提供することを目的とする活動です。しかし、その反面で、公共事業用地を確保するために個人の士地を収用するなど、行政が行なわれる過程において、個人の財産を取得したり、あるいは財産の利用方法に制限を課す必要が生じます。このように、行政作用の過程で直接に個人の財産に特別かつ偶然の犠牲が加えられたときに、これを補充する制度が損失補償です。憲法でも、私有財産を公共の必要がある場合に収用し、または制限することを認めています。しかしこの場合でも、特定の財産権者だけが公共の名の下に犠牲を強いられるのであれば、財産権保障の意義が失われ、また平等原則にも反します。そこで、公共事業の用に供するなど公共の利益のために財産権を収用された場合などに、国民の納税の義務を通じて得られた一般財源などから補償して、全体の手で特定人に負わせた犠牲を肩がわりして、利害の調整を図ろうとするのが損失補償制度の目的であるということができます。

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損失補償は、具体的にいくつかの種類に区別することができますが、公共事業との関係で特に重要な意味をもつのは、収用損失と事業損失の区別です。収用損失に対する補償とは、公共事業の用に供するために特定人の財産権を収用するような場合に、収用されることになる財産権の経済価値、つまり財産権の正常な市場取引における評価額に見合った金額の補償をいいます。一般に、損失補償は、この収用損失と、収用によって財産権者が通常うけると考えられる付随的な損失に対する補償、つまり通常生じる損失補償を客観的な評価額で完全に支払う完全補償でなければならないとされています。
公共事業の施行に伴って、損失とはやや性質の異なる損失が発生します。例えば公共事業の工事中、あるいは事業実施中に生じる騒音、臭気、日照障害などによる損失がこれです。飛行場周辺の住宅がジェット機の騒音により、もはや住居としては使用しがたい程度でその住環境が破壊されているような場合に、いまだ財産権を取り上げてはいないからといって、損失補償をしないでもよいという主張は是認できません。このように、公共事業の施行によって、事業周辺地に生じる土地、家屋などの物件の損害や営業上の損失、人身、健康、環境などに対する被害が事業損失とよばれています。
従来、公共事業に伴う事業損失の問題が、今日ほどに深刻な問題にならなかったのは、事業の規模が質量ともに比較にならないはど小さかったことと、事業の施行によって影響をうける者にとっても被害を補って余りある利益を直接間接に得ていたからであるといえます。これに対して、今日の高速道路、新幹線鉄道、空港などが付近住民に与える損害と利益との関係を大きく逆転させているのが一般です。&ところが、これまで事業損失は、不法行為の問題となりえても、損失補償の対象にはならないと考えられ、例外的に、土地収用法が公共事業用地の隣接地に関する工事費の補償を定め政府運用として、公共事業の工事に伴う損害が社会生活上の受忍の限度をこえる場合で、これらの損害発生が、確実に予見される場合の事前賠償を認めるのみでした。しかし、不法行為に関する法制度はもともと私的利益相互の調整を目的とするものであるため、公共事業の施行の碓保と権利者の利益保護という公益調整機能を果たさせることには限界があり、また事業損失のように社会的に、必然的に、かつ大量に発生する害悪な結果に適用することには無理があります。事業損失を不法行為の問題として処埋するには限界があり、また収用損失のように財産権に対する直接の侵害とも異なるということになると、両者とは別途の考え方によってこの問題に対処していかなげればなりません。これが結果責任の考え方です。つまり、国の活動に起因した損害であることと、その損害が国民一般に受忍すべき性質をもたず、特定人のみに生じた特別偶然のものであるために、被害者に負担させることが正義と公平に反して適当ではないこと、の二点を理由にして、損害の補填を考えようとするもので、事業損失も、そのひとつの態様であるということができます。
事業損失は、土地の収用とは異なる側面をもっています。第一に、土地の場合は権利が移転すれば、それで問題は一応解決するのに対して、騒音や日照など公共事業に伴う生活妨害は継続します。第二に、収用損失の場合の補償方法は、原則的に金銭補償ですが、事業損失については、むしろ被害の防除施設のような方法がより優れています。第三に、収用損失は客観的に補債額を算定できますが、事業損失は身体的、精神的被害など個人差があり、必ずしも客観的に定め難いという問題を内含しています。そこで、行政実務においても、その後のこの種の問題に対する対応の必要性と困難性もあって、昭和四二年には、完成した公共施設に起因した騒音、振動等を防止するための措置をするために必要最小根度の費用を負担することができる旨が定められました。
従来、事業損失が法制上等閑視されてきたのは、公共事業と個人の財産権の問題を土地収用の法理を中心にとらえてきたために、収用損失のみを対象にしてきたこと、実質的理由として、事業損失が公共事業の施行に伴う間接的な侵害による損失であるために、被害の態様、程度、被害避止の方法など確定することが技術的に困難であったこと、補償額が莫大になり、公共事業費の増大につながるという財政上の理由によるものと思われます。しかし、第一点の収用損失と事業損失が区別できることと、前者についてのみ補償をすべしということとが必然的に結びつくものではなく、逆に公共のための犠牲であるという点では、両者ともに同一の平面で処理しなければなりません。第三点の財政上の理由も、行政執行上の裏づけとして重要な問題ではありますが、この理由によって特定人に犠牲を強いるというのも正当ではありません。
事業損失を立法的に取り上げたのは公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律です。同法は空港周辺の一定地域を第一種区域、第二種区域、第三種区域に指定し、それぞれについて、防音工事費の助成、建築物の移転補償、土地の買上げ、生活環境整備などの措置を定めています。一般に、公共事業法は、同法を除き、環境問題、事業損失に対する配慮が少ないのですが、それを補う形で、様々な行政措置がとられています。その方法には、二つのものが認められ、ひとつは、幹線道路の環境保全に関する昭和四九年四月一○日の建設省通達、道路環境保全のための道路用地の取得および管理に関する基準についての立場で、これによると、道路周辺の環境保全のために、道路の各側の車道端から幅一○メートルの土地を道路用地として取得し、ここに遮音壁を設置し、あるいは植樹帯にすることを考えています。他は、公共事業から生じた生活環境被害を防止ないし緩和するための工事費の補助をする方法です。例えば昭和五一年二月一二三日建設省通達、公共施設の設置に起因する日陰により生じる損害等に係る費用負担についてが、このことを定めています。事業損失の処理も、立法的に整備するのが本来です。しかし、未解決の問題が多い現状では、当面、行政措置として可能な方法を考えていくべきです。

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