家主が地主から明渡し裁判を起こされたときの借家権

私は、Aという家主のアパートの二室を借りて、ずっと居住してきましたが、最近、地主のBという人から建物収去、土地明渡しの裁判を起こされ、私たちアパート居住者ら被告にされています。理由は、数年前に建物をこわして土地を明け渡す約束をAがBにしたというのです。Aさんにきくと、使用料という名目で地代はずっと支払ってきた、明け渡しという約束をしたことはないといっています。どうしたらよいでしょうか。

 これとによく似たものに、東京都中野区のI借家人組合の事件があります。
 このケースでは地主も気の毒でした。戦後間もなく、食糧難の頃、A地主は三〇〇坪余の土地をBが畑として耕作しているのを黙認していたところ、そのうちBはそこに養豚小屋などを建てるようになり、しばらくすると古材などを利用してバラックを建て、第三者に貸し出しました。
 地主は、Bから使用料という名目で若干の地代を受け取っていましたが、耕作を主目的で貸し、その土地上に養豚小屋が建てられただけでは、借地法は適用されず、存続期間(二〇年または三〇年)や、更新拒絶制限の保護規定などは適用されません。ところがこのケースでは、Bが借家をどんどん建てだした頃、地主本人は病気中だったのではっきりしたクレームもつけず、その後、地代も受け取ったり、受け取らなかったりということで、はっきり異議を唱える態度を示さずに過ぎてきました。従って、一般的にいえば、土地使用関係についての主目的が耕作から建物所有に変わったことを、地主も黙示的に承認したものと認められる状況にあり、地主側の勝目はうすいものでした。
 しかし、借家人の立場からすれば、地主側が裁判でまけるということで必ずしも安心していられない事情がありました、それというのは、それまで借家人側は家主のBからさんざんいじめられてきていたからです。些細なことで怒鳴りつけられたりするのは日常のことでした。
 このように家主と借家人の間がしっくりいっていないときには、家主が地主となれあいの和解をしてしまう危険があります。もし、家主が地主との間で、借地権のないことを確認したり、賃貸借契約を解除したりする内容の和解でも行なおうものなら、借家人は地主に対抗する何らの権限もないことになってしまいます。そういう例は決して少なくないのです。

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本問の場合には、過去に借地人が地主との間で明渡しの約束をしたということが、一つの争点になっているようですが、この点は次のように考えられます。
 契約の当事者が合意で契約を解除することは、一般に契約自由の原則からいっても当然できることになっています。借地法の適用のある借地であっても、地主と借地人との間で、合意で借地契約を解除することができます。
 しかし、そうした合意が成立したかどうかについては、裁判例はかなり厳格に認定する傾向が強く、「土地を明け渡してくれ」「何とかしましょう」程度の交渉径過ての口約束などは、ほとんど認められないのがふつうです。なぜなら、現在の法律制度の下で、借地権というのは、大きな財産権でもあり、当事者間の口約束程度で、確定的な意思を認定するのは危険だという考え方が支配的だからです。もちろん、口約束であっても、その約束の成立した時点から、借他人が地代も支払わず、明渡義務試行のために、いろいろの準備行為をしていたなど、その後の事実関係から証明できる場合もなくはありません。
 しかし、明渡しの約束をした後も地代を支払っていたという場合には、明渡時期を将来のものとする「合意解除の予約」と解されますが、借地契約の合意解除の予約は一般的には無効とされます。なぜなら、借地法第一一条は借地法の規宅に反する契約条件で借地権者に不利なものは無効と定められ、合意解除の予約というやり方は、借地法第二条の定める借地権の存続最短期間(木造でニ○年、堅固な建物で三〇年)の保障を破るために悪用されるおそれがあるからです。
 従って、どのようないきさつがあったのかはよく分かりませんが、何年か先に明け渡しましょうという話が、過去において地主と借地人間にあったとしても、その約定は必ずしも有効とみることはできません。
 この点は、借地契約存続期間満了後の借地人の更新請求をあらかじめ放棄させる意味をもつ「期間が満了したら必ず明け渡す」という約定についても同様です。
 仮りに、借地人と地主との合意解約なるものが有効に成立しているとしても、借地上の建物の賃借人には、その効果を主張し得ないことが判例上確立されています。
 最高裁判所は、地主と借地人が借地契約を合意解約し、地主が借家人に土地明渡しの請求を求めてきたケースについて「地主と借家人には直接の契約上の法律関係がないにせよ、建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、土地の賃貸人は、土地の賃借人が、その借地上に建物を建築所有して自らこれに居住することばかりでなく、他に賃貸して、建物賃借人にその敷地を占有使用させることを予想しており、建物賃借人は建物使用に必要な範囲で、敷地使用収益の権利を有し、この権利は土地賃貸人に主張でき、この権利は土地賃借人が借地権を放棄することによって勝手に消滅せしめ得ず、土地賃貸人とその賃借人との合意で賃貸借契約を解除した本件のような場合には賃借人において自らその借地権を放棄したことになるから、これをもって建物賃借人に対抗できない」としているのです。ですから、本問で、借地人が、地代不払いとか、用法目的違反とかの理由で借地契約を解除され、その解除が正当と認められるのでない限り、借家人の立場はそれほど心配することはないと言えます。
「使用料」という名目であれ、何であれ、土地貸借についての対価と認められる限り地代の支払い関係はあるわけですから、賃料支払いの点でも問題はないでしょう。
 和解が、最高裁の判例にあるように、土地賃貸借契約の合意解除の場合のように借家人に対抗できないことがはっきりしている場合は、比較的安心ですが、地主と家主がなれあって賃料不払いを仮装し、地主が借地契約を賃料不払いによって、債務不履行を理由に契約解除をしてきた場合などはなかなかやっかいです。
 賃料不払いによる債務不履行を理由に借地契約が解除されても、それが実質借地権を放棄したと認められる場合、借家人には対抗できるとした判例もありますが、やはり注意しなければなりません。民法第九四条は、相手方と通じてした虚偽の意思表示を無効とし、なれあいの虚偽の和解や合意を無効としていますが、そのことの立証は実際上はなかなか困難だからです。
 地主と家主の関係がなんとなくあやしくなったと感じたら、借家人としては、すぐ地主側、家主側にそれぞれ出かけて行って、充分に事情を問いただし、ほんとうに紛争があるのかどうか、現在の情況はどうなのか、を確かめておくことが必要です。
 このように機敏に調査をすることによって、地主と家主がまだ完全になれ合わないうちに、家主側から借家人にとって有利な書類の写しを入手したり、地主の家族から、地主と家主の交渉経過の一部を聴取することができて、それが後日の裁判で非常に借家人側を助けたという例も、決して少なくありません。
 家主が地代を滞納していることがわかったら、借家人側でなんとか都合して、家主に代わって地主に支払うことも可能です。この場合、借家人は代わって支払うにつき正当な利益があるのですから、当然、地主に支払った分を家主に請求できることになります。
 地主、家主側との交渉は、できるだけ借家人みんなであたるのがよく、また場合によっては、だれか第三者的な人物を立会人としてつれていくのも効果的なことかあります。なぜなら、一対二の交渉では、後で結局言った、言わない、の水かけ論になって、証拠上の裏付けが弱くなるからです。
 地主から家主と借家人の双方を相手どって土地明渡しの訴訟が起こされた場合、同じ被告側だからと言って、借家人側は安易に家主側に依存し、家主と同じ代理人に委任したり、主張や立証を家主まかせにしたりしてはなりません。家主と借家人の利害は必ずしも一致しませんし、また、前述のように、家主が勝手に地主との間で、借家人側に不利な和解をしてしまう危険もあるからです。従って、借家人側としては、家主とは別に自分たちの信頼できる弁護士を代理人に選び、独自に訴訟を遂行する姿勢を堅持しなければなりません。

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