横丁の通行使用を妨害されたときはどうしたらよいか

私は、マーケット内のいまの店舗を一〇年ほど前から借り受け、営業してきました。最近、家主が土地ぐるみで、あるビッグストアーに売り渡し、そのストアー側が、明渡しを求めてきています。新地主(家主)側は、数目前、このマーケットの真中を通っている通路のうち、いちばん繁華な通りに接している部分に塀をめぐらせて、通れなくしてしまいました。こうした行為は営業妨害ですし、実力で取りこわしてもよいのでしょうか。

 戦後間もなく駅前近くにできたバラックのマーケットはいろいろに変身しながらも、残っているところはまだまだあるようです。○○横丁などとよばれる飲食店街などはその適例です。しかし、東京でのこうした飲食街は、都市改造の荒波であっという問に消えていきました。
 渋谷のK横丁もその一つです。渋谷のK横丁は、戦後は忠犬ハチ公の銅像より有名でした。しかし、K横丁の明るい燈が消えてたいちばん大きな原因は、火事で店舗の大半が焼失したことです。
 ご承知のように、建物が消滅してしまえば、借家権は消滅してしまいます。K横丁の側では、ほとんどが全焼であり、どうするすべもありませんでした。火事は、原因不明といわれ、営業者の失った損失ははかりしれません。焼け残った業者たちが、なお頑張っているなかで、その土地を買い取ったM屋の強引な立退き交渉が始まったわけです。
 商店主は商店台をつくっていましたが、これは別に法人としてつくられたのてもない、いわゆる民法でいう権利能力なき社団です。街燈維持や、側溝整備などの共益費用分け、考案者から一定の名目で会が徴収していました。
 M屋は、三軒ほど最後まで残った業者に対する強硬手段として、ある日突然、K横丁のうら、D坂に通じる一方の出入口をトタンばりの塀をめぐらせ、横丁は、東側、かぎのての奥のようになった出入口だけしかない状態にしてしまったのです。
 私たちは、この横丁、通路の占有権はいったい誰のものであり、どうした権利の上にあるか、ということを検討しました。M屋の行為はたしかに、横丁内に残存する業者に対して、営業妨害的です。しかし、営業者の権利として、通路、横丁に対する権利がなければ、どんな申立てもできません。実力によるとりこわし等は、このケースでは許されないと判断しました。
 M屋の言い分は、横丁、通路を完全に閉鎖したのではないということでした。しかし、この例で、D仮に通ずる出入口に塀をめぐらせることは、ご本問の例と同じく、お客の数を文字通り激減させてしまうのです。通り抜けのできない横丁の人通りが激減してしまうのは自然の道理です。そうだとすると、この横丁の占有権はいったい誰のものか、そういうことが問題となります。地主の所有権が絶対であり、営業者側が無権利というのも道理に合いません。
 もちろん、地主側がもう一方の出入口まで閉鎖してしまえば、営業店舗は袋地の中にあり、民法の相隣関係の規定の準用ないし解釈によって、公道に通ずる、地主にとって最も損害の少ない部分を通路とする権利だけは保障されています。M屋が一方だけ明けておいたのは、もちろんこの法理があるからでした。
 しかし、横丁の営業者にとって、各店舗の賃借人とはいえ、この横丁の占有権はつきものであり、店舗賃借権に付随し、これと不可分な土地の占有使用権があり、これを侵害することは地主といえども許されず、一方出入口は明けていても、重大な侵害があると考えられます。私たちは、以上の結論にもとづいて、裁判所に、横丁通路の占有妨害排除、妨害物除去の仮処分を申請しました。

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民法では占有権という権利が保障されています。横丁の通行でも、店舗営業者が長年通路として共同で使用してきた状態があれば、とうぜん占有権という権利があり、保護されなければならないともいえそうです。たしかに橋の下に住みついた不法占拠者でも占有権という権利はあり、土地の持主といえども実力で立ち退かせるということは認められず、強制的に立ち退かせるには、ふつう訴訟手続によらなければなりませんが、占有権という権利は、その占有を正当ならしめる権利がなければ、その占有状態は結局、取り上げられてしまうわけで、いねば「かりそめ」の権利とでもいえるでしょう。ですから、横丁や、通路の占有権といっても、それが侵害された場合の原壮回復の必要性を考えるにあたっては、はたして本権があるのかどうか、本権の及ぶ範囲はどうう、ということが問題となってくるのです。
 一般に建物を賃借している賃借人は、その建物の敷地について、その建物を使用収益するために必要な範囲、程度において使用することができる、とされていいます。従って、庭園つきの借家を借りた場合、建物賃借権によって使用する権利は庭地部分に及んでおり、家主は勝手にこれをとりあげることはふつうできません。ただし、庭地つきといっても、家主の庭地との間に明瞭な垣根などの境界がないような場合、どの範囲まで使用できる権利があるか、建物の大きさ、賃借当時からの使用状態、契約時の了解事項などの諸事情から判断する以外ありません。
 店舗賃借権の場合、プロパンガス、タンクの置場とか、商品の置場とかの利用目的でその敷地を占有使用する場合もしばしばですが、契約書に説明していなくても、これらの敷地部分の占有使用権はある程度とうぜん認められます。
 横丁、小路の通路なども、店舗営業上、欠くべからざるものですから、一般的には賃借権による使用権が及んでいると考えてよいでしょう。ただし、それがどこまで及んでいるのか、大通りに通ずる一方の出入口を閉鎖することが、この権利を侵害することになるかといった点は、先にあげたように具体的なケースによって、判断がちがってくるわけです。本権の検討では、次に地役権という権利が成立していないかどうかも問題となります。
 地役権というのは、もともと二つの土地所有者の間で一方の土地の便益のために他方の土地を利用、使用する権利として認められたぬのですが、判例で最も多くあらわれるのが引水地役権と通行地役権です。従って、地役権の場合、元来は、地主対地主の関係で認められる権利であり、借地人対地主といった関係では認めないのが原則でした。しかし、近時、借地権の物権化という傾向に伴い、借地人も隣地の地主の間に合意で、通行地役に関する権利設定の契約を結ぶことは認められるという説が有力です。地役権の制限を受ける地主は、勝手にこれを妨害したり、廃止したりはできません。しかし、この権利は、登記しておかないと第三者には対抗できませんから、地主が第三者に売ってしまった場合、新地主に地役権の主張は通らないということになります。
 継続かつ表現の地役権、たとえば通路を開設した通行地役権などは、合意にもとづいてはっきり設定したものではなくても時効で取得することができます。時効期間は善意無過失の場合一〇年、悪意の場合二〇年です。この場合、善意悪意というのは、道義的なことをいうのではなく、自分に権利があると信じていたことに過大がなかった場合に一〇年ということであり、その他の場合は二〇年であり、通行地役の時効取得権などの場合は、たいがい二〇年と解されるでしょう。しかし、判例は、土地賃借人に地役権の時効取得は認めていませんので、建物の賃借人にも地役権の時効取得ということは否定されています。
 また、時効取得した通行地役権も、その当時の地主には登記なしに対抗できますが、時効完成後、その地役権のついた土地を譲り受けた新地主には、登記なしに対抗できません,時効取得といっても、近隣の人が空地を通行し、そこが長年にわたって踏み固まって道路になり、地半が近所のよしみで黙認していたという程度のものはまず認められませんなぜなら、時効取得の要件の一として、要役地(その土地部分を通路として必要としている土地)の地主がその通路を開設したことを必要とすると解されているからです。
 地主や家主が、横丁、小路に対する妨害を実行しはじめてからあわてて弁護士のところへとびこんでも、もう間に合わない場合が決して少なくありません。借家人の最大のよりどころが、横丁に対する占有権である以上、既成事実というものが非常に重要なボイントになってくるのです。
 ですから、地主、家主が何かたくらんでいるという情報や、それらしい動きをキャッチしたら、すぐに弁護士と相談し、先手をとって法律的な手段を講ずることが大切です。ですから、弁護士と相談するにあたっては、地主、家主との契約関係や、従来の横丁、小路に対する占有使用状態を明らかにする資料を、できるだけ集め、また、横丁、小路の現状を写真に撮っておくことを忘れてはなりません。
 地主、家主が横丁、小路の通行使用を妨害する行為にでることが、明らかに予想されるときには、占有権にもとづく妨害予防の仮処分命令を申請するのが効果的です。この種の仮処分申請を受けた裁判所は、ふつう両当事者を呼びだして審問しますから、地主、家主側に対する牽制としての役割をはたします。また、それにもかかわらず地主、家主側が実力行使に出るなら、申請の趣旨を妨害排除ないし占有回収に変更して仮処分命令をとることが、比較的容易になるという利点があります。
 前述のK横丁のケースでは、このような先手をとった対抗策がうてず、妨害行為が現実に行なわれてから、妨害排除の仮処分を申請せざるを得ませんでした。裁判所では数回、審問をくりかえしましたが、結局、この申請を認めませんでした。
 裁判所の疑問としたところは、店舗の営業者(賃借人)各自に、横丁全部の占有権があると解すべき根拠があいまいであること、通行客が滅っているとはいえ、閉鎖状態ではないので、仮処分で救済するだけの保全の必要性に乏しい、というものです。しかし、残存する店舗の数がもっと多ければ、裁判所の考えは変わったでしょう。M屋の圧力に屈して立ち退く賃借人が続出し、残った志願がわずか三軒になってしまったために、大半の買収土地を空地にさせておくM屋の経済的なマイナスなどを裁判所は、比較考量したに違いありません。
 仮処分がうまく行かなくても、営業上の損害を具体的に明らかにしてその損害賠償を本訴や民事調停で請求するみちもあります。しかし、実力でこわしたりすることは、建造物損壊、器物損壊などで告訴されたりしますから感心しません。
 こうした経験に照らしても、借家人側がもっと団結し、不測の火災などにも充分備え、個別交渉に応じないで、しっかりした体制ができていれば、こうした手ひどい結果にけならなかったでしょう。何と言っても、賃借人どうしの団結が決め手となるのです。三軒の店舗は、打撃にもめげず、その後も営業していましたが、結局は、明渡料、移転補償をとって立ち退いていきました。

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