家賃滞納を理由とする契約の解除

契約の解除というのは、契約の当事者の一方が、相手方の義務違反、つまり債務不履行が生じた場合に、単独で意思表示をすることにより、契約関係を解消してしまうことです。民法は、契約解除の原則を五四一条に規定し、「当事者の一方が其債務を履行せざるときは、相手方は相当の期間を定めて其履行を催告し、若し其期間内に履行なきときは、契約の解除を為すことを得」としています。例えば、売主Aと買主Bとの間に土地の売買契約が成立し、代金一五〇〇万円のうち一〇〇〇万円は売買契約の成立のときに支払い、残金五〇〇万円はその時より三ヵ月の期間内に支払うという約定が決められたとします。三ヵ月経ってもなおBが五〇〇万円を支払わない場合は、AがBに対して、向こう五日間以内に五〇〇万円を支払われたいと催告し、五日以内にBが支払わなければ、AはBに対して売買契約を解除する旨を通知すると、AB間の売買契約は解消してしまうわけです。しかも、売買契約が解消したという効果は、売買契約成立の当初に遡及し、最初からAB間には売買契約は存在しなか。たと同様の状態になります。
以上、述べたことがふつうの契約解除の方法とその効果ですが、結局、その特色は、あらかじめ一定の期間を置いて催告しなければならないことと、解除の効果が契約成立の当初に遡るということです。

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売買契約、贈与契約、交換契約などでは、物が一度引き渡されたり、金銭が支払われたりすれば、契約の履行はそれですんでしまうのですが、賃貸借契約の場合は、契約の履行は賃貸借契約の存続する間ずっと継続するわけです。このような継続的契約としては、賃貸借契約のほかに、雇傭契約、委任契約などがあります。
そこで、継続的契約の解除の方法と効果が問題となりますが、民法は前述のふつうの場合とは異なる内容を規定しています。そこで、継続的契約の場合には、解除という語句の代わりに、告知という語句を使用することも多いのです。ふつうの場合と異なる点ですが、まず解除(告知)の効果から先に述べますと、解除の効果は遡及しません。次に、解除の方法ですが、民法の規定はまちまちです。例えば、雇傭契約については、六二八条は「已むことを得ざる事由あるときは、各当事者は直ちに契約の解除を為すことを得」といっています。委任契約については、六五一条は、当事者はいつでも解除できるが、「已むことを得ざる事由ありたる」場合を除き、相手方に不利な時期に解除したときは損害を賠償しなければならない、としています。ところが、賃貸借契約については、雇傭契約と委任契約と異なり、賃貸借契約の解除についての一般的な規定がおかれていないのです。そして、一方では、賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をした場合不可抗力による減収の場合、賃借物の一部滅失の揚合に、賃借人は契約を解除することができると定め、他方では、賃借権の無断譲渡または無断転貸の場合に、賃貸人は契約を解除することができると定めています。これらの場合以外、例えば、借家人が賃料を滞納している場合、借家人が建物を乱暴に使用している場合、借家人が承諾なしに増改築や模様替えをした場合などについて、どのような方法で賃貸借契約の解除をするのかということについては、直接の規定がないのです。そこで、一方では、契約の解除の一般的な規定の民法五四一条がこれらの場合に適用されるという説が生じます。他方では、賃貸借契約は継続的契約だから、ふつうの契約の解除の方式によるべきではないとして五四一条の適用を否定する説も生じます。そして、この説は、民法六二八条や六五一条を類推適用して「已むことを得ざる事由ある揚合に限り」または「信頼関係が破れた場合に限り」解除を認めるべきであると主張するのです。ですから、前説は五四一条適用説、後説は五四一条適用否定説とでも名づけることができます。
適用説は、軽微な義務違反をも契約解除の対象となしうる点で苛酷な結果をもたらす欠点があります。しかし、軽微な義務違反なら、催告による猶予期間の存在でこの欠点はカバーされるでしょうから、たいして不都合ではありません。しかし、この説では、重大な義務違反の場合でも、催告による猶予期間中に違反者が改めさえすれば解除はできないということになり、あまりに寛大にすぎる結果となります。例えば、借家人が二階に四畳半を増築し、他人に貸して利益を得ている場合でも、催告期間中に取り壊しさえすれば、それ以上とがめられないことになります。また、金は持っているのに家賃は支払わず、契約解除のための催告があったときにそのつど支払うような悪質な借家人に対しても、契約の解除はできないということになります。そこで、適用説の論者には、重大な義務違反の揚合は、催告を要せずに、ただちに解除ができると述べて、五四一条の方式を修正する者もいます。
 他方、適用否定説では、軽微な義務違反はそもそも契約解除の対象とならず、相手方は損害賠償による救済が受けられるだけですから、この点では妥当といえましょう。信頼関係が破壊されるような重大な義務違反の場合は、催告を要せずにただちに解除ができるとしますから、この点も論理的にすっきりしています。ただし、実際上の欠点として、軽微な義務違反と重大な義務違反とをどうして区別するか、そしてまた、両者の中間領域的な義務違反をどう取り扱うかという問題があります。この点は、適用説に立てば、軽微な義務違反でも重大な義務違反でも、契約解除をしようと思えば催告を要しますから、猶予期間中に違反を改めなかったら、そのこと自体が義務違反の度合を増加させることになり、解除を認めるという裁判実務上のメドが立つわけです。しかし、適用否定説はそのような工作はできませんから、この点で、適用否定説は、裁判実務上の適応性に欠けることになります。そこで、適用否定説の論者には、信頼関係が破られたといえるためには、原則として、相当の期間を定めて催告したが、なおかつ改めないときでなければならないと述べて、この説を修正する者もいます。賃借人が賃貸人の最後の催告にも応じなかったら、いよいよ信頼関係は断絶し破壊しつくされたとみるのでしょう。
このようにして、両説ともに、一長一短があり、修正されることによって近寄ってきているのですが、次に判例の動向を眺めましょう。
判例は、戦前はほとんど、五四一条の適用を認めてきました。しかし、戦後は必ずしも明確ではありません。近時の下級審判決は、最終的には、信頼関係が破壊されたかどうかを判断して、解除を認めるかどうかを決定しています。催告を必要とするかどうかにはあまりとらわれていません。最高裁においても、信頼関係理論の影響は強いようです。信頼関係理論は、民法六一二条二項の賃借権の譲渡または転貸に関して確立されたのですが、この理論が、用法違反や賃料不払などを理由とする契約の解除などにも浸透し、そして五四一条適用否定説と結びついてきたのです。そこで、最高裁も、用法違反を理由とする契約の解除の事例で、信頼関係が破壊されているかどうかを最終的基準として判断する態度を示し、近時、賃料不払を理由とする契約の解除についても、同じ態度を取りました。もっとも、これらの最高裁判決が五四一条の適用を原則として否定したと見るべきかどうかについては学説が分かれています。
賃借権の無断譲渡、転賃や用法違反のときには、著しい不信行為かどうかは、比較的簡単に判別できますが、賃料不払のときはそう簡単ではありません。おそらく、そのことが、判例の態度をして、五四一条適用説か適用否定説かを不明確ならしめ、信頼関係理論の浸透を遅れさせた理由とおもわれます。
適用説に立つにせよ、修正された適用否定説に立つにせよ、特別悪質な賃料不払でないかぎり、催告は必要です。結局、信頼関係が破壊されたかどうかによって判断されますから、催告の猶予期間に数日遅れたからといって、それだけの事由で、決定的に信頼関係が破壊されるということにはなりません。そこで、次に問題になりますのは、家賃滞納の多寡です。学説には、信頼関係の破壊にあたる場合といいうるためには、少なくとも二回分以上の滞納が必要であるというのがあります。たしかに、一回分の家賃滞納で解除を認めるのは酷にすぎます。では、二回分以上の滞納なら、もうそれだけで重大な不信行為として解除が認められるかといえば、そうではありません。この場合も、諸事情が合わせて参酌されて、信頼関係が破壊されているかどうかが決められるわけです。明らかに信頼関係が破壊されている場合、例えば借家人が支払能力があるのに故意に何ヵ月も家賃を滞納している場合は、催告しないでただちに契約を解除することができますが、このような場合はあまり多くはないでしょう。借家人が家賃を滞納する場合は、たいてい、支払能力がないときとか、家主との間で増額請求をめぐって双力の感情、特に家主のそれが激化し、受領拒絶の態度を示しているときなどです。

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