家賃を増減しない特約

四年前に多額の権利金と敷金を払って店舗を賃借しましたが、その際、家主との間に、向こう七年間は家賃の増額をしないという特約を取り決めました。ところが、最近、この付近に地下鉄の駅ができたりして、たいへん発展しましたので、家主は、しきりに家賃を値上げしたいと要求するようになりました。そして、ついに今月に至り、来月から家賃を二倍にするから承知してもらいたい、と通告してきました。契約時に払った権利金の金利を基準にして計算しますと、今の家賃もひどく低いことはないと思います。特約の効力と家主の通告との関係ではどうなるのでしょうか。
借家法七条一項の本文は、所定の要件がそなわっているときは、契約の条件に拘らず家賃の増額または減額の請求ができる、と規定しています。したがってそれだけならば、当事者がどんな特約を結んでいても増額または減額の請求をおさえることはできない、つまり増額または減額しないという特約は無効だということになります。しかし、この条項には、一定の期間は家賃を増額しないという特約がなされている場合は、その約定に従うという意味の但書がついていますので、増額しないという特約だけは有効だということになります。増額しないという特約だけでなく、増額する場合の値上幅を制限する特約も有効です。そしてこの不増額の特約は家主の地位を受け継いだ建物の買主に対しても主張できると認められています。

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家賃不増額の特約が有効であるためには、それが一定の期間を定めてその期間内は増額しないという形で結ばれることが必要です。したがって、永久に増額しないというような特約は無効ですが、契約のさいに定めた存続期間の全部にわたって増額しないという特約も、一定の期間を定めたものとして有効とされています。
期間についてもう一つ注意しなければならないことは、一定の期間が経過してもすぐに家賃の値上げができるとは限らないということです。家賃の増額請求が認められるためには一定の要件が必要です。その要件の一つに、従前の家賃が決まったときから相当の期間経過していることというのがあります。この期間がどれ位かは場合によって違いますが、特約によって増額できないと定められた期間が経過してからも、なおそのうえにこの相当の期間が経過しなければ値上げできないと考える学者もいます。そうでなくとも、少なくともこの相当の期間よりも長い期間を定めておかなければ、増額しない特約はあまり意味がない結果になります。例えば、値上げの請求が認められるのに必要な期間が三年とされるような事情の場合に、契約後二年間は値上げしないという特約がむすばれていてもあまり意味はないわけです。
なお、契約後満三年たてば増額するという特約は、増額するという特約としては無効ですが、三年間は増額しないという特約として有効だと考えられています。
いずれにしても、七年間という期間を定めて増額しないという特約をしているわけですから、それが有効であり、家主としては一応七年間は家賃の値上げができないことになります。
本問の場合は、増額しない特約をはっきり決めているようですから問題はありませんが、はっきりそのような約束をしていなくて心特約があるのと同じように取り扱われる場合があります。
権利金を払っている場合、権利金の性質には様々なものがありますが、家賃の一部の前払としての性質を持つ場合があります。家賃の前払は増額しない特約をしたものとみなされますから、このような権利金を払っているときは不増額の特約をしたのと同じように取り扱われることがあります。
敷金を払っている場合、敷金は一般に家賃の前払という性質はもちませんが、それもあまりにも多額の場合は、それに対する利息相当額が家賃の一部を補充するものとみられ、増額率にある程度影響する可能性がまったくないとはいえません。
本問では、多額の権利金と敷金とを払われたようですから、この点から見ても、そう簡単に値上げされることはないといってよいでしょう。
なお、このほかに、借家人が自分の負担で修繕、改良工事などをした場合は、その負担にみあう限度で不増額の特約があったものと推定されることがあります。
このようにみてきますと、一定の期間、家賃を増額しないという特約があるときは、その期間内は絶対に値上げできないように思われますが、必ずしもそうとはいいきれません。借家契約をむすぶときは、ある程度将来までの見通しをつけたうえで家賃をきめ、また一定の期間、増額しない特約をむすんだはずですが、その後になって契約の当時にはまったく予期できなかったようなはげしい経済的変動が生じ、家賃が極端に低すぎる状態になったような場合には、信義公平の立場から不増額の特約は効力をもたないとして値上げを認めるべきだ、とされています。それでは、どのような経済事情の変動があれば特約にもかかわらず値上げが認められるか、ということについては明確な一定の基準を示すことは困難です。第一次世界大戦および関東大震災によってひき起こされた経済事情の激変の場合に、全賃借期間にわたって増額しないという特約は効力をもたないとした判決が一つの参考になろうかと思います。
近くに地下鉄の駅ができたりしてたいへん発展したというような事実だけでは、不増額特約の効力が否定される心配はありません。

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