間借りと借家法の適用

民法の原則によれば、「不動産の賃貸借は之を登記したるときは爾後其不動産に付き物権を取得したる者に対しても其効力を生ず」とありますので、建物の賃借人はその建物について、その賃借権の登記をしておけば、新しい家主に対して、従前の賃借権を対抗できますが、その登記をしておかないと、第三者である新家主に対しては、賃借権を対抗することができず、その結果として、新家主は賃借人に対し建物明渡しの請求ができることになっています。このことは賃借人の地位をきわめて不安定なものとします。というのは、不動産の賃借人には賃貸人に対して賃借権の登記に協力せよ、と請求する権利がないものと解せられている結果、特に寛容、親切な賃貸人でないかぎりは、通常は、登記に協力しないからです。
「売買は賃貸借を破る」という法諺は、この場合の賃借人の不利不安定な立場を巧みに表現しています。
そこで、借家法では、建物取得者に対する関係で、借家人の立場を安定させるため、「建物の賃貸借は其の登記なきも建物の引渡ありたるときは爾後其の建物に付物権を取得したる者に対し其の効力を生ず」と規定し、建物賃借人はいったん入居した以上は、その後、家主が売買等の原因で交替しても、従前の賃貸借関係が新家主との間に承継されるように取り計らったのです。つまり、借家法のもとでは、「売買は賃貸借を破らず」という反対の原則が生まれたわけです。

スポンサード リンク
間取り

私たち親子三人は、数年前に東京に出てきて、家主Aの木造家屋の六畳と四畳半の二間を借りて住んでいます。ところが、最近、Aが家をBに売りましたので、Bが新家主として入ってきました。そして、Bは私たちに明渡ししてくれないかと請求しました。転居先もすぐ見つからないので断わりましたら、Bは、襖で仕切った部屋の賃借には借家法の適用がないから、家主の請求があれば、借家人はいつでも明け渡さねばならないのだと主張いたします。私たちは出ていかねばならないでしょうか。
この場合、借家法、詳しくいえば、借家法一条一項の規定が適用されるとすれば、新家主の明渡要求は、賃料不払等の債務不履行がある場合とか、あるいは、新家主の明渡請求が借家法一条の二の正当事由による解約に当たる場合等でないかぎりは、不当でありますから、明け渡す必要はあ りません。しかし、もし同条が適用されないとすれば、新家主が家を買い取ったという理由だけで、家主の要求に応じなければならぬこととなります。
この場合は、通常、「建物の一部の賃貸借に借家法の適用があるか」という形で論議されますので、以下、これを中心として考えましょう。
アパートやビルディングの一室 の賃貸借のように、その賃借部分がその構造上からも、また使用の効能上からも、独立した一棟の建物となんら異なるところがないような場合については、借家法の適用を認めることについて異論はありません。問題となるのは、本問の場合のように、日本式木造家屋の一部屋または二部屋の賃貸借の場合です。
木造家屋の場合でもその賃借部分が他の部分と明確に区別され、便所、炊事場等をも合んでいる場合は、アパートの賃貸の場合と同一視してもよいでしょうが、そうでない場合は、借家法の適用を否定 するのが、むしろ、通説ではないかと思われます。ことに、借家法のうちでも、いま問題にしている一条一項は、借家人と新家主との関係であって契約当事者間の問題ではないので、他の条項の適用の場合などと違って、構造上および使用効能上の独立性については、これを厳格に解釈しなければならないとする提案   もなされております。
判例の傾向としては、戦後、比較的早い時期においては、木造家屋の一部の賃貸についても、借家法の適用を認めたものが比較的多いのですが、その後は、むしろ、借家法の適用を否定する事例が多く報告されているようです。
例えば、近時、適用を否定した判例として、次のように述べているものがあります。「思うに、借家法一条にいう建物とは、必らずしも独立の建物であることを要しないが、少くとも、かの互に区かくされた建物の他の部分に関係なく独立して一世帯の居住に適するように作られたアパートの一室の如く、ほぼ独立の建物に準ずる構造と社会的使用価値を有するものでなければならないと解すべきである」とか    あるいは、「そもそも、借家法一条の規定は、登記の対象たり得る独立の建造物の賃貸借につき適用すべく、建物の一部の賃貸借に適用するにしても、当該部分が独立の構造並びに効用を有し、従って独立の所有の客休たりうる場合に限るべきであって、かような性質を具えない建物の一部の賃貸借については適用すべきでないと解するのが相当であるとするところ」
判例のこのような傾向の原因を考えるに、戦後間もない時期においては、独立した一戸棟の建物全部を借りることが困難で、一世帯全部の住居として、一部屋または二部屋の間借が相当に多く、このような間借住いも、いちおう立派な住居として通用し、したがって、これらの間借人を保護するた めに借家法を適用する必要性がきわめて強かったこと、これに反し、その後、住宅難がかなり緩和し、往時の間借住いが著しく減少し、間借住いが、恒久性をもつべき住居としては、ふさわしくないと考えられるようになり、このことが、間借に借家法の適用をさし控えようとするに至らせたのではないかと察せられます。
しかし、本問のように、親子三人の住居として、六畳と四畳半の二部屋を賃借し、現にこれに居住している場合には、たとい、その構造様式がアパートのように独立しておらず、住居としては必ずしも、ふさわしいものでなくても、借家法の適用を認めることが、むしろ、この法律の立法趣旨に適合するものと考えております。なるほど、このように考えれば、借家法一条一項によって、新家主に対して借家権を対抗しうる者が多くなり、それだけに、建物の買主が不利益をこうむることは事実ですが、そもそも、借家法が建物の引渡しに対抗力を認めようとする以上、引渡しによる公示力は、登記のそれに比較して著しく不完全なものであり、その不完全なことから生ずる取引上の弊害は、すでに、やむをえないこととして、法はあきらめているものというべきです。そして、居住権の保護、弱者の保護ということは借家法の立て看板であり、同じ居住者でも、経済力に乏しい看をより強く保護しようとする考え方は、借家法を解釈運用する者が一般に是認するところであるだけでなく、地代家賃統制令二三条においても、こころ憎いまでに、克明に表現されております。このような点を三思するときに、構造上および使用の効能上、独立した住居とは認めえない間借でも、やむをえず、これを住居として甘んじなければならない者は、まさしく弱者というべきであって、国の住宅政策がいまだ徹底していない今日においては、これらの居住者についても、借家法一条一項を適用すべきものと考えざるをえないのです。

間取り
借家に適用される法律/ 間借りと借家法の適用/ 下宿と借家法の適用/ 使用貸借上の建物と借家法/ 借家のための事前調査と注意事項/ 借家契約書の形式/ 契約書のない借家契約/ 借家契約の特約の効力一般/ 個人の自由を制限する特約/ 本当の家主でない者との契約/ 代理人との借家契約/ 借家契約の保証人/ 契約の締結と建物の滅失/ 家賃の値上げと値下げ/ 適正家賃の算定/ 家賃の算定方法/ 家賃の値上げ、値下げ請求への措置/ 家賃を増減しない特約/ 滞納家賃の取立/ 家賃滞納を理由とする契約の解除/ 過大な催告/ 家賃滞納と無催告解除の特約/ 家賃滞納と失権約款/ 家賃支払の場所と時期/ 家賃受領の権限のある者/ 家賃の受領を拒絶されたときの措置/ 家賃の供託原因/ 家賃の供託手続き/ 家賃供託金の還付と取戻し/ 家賃と修繕費立替金との関係/ 権利金の性質/ 権利金の算定方法/ 新築前の権利金の前払い/ 権利金と借家権の譲渡、転貸/ 権利金の取戻し/ 家賃の滞納と敷金/ 家主の交代と敷金/ 新家主に対する抵抗力/ 借家人間の対抗力/ 借地権の消滅と借地上建物の賃借権/ 借家の修繕義務者/ 修繕に関する特約/ 借家の乱暴な使用/ 借家の無断増改築/ 借家人の敷地利用/ 借家の改装工事/ 家屋の使用目的の特約/ 一部類焼した借家の明渡請求/ 請負契約の解除/

       copyrght(c).間取りガイドドットコム.all rights reserved

スポンサード リンク

プライバシーポリシー