借家の修繕義務者

台風で屋根が数ヵ所雨漏りし、樋も塀も壊れていて、修繕すればかなり費用がいります。家主に言ったら、もう間もなく取り壊すつもりだからといって取りあってくれません。骨組みは丈夫な建物ですから、修繕すれば一〇年中二〇年は十分に使えるのですが、家主は私に立ち退いてもらって、アパートでも建てるか、空地にして売りたいようです。家主に修繕させるよい方法はないのでしょうか。
家主は家賃をとって家を貸しているのですから、原則として、借家人が契約にしたがって家屋を利用できるように配慮する義務を負います。ですから、借家が痛んだりして使用するのに支障をきたす状態になりますと、家主の方でこれを修繕して利用できるようにしなければなりません。この修繕義務は、家主は修繕しない旨の特約があったり、家賃が不相当に安いとか、地代家賃統制令の適用があるというような場合以外 は、たとえ天災によって家屋が破損したとしても、免除されません。

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家主が修繕しなければならないのは、もちろん、修繕が必要な場合に限られますが、具体的にはかなり微妙です。判例では、「家屋の破損、腐蝕の状況が、居住の用に耐えない程、あるいは居住に著しい支障の生ずる揚合でなければ、修繕義務は発生しない」として、比較的寛大な態度がとられており、雨漏りについては、豪雨の場合はともかく、ふつう程度の降雨で雨漏りがなければ、住宅の使用に格別の支障をきたさない、としたものがあります。また逆に、修繕のためには、新しく家屋を建てるのと経済上ほとんど同じくらいの費用がかかるときは、修繕は経済的に不能とみられ、家主に修繕義務がないことになります。この点についても、判例は家主に好意的で、破損、朽廃が著しい家屋について、大修繕または取壊しのための明渡請求を認める傾向にあり、その前提として、このような家屋を修繕する義務を、家主に負担させておりません。本問は、いずれの場合にも該当しませんから、家主に修繕義務があることになります。屋根の葺替え、樋や塀の修理などのうち、どれだけ家主がしなければならないかについては、少なくとも屋根、樋は家主が修繕しなければならないと思われます。
いくら修繕を請求されても家主が応じないときは、修繕義務の不履行を理由に、損害賠償を請求したり、借家契約を借主のほうから解除できますが、これは借主の望まれるところではないでしょう。家主に修繕させるための方法としては、修繕してくれなければ家賃を支払わない(同時履行の抗弁権)という手段が考えられます。もっとも、本問の場合は家屋をまったく使用できないのではありませんから、全額についてではなくて、使用に不便な程度に応じた分だけの支払を拒むことができるにすぎません。しかし、この方法は具体的に金何円の支払を拒絶できるかの判定が容易でないこと、居住に支障がないときは修繕してくれるまで払わないと言えないと説く判例があること、を考慮すれば、あまりおすすめできません。下手をすると家賃不払を理由に、家主から借家契約を解除される羽目に陥る危険があるからです。また、民法六一一条一項によって、使用の不完全さに応じて家賃の減額を請求し、それだけ家賃を引き下げることもできますが、この方法もまた、支払拒絶の方法と同じような危険性を含んでいます。
このようにみてきますと、もっとも安全な途は、借主のほうで修繕して、その費用を家主から返してもらう、という方法です。
民法六〇八条一項は、賃借人(借家人)が家屋について賃貸人(家主)の負担すべき必要費を支出したときは、賃貸人に対して直ちにその償還を請求できる、と規定しています。必要費というのは、家屋を賃借のときの状態に保つための費用だけでなく、家屋を通常の利用方法に適する状態で保存するために支出された費用をも含む、とみるのが多数説です。具体的にいえば、居住用家屋の賃貸借では、電燈、水道施設のため支出した費用、下宿営業のための賃貸借では、借家人がその営業に追するよう増築した費用なども、必要費といえます。本問の屋根の葺替えや樋の修理に要する費用が、必要費であることは申すまでもないでしょう。必要費は、それを支出するのと同時に、家主に対してその全額の償還請求ができます。もし家主が返してくれなければ、家賃と相殺すればよいわけです。
屋根の葺き替えや樋の修理については、このように言えますが、塀の修復については少し問題があります。というのは、べつに堀がなくても、家屋の利用にさほど不都合はないと考えられるからです。塀が家屋の通常の利用には絶対不可欠というような場合を除いては、塀の修復に要した費用は必要費とはいえないでしょう。しかし、塀の存在によって家屋の価値が客観的に増加したとみられるときは、この費用は有益費として、借家契約終了後一年以内に、償還請求できることになります。

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