滞納家賃の取立

いくら催促しても借家人が家賃を払ってくれないときは、結局のところ、家主としては裁判所の力をかりて強制的に取り立てる手段をとらなければなりません。それが強制執行で、借家人の財産を差し押え、競売してその代金から家賃分を受け取るわけです。この強制執行は、執行官という公務員に依頼してやってもらうのですが、そのためには、前提として一定の手続が必要です。いちばん本式な手続は、家賃請求の訴訟を起こし、勝訴の判決をもらってこれに基づいて強制執行することですが、これはかなり面倒で時間がかかります。また、次にお話する契約の解除をしたうえで、家の明渡しの請求とあわせて家賃の請求をするというかたちで行なわれることが多いでしょう。
いちばん簡単なのは、督促手続という方法です。その手続はだいたい次のとおりです。
家主(債権者)は、請求の趣旨と請求の原因その他必要事項を言いた支払命令申立書をつくり、借家人(債務者)の住所地の簡易裁判所に提出します。
この書類は司法書士につくってもらえばよいでしょう。申立を受けた裁判所は、申立の形式的要件がそなわっており、請求の不当なことが明らかでなければ、借家人に対して支払命令を発します。借家人はこの命令の送達を受け九日から二週間以内に異議の申立することができます。この期間内に借家人が異議を申し立てないと、裁判所は、家主の申立に基づいて支払命令に仮執行宣言をなし、仮執行宣言付の支払命令の正本をさらに借家人に送達します。これに対して、また二週間以内に借家人が異議の申立をしなかったときは、支払命令は確定判決と同一の効力をもつようになり、仮執行宣言付支払命令に執行文を付与してもらえば強制執行ができることになります。借家人のする異議の効力は、仮執行宣言前になされた場合とその後になされた場合とで少し違いますが、いずれにしても異議が適法になされると、事件は当然に訴訟に移ります。

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上述のような方法のほかに、調停を申し立てるという方法もあります。これは特に借家人が家賃の金額や滞納の有無などで争っている場合には有効です。また、明渡しの調停に付随して滞納家賃の処理が問題になることも多いでしょう。いずれにしても、調停というのは、当事者間の話合いを調停委員があっせんし仲立ちをするものですからお互いに譲りあわなければ成立しにくく、滞納家賃全額をとるのはなかなか難しいと思われます。調停が成立し調停調書がつくられますと確定判決と同一の効力をもち、これに基づいて強制執行することができます。
また、借家契約を公正証書にしておき、それに「借家人は家賃を毎月末までに支払うものとする。そのときまでに支払わないときは、借家人は、家主から直ちに強制執行を受けても異議がない旨を認諾した」というような内容の条項、すなわちいわゆる執行認諾約款を記載しておきますと、借家人が家賃を滞納したとき、前述のような裁判上の手続をあらためてとらなくとも、直ちに強制執行手続を開始することができます。
いずれの場合にしろ、家主が催促をしたのに借家人が家賃を払わないという事実の立証を容易にするため、催促は内容証明郵便を用いるのがふつうです。
以上にお話したような強制執行によって家賃を完全に取り立てることができるためには、借家人が財産をもっていなければなりませんが、借家人は家賃にあてるくらいの財産はあるでしょう。しかし、借家人が破産のおそれがある場合、他に債権者がたくさんいると思われます。そうすると、強制執行をしても他の債権者が配当に加入してきますから、借家人に少しばかりの財産があっても滞納家賃全部はとれなくなるおそれがあります。民法はこのような場合のために、家主(賃貸人)に特別な優先権を与えています。それは、民法三一二条以下に規定されている賃貸人の先取特権という制度です。これによれば、家主は、家賃その他賃貸借関係から生じた債権については、借家人の財産のうちで彼がその建物にそなえつけた動産の競売代金から優先的に弁済を受けることができます。
この点について、判例は非常に広く解し、借家人がある期間、継続してその建物のなかにおくために持ち込んだもののすべてを含むものとし、したがって、金銭、有価証券、宝石なども対象になるとしています。しかし、学者の多くはこれには反対で、建物の利用に関連して常備するためにそなえつけた動産に限るものと考え、したがって、椅子、テーブル、タンス、掛額、掛時計その他の家具調度や営業用の器具などに限られ、居住者の個人的な所持品たとえば腕時計、宝石、衣服、金銭などは含まれないものとしています。なお、このような動産のなかには、借家人自身の所有物でない物、例えば、他人から借りている物、月賦完済まで所有権が売主に残っている物などがあるかも知れませんが、そのような事情をご存知でなければ、やはりそれらを差し押え、競売して代金から優先弁済を受けることができます。ただし、強制執行そのものに必要な費用の債権は家賃債権よりも優先しますし、借家人が税金を滞納していると、そのほうにもっていかれてしまうおそれもあるので注意しなければなりません。
敷金を受け取った家主は、賃貸借契約が終了したときに滞納家賃などを差し引いた残額をかえせばよいので、契約の継続中に敷金を滞納家賃にあてる義務はなく全滞納額を請求できるのですが、敷金を受け取っている限りその範囲内ではいちばん確実な担保をもっているのと同じなので、契約の継続中でも滞納家賃額から敷金額を差し引いた残額についてだけ先取特権が認められることになっています。
借家人が破産しますと、借家人の財産のほとんどが破産財団というものに組み込まれ、各債権者は借家人の全債務額に対する自分の債権額の比率に応じた配当分を破産財団から受け取ることになります。しかし、先取特権をもつ家主には別除権という権利が認められこのような手続によらずに、先取特権の客休であった動産から優先弁済を受けることができます。ただその債権額に次のような制限がつくことになります。借家人が破産すると期限の利益を失いすでに滞納している家賃だけではなく将来の家賃の全額までも払わねばならなくなります。その全額についてこのような先取特権の効力を認めると他の債権者をあまりにも害することになりますので、家主は前期、当期、次期の家賃と前期と当期において生じた損害の賠償についてだけ先取特権が認められます。

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