修繕に関する特約

建築後二五年になる貸家を一軒持っています。もう老朽化しているので取り壊したいのですが、借家人は出てくれませんし、家賃も安いので困っています。今度、屋根、柱、土台などを大修繕しようと思いますが、そのときに、必要な修繕は一切借家人が自分の負担でなすべきことという条文を入れようと思います。このような特約は有効でしょうか。
家主が特約によって修繕義務を免れることについては、すでに早くから判例があり学説にも異論はありません。家主の修繕義務を定める民法六〇六条は、これと異なる約束を否定するものでなく、また、修繕に関する特約はいちおう借家人に不利な特約とみられますが、借家法一条ないし五条に関連するものではないため、その効力は借家法六条によって妨げられたいからです。しかし、本間のように、必要な修繕は一切借家人が自分の負担でなすべきことという特約がなされた場合、この特約によって家主の修繕義務が免除されることは明らかでしょうが、一切の家屋破損についてそのようにいえるのか、ないし、よりすすんで借家人に修繕義務を負わせるという意味をもつのか、については疑問が残ります。

スポンサード リンク
間取り

判例に即して具休的にみましょう。
昭和九年秋の関西の大風水害によって、家屋の屋根が飛び、瓦もほとんど壊れたので、借家人がその修繕をし、支出した費用の償還を家主に対して請求した事案について、修繕はすべて借家人の負担とするという特約があっても、それは「契約当時当事者の予想しうる程度の家屋破損に関する修繕についてのるので、通常人はもちろん何びとも、おおむね事前には予想しえないような、この稀有の大天災による家屋の大修繕をもふくむ趣旨のものと考えるべきでない」とした判例があります。また、賃借物(借家)利用に要するすべての費用を借家人が負担するという特約は、水害などによって生じた甚大な被害に対する修繕義務を借家人に負担させるものではない、と説くものもあります。
最高裁判所は、肯定していますが、これは、映画館用建物とその付属設備の賃貸借において、「雨漏等の修繕は賃貸人においてこれをなすも、営業上必要なる修繕は賃借人においてこれをなすものとする」という契約条項があったケースに関するもので、ふつうの居住用家屋の場合には、「修繕は借家人においてこれをなすものとする」旨の特約は、借家人に修繕義務を負わせる意味をもつものではない、とする意見が強いようです。この最高裁判所判決の原審(控訴審)も、前記の特約をもって、単に家主の修繕義務の限界を定めたものにすぎないと判断しています。ですから、例えば「畳替えは借家人がする」という特約は、家主に畳替えの義務を免除 するものであって、借家人にその義務を負わせるものではない、ということになりましょう。
しかし、借家人に修繕義務を負わせることを認定するには慎重でなければならないとしても、家主と借家人との間で、借家人が修繕義務を負担することを明らかに約束したときは、これを無効とする理由はないでしょう。ただ、家屋の基本的な構造に関する修繕義務をも借家人に負担させてもよいか、は問題と思われます。
修繕義務は借家人が負うとの特約があるときでも、借家人に小修繕をする義務が負わされることはふしぎでないが、屋根の葺き替えや柱の根つぎ等の大修繕をする義務まで借家人が負わされていると認められるためには、特別の事情がなければならないとされています。だから、借家人の負担する修繕義務の範囲が、特約で明示されているときは、原則として、まさにその範囲で借家人は修繕義務を負いますが、具体的に明示されていなければ、借家人の負担する修繕義務は小修繕の範囲に限られると考えるべきでしょう。家主のほうで「これからは、必要な修繕は一切借家人が自分の負担でなすべきこと」を特約されるわけですが、この特約は有効で、家主は以後、修繕義務を負わないことになります。しかし、だからといって、借家人が修繕する義務を負うことにはならない、と思いますし、借家人がその義務を負担するとしても、樋の付替えとか畳替え、襖の張替えなどの小修繕に限られるでしょう。また、この特約があるからといって、大きな天災などによる破損の場合には、修繕義務を必ずしも免れない、ということに注意してください。
参考までに申しますと、家賃が著しく低く、とうてい修繕費をまかないきれないような場合には、修繕義務を減免する特約があった、と認める余地があります。本問では家賃が安いということですから、減免の特約の存在を主張してみるのも一方法だろうと思います。判例にも、借家人が長期にわたって勝手に修繕をくり返し、家主になんの報告もしなかったときは、借家人が修繕義務を負担する特約が結ばれたとするもの、もともと修理しなければ使用に支障のある建物を、承知のうえでそれでもよいということで借りた場合、修理は借家人がするという特約があると判断したものなどがあります。

間取り
借家に適用される法律/ 間借りと借家法の適用/ 下宿と借家法の適用/ 使用貸借上の建物と借家法/ 借家のための事前調査と注意事項/ 借家契約書の形式/ 契約書のない借家契約/ 借家契約の特約の効力一般/ 個人の自由を制限する特約/ 本当の家主でない者との契約/ 代理人との借家契約/ 借家契約の保証人/ 契約の締結と建物の滅失/ 家賃の値上げと値下げ/ 適正家賃の算定/ 家賃の算定方法/ 家賃の値上げ、値下げ請求への措置/ 家賃を増減しない特約/ 滞納家賃の取立/ 家賃滞納を理由とする契約の解除/ 過大な催告/ 家賃滞納と無催告解除の特約/ 家賃滞納と失権約款/ 家賃支払の場所と時期/ 家賃受領の権限のある者/ 家賃の受領を拒絶されたときの措置/ 家賃の供託原因/ 家賃の供託手続き/ 家賃供託金の還付と取戻し/ 家賃と修繕費立替金との関係/ 権利金の性質/ 権利金の算定方法/ 新築前の権利金の前払い/ 権利金と借家権の譲渡、転貸/ 権利金の取戻し/ 家賃の滞納と敷金/ 家主の交代と敷金/ 新家主に対する抵抗力/ 借家人間の対抗力/ 借地権の消滅と借地上建物の賃借権/ 借家の修繕義務者/ 修繕に関する特約/ 借家の乱暴な使用/ 借家の無断増改築/ 借家人の敷地利用/ 借家の改装工事/ 家屋の使用目的の特約/ 一部類焼した借家の明渡請求/ 請負契約の解除/

       copyrght(c).間取りガイドドットコム.all rights reserved

スポンサード リンク

プライバシーポリシー