家賃の受領を拒絶されたときの措置

物価高を理由に、家主は三倍の家賃増額を請求してきました。家主は私を追い出し、家を壊して土地を売りたいようです。従来の家賃は近所の家賃と比較して少しも低くはないので、今までどおりの家賃額を持っていきましたら、家主は増額請求の金額でないと受け取らないといいます。どうすればよいでしょうか。
借家人は、家主の値上賃料の請求に対して、どのようにしておけば、持参賃料の受領を拒絶された場合にも、賃料債務を履行したことになるのでしょう。また家主があらかじめ賃料の受領を拒絶している場合、とりわけ、すでに借家人が支払に行き受領を拒絶されているという場合に、支払った月の翌月から賃料不払の責任を問われることのないようにしておくにはどうしておいたらよいでしょうか。なお、借家人が債務不履行責任を免れるだけでなく、完全に債務を消滅させるにはどうしておいたらよいかといったことが主な問題です。
今日では、周知のように、改正借家法七条二項が実施されていますので、家主から値上家賃の請求を受けた借主としては、その額の当否を訴訟で争い、判決で相当な金額が決定されるまでの間、従前の家賃を支払えばそれでたりることになっております。改正前のように、あらかじめ相当額を推測し支払っておかないため債務不履行の責任を問われることはなくなりました。したがって、本問のように家主が三倍の家賃を請求してきても、従前の家賃を支払っておけば、判決が定まるまでの間に提供した金額が不足していたという点を非難され、債務不履行の責任を追及されることはなくなったのです。

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債権者(家主)が弁済の目的物(賃料)を受領する可能性があり、債務者(借家人)が債務を履行するのに債権者の協力を必要とする場合には、民法四九三条本文に定められているように、債務者は債務の本旨にしたがった弁済をして債権者に協力を求めるといういわゆる現実の提供をしなければなりませんし、また同条但書に定められているように、債権者があらかじめ受領を拒絶している場合とか、債権者の協力が必要であるのにその協力がえられない場合には、弁済の準備がなされていることを通 知する、いわゆる口頭の提供でたりるわけです。
借家人が家主との間で契約を結び、一定の土地に立ち入らないとか、また一年間借家で家主と同じ営業をしないとかということを約束して不作為債務を負い、その債務を履行するのに家主の協力を必要としない場合には、そもそも、借家人が単独で債務を履行することができるのですから、格別、家主の協力を求めるための行為すなわち弁済の提供にからむ問題は起こりません。しかし、家主と借家人との間で賃料を授受するという場合には、家主がこの賃料を受領しなければ、借家人は支払ってしまうことができないのですから、持参金を約束している場合には、履行期に、賃料を家主の住所へ持参して、それを家主に呈示し、受け取ってくれるよう催告しなければならないというように、現実の提供をすることが大切になります。
しかし、この現実の提供について、判例は、例えば債務者が金銭を持参して債権者の住所に行き、支払うということをいいますと、それ以上債権者の面前に示す必要はない、あるいは、家主に代わって家賃を受領する資格のある弁護士の事務所に家賃を持参したところ、弁護士が不在だったような場合、事務所に持参しただけで受領の催告をしなくても、現実の提供があったとみています。一般的にいって、債権者が不在であるという場合には、債務者がそのことを知っていたかどうか、不在の理由は何か、その他、いったん弁済を受けた後の、債権者の債務者に対する行動はどうであったかなどによって、債務者が再度弁済の提供をする必要のある場合も出てきますので、このような場合には特に注意をしておかなければなりません。
家主が、家賃の弁済期にわざと旅行にでかけて帰ってこない場合のように、あらかじめ受領を拒んでおりながら、なお債務者に現実の提供をするよう求めることは、当事者の守るべき信義則に反することですし、また家主が取立払を約束しているにもかかわらず借家人の住所へ来て取り立てることをしない場合には、借家人は支払を終えるのに必要な家主の受領を期待することができず、したがって弁済が不可能になっているのですから、これらのいずれの場合にも現実の提供をする必要はなく口頭の提供をすればそれで十分だということになります。そして口頭の提供は、本来履行でなく準備行為にすぎませんので、持参払の場合でも、借家人は自分の住所にいていつでも弁済ができる準備をすませておき、家主に対して受け取ってくれるよう電話とか文書などで通知をすればよいのです。
一口に、あらかじめ受領を拒絶している場合といっても、そこには程度の差があり、拒絶意思がはっきりしていて動かし難い場合には、口頭の提供をすることも無駄なことですから、その提供もいらないということになります。しかし、一体どのような場合に、受領拒絶の意思が明白であるとみることができるかは判断の難しい問題で、例えば通常の増額請求があったということだけではこの意思が明白だとはいえません。ただ本問の場合のように、三倍の増額を請求し、それも本当は立退きを求めているのだということになりますと、受領拒絶の意思が明白であるとみてよいでしょう。
その点、判例は、室の賃借人が賃貸人に無断で電気工事を施し、そのために賃貸人が契約を解除し、貸室の明渡しならびに賃料に相当する損害金を求めている場合とか、あるいは賃貸借が期間満了によって終了しその不存続を主張する場合とかにみられるように、賃貸人が賃貸借の存在そのものを否定している場合には受領拒絶の意思が明白であるとしています。
しかし一方では、それに反して、拒絶意思が明白でも口頭の提供を不必要とする場合はありえない、すなわち、いかに拒絶意思が明白であっても、債権者が翻意する可能性がないとはいえない、だからあらかじめ履行を明白に拒絶している場合でも少なくとも口頭の提供は必要であるという考え方もあります。この考え方は、弁済の提供を慎重にさせるという点では利点があるといえましょう。
割賦販売とか賃貸借とかの場合のように、月々金銭を支払う分割給付の契約の場合には、現実の提供はないが、あらかじめ明白に受領が拒絶されているとみられる場合と、いったん現実の提供をしたけれども受領を拒絶されてしまったという場合とがあります。前者の場合には、通常の売買のような一回給付の揚合と取扱を異にしませんが、後者の揚合には異なるところがあるようです。
すなわち分割給付のような継続的契約関係では、ある月分の給付と翌月からの給付との間には、全体としての結びつきを否定することはできませんので、ある月の賃料の受領拒絶が翌月からの弁済にどのような影響を与えるかどうかを、受領拒絶の意思の強固さの程度によって判断しなければなりません。
判例はこのような分析をしているわけではありませんが、古く大審院の判例で、あらかじめ受領が拒絶されている場合に、口頭の提供を必要としていました。しかし、最高裁の判例では、その理由を明らかにせず口頭の提供を不要とするもの、あるいは先に引用したように、賃貸借の存在を否定する揚合には、受領拒絶の意思が明白なので、したがって、口頭の提供を必要としないとするものがあります。
債務者が弁済の提供をなし、債権者がその目的物を受領しますと、債務が消滅することはいうまでもありません。
しかし、債権者が受領してくれない場合でも、債務者が弁済の提供をしておきさえすれば、債務は消滅しませんが、債務不履行によって生ずる責任は免れることができます。すなわち、債務不履行に基づいて契約を解除されたり、損害賠償を請求されたり、あるいは遅延利息、違約金を請求されたりすることはありませんし、また担保権も実行されません。
一方、債務者が弁済の提供をしたのに、債権者が受領を拒絶すると、債権者は債務者が弁済したときから受領遅滞の責めを負うので、債権者は遅延のために生じた増加費用を負担しなければならなくなります。
なお、債務者が、単に債務不履行責任を免れるだけでなく、再度、債務不履行責任を問われたり、担保物を取り戻しえなかったり、債務が残存しているためにこうむる不利益から免れるためには、原則として弁済の提供をしたうえに供託をもすべきです。なお、供託は、本問の場合のように受領を拒絶されている場合とか、受領不能の場合とか、過失なくして債権者を確知できない場合とか、一定の原因ある場合にかぎってそれをすることができます。
以上の説明からもお分かりのように、本問において借家人は、今月分の家賃については、それを現実に提供しているのですから、そのままでも債務不履行責任を問われることはありませんが、しかし、やはりこのような理由から、供託をしておくべきでしょう。次に来月分からの家賃については、家主はあらかじめ受領を明白に拒絶しているものと考えられますから、そのままの状態がつづくかぎり、口頭の提供をしなくても債務不履行の責めを問われません。したがって供託するに当たっても口頭の提供はいらないのですが、ただ供託は前もってすることはできませんので、履行期の到来するごとに、その月の賃料を供託してください。

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