家賃の供託原因

私も家主も自治会の役員をしていますが、その運営をめぐって少し激しく衝突し、それ以来、気まずくなりました。家主は、私と偶然会っても、露骨に顔をそむけますので、家賃をとどけるのがおっくうになり、その月から家賃を供託し、三ヵ月になります。ところが、家主は、先日、三ヵ月心家賃を滞納したから、即時契約を解除する、来月から家屋を明け渡してもらいたいと通知してきました。家賃を供託しているのに家賃の滞納となるのでしょうか。
本問では、借家人が、家主と感情的にも つれ、家賃をとどけるのがおっくうになったというだけの理由で、家賃を支払いに行かなかったのですから、供託はなされていても、それは弁済の提供のない供託として無効になります。そしてまたこのような場合の供託は、弁済の準備としての意味しか持ちませんので、家主が弁済を受領する可能性のある本問の場合では現実の提供をしなければ債務不履行の責めを問われるのもやむをえません。ただそれを理由に契約を解除するには、まず履行の催告をする必要がありますので、この場合の即時解除は認められないのです。
供託は、その目的によっていろいろの種類のものがあり、例えばここで問題になっている弁済の目的物を供託する場合のほかには、裁判上の保証や営業上の保証のために担保の目的物を供託する場合、強制執行の目的物を供託する場合保管の目的物を供託する揚合、そのほか没収の目的物を供託する場合があります。
一般的に供託は、このような供託の各目的を達するために、ある財産を、国家機関である供託所または国家機関の指定する倉庫業者に提出してその財産の管理を委ね、終局的には供託所または倉庫業者がその財産をある人に取得させる制度です。
このような供託の性質を、大きくわけて私法関係とみる立場と公法関係とみる立場とがありますが、通説は私法関係であると考えています。すなわち、供託者が被供託者のために供託所との間でかわす寄託契約であると解しているわけです。家賃の弁済供託の場合を例にあげますと、供託に関する契約の当事者は借家人と供任所とであって、その契約は、借家人が賃料を供任所に現実に引き渡し、供託所が賃料の保管を約束することによって成立するいわゆる第三者のためにする契約にあたります。ところが、これに反し、供託の重点は、寄託にはなく、被供託者が供託所から供託物の交付を受けるところにあるとか、供託所が公の機関ですので、供託を公法関係とみる考え方などもあります。判例は、判決によって供託が有効であると定められると、供託者は取戻権の行使ができなくなるという理由などから公法関係であるとみたうえで、供託者による我戻請求を拒絶するという供託官の行為は行政処分であり、したがってその処分の効力を争うには、まず異議の申立をすべきであり、直接、裁判所に供託金取戻請求の訴を起こすことはできないと判断しております。

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債務者が供託者として供託できる場合は、次の三つの原因がある場合、すなわち、受領拒絶の場合、受領不能の場合、ならびに債務者が過失なくして債権者を確知できない場合にかぎられています。まず、受領拒絶の場合から説明しますと、例えば、賃貸人から請求されている賃料が統制額を超えている場合には、ただちに支払義務のある統制額を渡しても受領を拒まれることが推察されますから、統制額を催告期間経道後に持参提供しないで供託してもその供託は無効ということはできないとされています。
次にに、受領不能というのは、例えば、交通が杜絶しているために、債権者が履行期に、履行場所に来られないというような事実上の不能の場合でも、あるいは債権者が無能力者で、その者に法定代理人または保佐人がなく、そのために受領することができないというような法律上の不能の場合でもよいのですが、判例はこの受領不能にあたる場合を比較的広く認めております。
さらに、債務者が過失なくして債権者を確知できない場合というのは、賃借物の所有者が誰であるかが訴訟上争われ、その決着がつかないために債権者がはっきりしないような場合とか、債権者の死亡後、相続人が不明な場合です。ここでいう過失がないことの具体例をあげますと、ある判例では、居住者組合の組合員一同にとって、現在の家主が誰であるかわからない場合に、二重払の危険を避けるため、家主が誰であるかわかるまで、家賃の支払をさしひかえ、それが明確になった場合にいつでも支払うことを、家主と思われるすべてのものに通知したが、それに対して明確な回答がなかったという場合には、過失がないと判断しているのです。
なお、供託書に記載すべき供託原因に誤記があった場合に関する判例に、本来供託の原因を「過失なくして債権者を確知できない場合」と記すべきところ、誤って司法書士が、「債権者の受領拒絶による場合」と記していても、しかし、そのような誤記は、債権者の利害に影響するところのない些少な過誤であるということから、供託を有効とするものもあります。
もっとも、供託が適法になされるには以上の三つの供託原因のいずれか一つがあればそれで十分です。
供託は債権者の協力なくして債務を消滅させうる方法ですが、受領拒絶の場合のように、債権者が協力を拒むという事実が認められるか否かは、通常、一度弁済の提供をしてみたうえでなければ分からないことですから、少なくとも債権者に弁済を受領する可能性のあるかぎり、債務者は、弁済の提供をしたうえでなければ有効な供託をすることができないのです。これが判例の一貫した立場です。例えば、約二年間、賃料の弁済が遅滞されていたため、特定の日時を指定せず、七日以内に延滞賃料を支払うよう催告し、債務者は期間内五日日に賃料を持参したが、債権者が不在のため直ちに供託の手続に着手し、催告期間経過後に供託したという場合に、債務者としては、現実の提供はできないとしても少なくとも口頭の提供はできたはずであるとして、提供のない供託は無効で、債務は消滅しないと解した判例や、また3カ月間の家賃を延滞している場合に、一ヵ月目の家賃は提供したが、あとのニカ月間の家賃を提供していない場合には、三カ月分を供託しても後ニカ月分の供託は提供がなされていないので無効とする判例があります。
あらかじめ受領拒絶の意思が明白な場合にも、判例は、はじめ弁済の提供がない場合は供託を無効と解していましたが後に受領拒絶の意思が明白になった場合は、提供のない供託も有効と解しています。本問では冒頭でも述べましたように、家主において受領拒絶の意思が明白であるとはいえませんので、結局、弁済の提供のない供託として供託は無効であり、またその供託もこの場合には現実の提供が必要なのですから、債務不履行の責任を免除させるだけの効力をもたないのです。したがって家主が適法に解除をするかぎり明渡しを求められてもやむをえません。
ただ、本問では、即時に解除していますが、そのような解除をなしうるのは、通常借家人が現実に借家を碇壊したり、無断で転賃したり、これ以上賃貸借を存続できないというような重大な事由がある場合にかぎられておりますので、本問のような場合に即時解除をしてもいれられるはずがありません。
債務者が弁済の提供のほかに、さらに供託までしなければならない理由は、債権者が債務を消滅させるために協力しないことにあるわけですから、弁済者側としてもいったん預けた供託物を取り戻し、債権者にあらためて支払うこともできるわけです。したがって、供託の効果は、債務者がそのような供託物の取戻権を失ってしまったときから生ずるわけです。
このようにして、供託の効果が生じ債権が消滅しますと、債務者の一般財産について認められた責任はなくなり、その責任は供託物のうえに縮減され有限責任となります。ですから、債務者が債権者からの直接の履行請求を拒否できることは当然ですし、利息、損害金はその発生を停止し、質権、抵当権は消滅してしまいます。

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