被害者側からの建築工事差止請求

建物が建築中で完成すると日照が妨害される場合に、被害者としては、建物の建築が続行されないように、建築主や建設業者を相手に、工事の差止めを求めることになります。
裁判所で、この差止請求が認められるかどうかは、日照妨害によって被害者が受ける不利益の程度が、社 会生活上我慢すべき程度を超えているかどうかの判断によって決まってきます。つまり、我慢すべき程度を超えていれば差止めが認められ、超えていなければ認められないということになります。この社会生活上我慢すべき程度のことを受忍限度といっています。
日照妨害の不利益が受忍限度を超えているかどうかを判断するための判断要素としては、日影規制違反の有無、被害の程度、地域住、加害の回避と被害の回避の可能性、加害建物と被害建物の各用途、被害者と加害者の先住関係、その他の公法的規制への違反の有無、交渉の経過、建築制限の合意の存在などがあります。そのうち日影規制への違反の有無、被害の程度および地域性が特に重要となります。

スポンサード リンク
間取り

日影規制に違反しているかどうかでは、日影規制は公法上の規制であり、形式的な地域的区分によって概括的に規制するものであるため、実質的な地域の状況に必ずしも常に適切に対応しているとはいえません。そのため、この規制違反の有無だけで、私法上の差止めの基準である受忍限度を超えているかどうかについての、必ずしも絶対的判断基準ではありません。この日影規制によって定められている日影時間の規制は、社会的合意の得られることを前提に決められたもので、過去の裁判例に比較しても必ずしも低いものではなく、日影規制違反の有無は、民事上の受忍限度の判断でも極めて有力な要素となります。したがって他の判断要素をも考慮して個々具体的に受忍限度を判断すぺきであることはもちろんですが、日影規制に適合する建築物の場合には差止めは認められにくく、これに違反する建築物の場合には認められやすいということができます。特に建築基準法一条により、日影規制も最低の基準を定めたものと考えられることから、日影規制に違反している建築物の場合には、原則として差止めが認められるといえます。
次に日照を妨害される被害の程度がどれだけかということがあります。一般には冬至を基準日として、午前八時から午後四時までを基準の時間帯として考えられています。
日照妨害の被害を考える場合に、土地への被害を中心に考えるか、建物への被害を中心に考えるかという間題があります。建築基準法の日影規制では、描象的一般的な標準として、各建物が南側に5mの空地を持っていることを前提に、第一種住居専用地域では一階の窓の中央1.5mの高さで相当の日照を受け、その他の地披では二階の窓の中央4mの高さで相当の日照を受けるという想定で規制していますが、民事裁判上では、具体的な被害建物の主要開口部を基準として考えられているようです。この考え方ですと、被害を受ける土地が更地の場合や被害者の建物の南側に大きく空地があって建物に対する日照妨害が少ない場合の判断が間題になります。将来のその土地の利用計画が具体化している場合には、やはりそれを十分考慮せざるをえないと考えられています。また、逆に、被害建物が南側の隣地に接してつくられていると、南側の建築主に擬制を強いることになりかねません。
さらに日照の保護の必要性が高いかどうかがあります。高ければ高いほど差止めが認められやすくなりますが、これは、地域性を抜きにしては考えられません。店舗や事務所が入っている高層ビルが立ち並んでいる地域や、ほとんど工場だけの地域では、日照を確保する必要性は、個人住宅ばかりの地城より少ないことは明らかです。一般的にいって、日照保護の必要性は、第一種低層住居専用地域で一番大きく、順次、第二種低層住居専用地域、第一種住居地域、近隣商業地域および準工業地域となるにしたがって少なくなり、商業地域および工業地域になると最も少ないと考えられています。また、商業地域と工業地域が建築基準法の日影現制の対象区域から除外されているのも、この両地域では、日照保護の必要性が少ないと考えられたからでしょう。地域性を考える際には、指定されている用途地域の名称だけで判断するのではなく、現実の土地利用状況や予測しうる将来の使用状況をも考慮して判断されます。例えば商業地域と指定されていても、実際は高層建物が少なく一般住居として使用されている低層建物が多い地域もあれば、また工業地域と指定されていても、実際は工場が少なく住居が多い地域もあります。そのような場合には、現実の土地利用状況および予測しうる将来の使用状況を十分考慮して判断されます。
加害建物の敷地の南側部分に空地があって、設計を変更したり配置を変更したりすれば北側建物への日照妨害の程度を滅少させることができる場合があります。他方、隣地の日当りについて十分考慮して建築しているので、技術的経済的にほとんど改善の余地がない場合もあります。この加害の回遅可能性があるかどうかは、受忍限度の判断においてかなり重要です。つまり加害の回避可能性がある場合には、差止めが認められやすくなります。逆に、被害者の側でも、被害の回避可能性が問題になります。例えば近隣の建物がほとんど二階建以上であるのに、被害者の建物は平家であるため被害が大きくなっている場合や、敷地の南側境界線に近づけて建物が建てられているため被害が大きくなる場合がありますが、このような場合には、被害者も建物を二階建にして二階で日照を受けるべきだとか、南側に自己防衛のための相当の空地をとるべきだと判断され、南側隣地に新たに建てる人にだけ、その皺寄せをすることは妥当でないと判断されます。この被害回避の可能性も、受忍限度を判断するための要索となります。
加害建築物が学校などの公共用の建物である場合と、マンションなど営利目的の建物である場合とでは、受忍限度の判断に差があるかという問題があります。一般には、差止請求での受忍限度の判断では、公共用の建物の場合には差止めがやや認められにくくなるようです。しかし、損害賠償の請求での受忍限度の判断では、ほとんど差がないと考えられています。被害の程度を建物で見るという民事裁判の立場では、被害建物の用途をも無視することはできません。被害建物が住居ではなく、事務所や店舗の場合や、会社の独身寮など昼間は居住者のいない建物の場合には、普通の住居の場合よりも差止めは認められにくくなります。しかし被害建物が公共用建物かどうかによっては、差止めにほとんど差がないと考えられています。
被害者が古くから居住していて長期にわたって日照を享受してきたのに、隣に高層建物が建築され日照を妨害されるという場合には、高層建物が先に立ち並んでいる側に新たに移り住んできた場合よりも差止めが認められやすくなります。また具体的な建築計画が明らかになっていて、それを知りながらその隣に移り住んできたという事情がある場合も、その計画されていた建築が実施された場合に差止めを求めるうえでマイナスの要因となります。
日影規制を除いて、日照に関係のある建築基準法上の規制には、大きさの規制として、建ぺい率、容積率による規制があり、高さの規制として、第一種低層住居専用地域内の建物の高さの規制、木造建築物の高さの規制、道路斜線制限、隣地斜線割限、北側斜線制限があります。これらの規制のうち、隣地斜線制限、北側斜線制限は、日照の保護を目的としたものですが、それ以外の規制は、間接的に日照保護の効果をもたらすことはありますが、直接に日照の保護を目的としたものではありません。日照保護を目的とした規割への違反はもちろんですが、建ぺい率など間接的に日照保護の効果をもたらす規制、その他日照とまったく関係のない公法的規制でも、これらに違反する建築については、適法建築の場合よりは差止めが認められやすい傾向があります。
加害者側と被害者側の日照についての交渉の態度も、受忍限度の判断に影響を与えます。被害者側が日照についての交渉を要求しているのに、これを無視して工事を開始したとか、建築工事差止めの仮処分申請事件で裁判所から工事続行中止の勧告を受けているのに、これを無視して工事を強行した場合などは、差止請求にプラスの要因となります。また道に、近隣被害者の多くが示談しているのに一人だけ示談に応せず、しかも示談した人に比較して特に示談できない理由があるわけでもない場合には、マイナス要因となります。
建築主側と被害者側の間に、高層建物の建築工事に着工する場合には被害者側の同意を必要とするなどの合意がなされているときには、これを無視して着工すれば、その合意に違反するとして契約上の差止請求権が認められることがあります。そのほか、そのような合意を無視して着工していること自体が、受忍限度の判断において建築主側のマイナス要因とされます。以上の差止めを認めるのに有利な事情が揃っていれば、差止めが認められることになりますが、実際には、差止めにプラスの要素とマイナスの要素が入り混っていて、その判断が難しくなります。いずれにしても、日影規制違反の有無、被害の程度、地域性を中心に、その他の判断要素をも合わせて総合的に考慮して、日照被害が受忍限度を超えているかどうかを判断することになります。

間取り
日照の法規則/ 建築基準法での日照保護/ 建築主事/ 建物の大きさの制限/ 敷地の重複使用/ 敷地の重複使用での既存建物/ 違反建築に対する処置/ 建築基準法と条例/ 指導要綱/ 建築協定/ 日照被害者の救済/ 行政上の日照保護規定/ 被害者側からの建築工事差止請求/ 違法建築による日照妨害/ 日影規制と差止/ 住居地域での日照保護/ 商業地域での日照保護/ 複合日陰と建築工事の差止請求/ 土地に対する日照妨害/ 日照の加害回避/ 公共建物による日影/ マンション同士での日照紛争/ 日照地役権/

       copyrght(c).間取りガイドドットコム.all rights reserved

スポンサード リンク

プライバシーポリシー