狭小過密住宅

住み方を歪めている基本的な要因として、先進資本主義国の中でも類をみないほどの貧困な住宅政策、およびその結果である狭小過密住宅の拡大再生産です。暮らしの容器である住まいの一戸当り、一人当りの規模の小さいことは、そのなかの住み方を歪めずにはおきません。まず極小注宅といわれる一戸当り30平米以下、一人当り二畳以下といった最低水準の住まいでは、行動主体である住み手の動作がなによりも物理的に制約されるようなことが起こらざるを得ません。戦後の極度の住宅難時代には、三畳一間の部屋に7人家族が寝なければならず、そのため赤ん坊が窒息死するといった痛ましい事件が頻繁に起こりました。このことは空間の圧縮による最も突出した矛盾のあらわれです。現在は、たとえそこまでいかないにしても、4.5畳1間、6畳1間といった木賃アパートにおいては、よほど気をつけて動かないと、必ずどこかに身体をぶっつけるといった事態に陥ります。このような極小住宅においては、個々の住み手が異なった行動を同時にするということが難しくなります。個々の行動を構成する動作が物理的に干渉しあい、ひとりが何かをすれば、他の者もそれと同じ環境条件の下におかれることになるからです。そこでの行動は静的で動きの少ないものにならざるをえません。しかし、みんなが寝るだけの場所がなくて、子供や夫を寝かしたあと母親だけが坐って起きている、といったことが現在でもまだ存在していることを思えば、みんながそのようなことを強制される以前に、人間そのものが空間からはみ出すといった事態があることを忘れてはなりません。そのことは当然、一緒に住みたくても注めないという住み手の数の制約や、ひいては家族の分解にもはねかえってます。住み手の数の制約、そしてその動作の制約といった動作側の矛盾は、まさに同時に起こる行動と行動との空間的矛盾のあらわれです。

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片づけの問題としては、様々な家庭機器、物をそれらの機能にしたがってならべるということが不可能であり、とにかくそれらの容積が小さくなるように積み上げること、動作空間を拡げることが強制されます。よって、様々な物の使用に際しては、積み上げられたそれらの山をひっくりかえして目指す対象をひき出し、使用後はそれを片づけなければ次の行動に移れません。このため、使った物は、直ちにその片づけが強要されることとなります。つまりこのような極小住宅においては、なにか異なった行動をしようと思えば空間を転用すること以外に方法がないのであり、そのために必要とされる片づけは時間的に制約がきつく、転用にともなう片づけの面倒さが、さらに行動の種類、内容を限定します。このような片づけの面倒さは、連続して起こる行動と行動との間の時間的矛盾ともいうべきものです。
極小住宅の住み手は、当然経済的に貧窮しており、文化水準は低く、また労働条件も悪い。そのような住み手の住まいに求める機能は、体力の回復に最小限必要な、ただ食べて寝るだけの空間を提供するといった範囲をではありません。住み手の側のこのような寝ぐら的な要求、それに空間の圧迫による行動内容の限定、動作の制約は、住まいのなかでの生活をただ食べて寝るだけの生活、食寝体養的な住み方におしとどめます。
食寝分離の住空間構成は、主として極小住宅の転用にともなう、片づけ側の矛盾の解決として生みだされた行動様式を、空間的に定着させたものです。そこでは数ある片づけのなかでも最も抵抗の大きい就寝前後、食事前後の片づけを、まず空間的に切りはなすことによって時間的なゆとりを作り、次にそのなかでも、より抵抗の少ない就寝前後の片づけでもって、その他の行動との空間転用をはかりながら、食事のための空間を部分的ではありますが専用化させてきたのです。
ただし、このような食寝分離の空間構成は、必然的に寝室での集中就寝をひき起こします。就寝が家族の間で比較的調和がとれていればまだしも、早寝、遅起きといった家族間の就寝の時間的ズレ、あるいは病臥といった異状な就寝がそこに入ってくると、その動作間の影響を少なくするため、同し就寝のなかでも、そのなかから異質な性格をもつものが切りはなされてきます。家族のだれかがみんなからはなれて寝るという、いわゆる隔離就寝の行動様式が成立します。ただこの場合の行動主体である住み手の多くは、家族が一体化されている段階であり、そのなかで夫婦独自、あるいは個人独自の主体性は確立されていません。性行動によって最もその独自性が形成されやすい夫婦にしても、子供の成長する頃から分解しはじめることによって、その主体性を保つまでには至りません。ブルーカラーといわれる多くの労働者は、このような段階にあると考えられます。しかし一方で戦後の民主主義の風潮が、新しい感覚を生みだしたこともまた否定できません。それはホワイトカラーを中心とする、夫婦の主体性を尊重する考え方、あるいは子供の人格を尊重する思想の芽生えです。ここに夫婦が他の家族からはなれて寝る、成人した異性の子供達が互いにはなれて寝るという行動様式が成立します。いわゆる就寝分離といわれる空間構成は、このような住み手の就寝行動における動作側の矛盾の解決として、その行動様式を定着させたものです。
しかし、この規模の小住宅は、これらの住み手の求めるすべての行動様式を満たすだけのゆとりをもっていません。そして住み手が共稼ぎ、共働きであれば、さらに片づけ側の矛盾が強くおし出され、その対立は一層深まることになります。この場合、食寝分離を優先させるか、就寝分離をつらぬくかという住み手の選択が限られた空間で迫られることが多くなっています。この程度の小住宅は、いわば日本の住まいの平均的存在ともいうべきものであり、また公共住宅にしても、このあたりを標準と考えています。しかし家族が一体化した段階にあり、極小住宅の場合と同様、住まいはただ食べて寝るだけの場所であればよいとする食寝休養的住み方であればともかく、夫婦の独自性、子供の主体性を確保したいといった段階では、たちどころに大きな障害にぶちあたります。そこでは個々の主体性の尊重の裏がえしとして生じる家族団らんへの要求が、食事の充実といったかたちであらわれる結果、限られた空間のなかでは食寝分離、就寝分離の行動様式が両立せず、どちらをとるかで住み手を困惑させるからです。
現在、都市の労働者の多くは、この種の小住宅の住み手です。ホワイトカラーの一部には家庭団らん的住み方を志向するものもいることはいますが、住まいの狭い外枠のため、その多くは食寝休養的住み方の段階におしとどめられています。ブルーカラーの場合は、住み手の主体性条件として、まだそのような段階に達していないのが実状です。

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