動線理論

居間がとりあげられるまでは、住まいの中心で最も注目されたのは、台所や食事室でした。文化生活のシンボルは、ステソレスの流し台をはじめとする台所器具にあったといえます。冷蔵庫、準備台、流し台、調理台、ガス台、配ぜん台といった一連の器具の配列順序が詳細に研究され、その結果として、2列型、L字型、U字型、アイルランド型など、様々な配置型が提案されてきました。そして、これらの配置の基礎になっているのが、動線は最短であるのがよく、動作は最小であるのがよいとする能率主義的観点からの動線理論でした。確かに戦後の住宅改善運動、台所改善運動における動線短縮からのアプローチは、農家や商家のだだっぴろい台所を改善し、主婦労働を軽滅することによって大きな役割を果たしました。1日の家事作業の歩行距離がこれまでに比べると1/5にも1/10にも短縮されたと評価されたのは、その頃のことです。そのことが能率主義的観点を強くおしだしたのも無理はありません。

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当時の、例えば歩行距離10kmから1kmへの変化、作業の時間300分から100分への短縮そのことと、今日の精密な研究成果による1kmから900mヘ、100分から90分への短縮とでは、能率の持つ意味が全く質的に異なるものであることに留意されなければなりません。それは食物を調理したり、皿に盛ったりする行動の評価は、必ずしもそれに要した時間やエネルギーだけで計られるものではないからです。台所での行動、家事労働は、全体の住み方、住生活の構造と深いかかわり合いをもっています。例えば主婦が家政婦としての役割しか与えられず、ただ他の家族にサービスすることしか求められないのであれば、奉仕を要求する側からの能率は重要かもしれませんが、調理することが主婦にとって楽しみであり、また家族にとって団らんのキーポイントであるような家庭では、100mの動線短縮や、10分の時間短縮は、まさに五十歩百歩といわなければなりません。
またかりに能率が最重要視されるような家庭でも、台所だけの行動を、他の家事労働、掃除、洗濯、育児その他と切りはなして考えることができるかという問題があります。例えば夕食の支度時などのとくに忙しい時間には、主婦が台所作業だけに集中することはまずないといえます。そこでは一方で調理をしながら片方で洗濯機をまわし、さらに遊んでいる子供の見張りまでするといった多様な行動を展開するのです。能率性はまさにこれらの一連の家事労働を統合したときの評価であり、台所作業を単独でとり出していえるものではありません。夫婦が一緒に炊事したり、家族がみんなで後片づけをするような家庭では、1人が手を伸ばせば、どこでもとどくといったコンパクトで能率的な器具配置は向きません。そこでは、みんなが協同して動ける広いスペースと器具配置が必要です。また、あらゆる家事労働を一挙に片づけてしまうような共働き家庭では、そこに各種の家事労働の器具がもちこまれてきて、常識では考えられない配置になるかもしれません。台所器具の配置は、このように全体の住み方と深くからみあっています。

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