過大な催告

私の借家の家賃は月額五万円でしたが、家主は、物価の騰貴を理由に、倍額の値上げを要求してきました。私は、付近の借家と比較して、どんなに多くても七万円くらいが適正と考え、七万円まで譲歩し、持参しましたが、家主は一〇万円でなければ絶対にだめだといって受け取ってくれません。三ヵ月そのようなやりとりがあったのち、家主は三ヵ月分三〇万円を三日以内に支払わないと解除するといいだしました。訴訟になれば、私は、適正額自体も争うつもりですが、家主の催告そのものが過大で期間が短かすぎて無効ということにならないでしょうか。
過大な催告というのは、催告のなかで示された給付すべき債務の数量が、給付すべき本当の数量より多すぎる場合のことです。例えば借家人Bが家主Aに対して数カ月分の家賃を滞納しているとします。Aは遅延損害金も合わせて合計三三万円として催告したところ、正確に計算したら二八万五千円であったというような場合です。三三万円といってした催告が、二八万五千円の債務の催告として、有効といえるかどうかが問題となるわけです。判例は、誤って過大な催告をしても、債務の同一性が認められるかぎり、本来の債権額の範囲で有効な催告となるとしています。
これが判例の原則的態度ですが、他方では、判例は、債権者が自己の請求する金額を少しでも不足して債務者が提供したら受領しないという意思を明らかに有する場合には、 その過大催告は全部無効となるとしています。そこで、問題は、債権者のそのような意思を認定する方法です。

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あまりに著しい過大な催告の場合は、債務者が真実の債務額の提供をしても、債権者はそれを受領する意思がないと認めるべきだとして、著しい過大催告がなされたという事実そのものを認定基準とするやり方です。しかし、著しいかどうかは相対的な観念ですから、どの程度までが著しいといえるかどうかについて、判例では、一定していません。例えば著しい過大催告だから無効であるとしたものに、賃料増額のケースで、坪一五銭の地代に三倍強の五〇銭の催告をした事例、統制がはずされたのを理由に二人の賃借人に対して、約定賃料の五・六倍およびこ一・七倍の催告をした事例などがあります。過大催告でも相当額の範囲で有効としたものは、以前はおおむね二倍弱のものが多かったのですが、近時はそれより多少多い場合に有効としている事例もあります。例えば、最高裁は、一〇万円の債権額につき、二三万二、〇〇〇円金を請求した催告を有効としています。もっとも、この事案では、賃貸人は「その請求金額全部の提供がなければ、これが受領を拒絶すべき意思が明確である場合であるとは認められたいから」という理由で、次に述べる認定基準が逆用されているのですから、この判決は認定基準のみで律すべきものではありません。
超過額が著しいかどうかという基準からではなく、債権者の態度そのものを問題とし、催告金額以下の金額は絶対に受領しない態度がきわめて明確である場合は債権者に受領意思なしと認定する方法です。最高裁は、適正家賃月三、九八九円を一〇一一円しか超えない月五、〇〇〇円の割合による賃料支払を催告した場合でも、賃貸人が催告金額以下の金額ではこれを受領しないことが明確であるときには、催告はその効力を生じないと判示しました。
そこで、過大催告の点から、本問の場合を眺めてみましょう。まず、著しい過大催告として無効となるかどうかの認定基準にあてはめてみますと、著しいかどうかは相対的なるのですから、倍額は著しい過大判にあたるともいえるし、あたらないともいえます。だから、著しい過大額という点からの無効をあてにするのはひかえたほうが無難のようです。次の、受領拒否の態度を認定基準とする方法からみれば、本問の家主の催告は過大催告として無効といえそうです。催告が無効であるということになれば、催告がなかったと同じ状態になりますから、結局、解除の意思表示はなかったということになります。催上請求までなかったということになるかどうかですが、値上請求(増額請求)と催告とは同じではありませんから、催上請求がなかったということはできません。ですから、借家人は、催家法七条の規定に従い、自分で適当と思う額を支払っておかねばな らないことになります。
民法五四二条は、契約解除の前提として、相当の期間を定めて催告することを要求していますが、相当な期間とはどれくらいかということが問題になります。この期間は、遅延した債務の履行につき、債務者にもう一度猶予期間をあたえて履行させてみようという趣旨でおかれるのですから、債務の性 質、金額その他の客観的な事情によって具体的、個別的に定まるぬのであって、一概にいうことはできません。債務者の病気、旅行などの個人的、主観的事情は考えにいれるべきではないとされています。
そこで、問題となりますのは、催告期間が相当でない場合、例えば三日間のうちに支払えと催告したが金額その他の事情 から七日間か相当な期間であるとされる場合に、その催告は無効となるのかどうかということです。判例は、古くは、無効と解していました。しかし、のちには、催告に定めた期間が短かすぎた場合でも、催告は有効であり、相当な期間が経過すれば解除権が発生すると解するようにたりました。そして、猶予期間を指定しない催告も有効であり、催告ののちに客観的にみて相当な期間が経過すれば、解除権は発生することも認めました。したがって、本問のような場合は、借家人が家主の催告は猶予期間が短かすぎたから無効である、といって争ってもそれは無益です。
増額請求の場合には、借家人がまったく提供もしないでいるとか、従来の額より低い額を提供ないし供託したとかいうことのないかぎり、債務不履行を理由に契約を解除される心配はなくなりました。したがって、過大催告や期間の短かすぎる催告、つまり相当でない催告を武器として、賃借人が賃貸人に抵抗する必要がある場合は、借家法の改正により減少したといえるでしょう。賃料の値上請求は、賃貸人、賃借人ともに嫌なものですが、これから、賃借人は催告の態様を気にしないで、客観的にみて適当な額を主張し、その額を提供したり、また賃貸人が受領拒絶したりすれば供託したりしていけばよいでしょう。

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