借家の無断増改築

借家人には保管義務ないし用法巡守義務があり、借家人がこれに違反したときは、家主は、相当の期間を定めて義務の履行を求めたうえ、借家人のほうでそれに従わなければ、借家契約を解除できます。そして、特に重大な違反の場合には催告なしですぐに解除できます。ですから、無断増改築はこの義務に違反し、家主に解除権が発生する、と一応考えられます。しかし、今日では、軽い程度の義務違反で解除することは難しくなっています。信頼関係を破壊するものかどうかが、ここでも決め手になりますが、無断にせよ、借家人が増改築するにはそれ相当の理由もあることでしょうから、居住の安定、保護のため、少々の義務違反では、信順関係の破壊を導かない、と考えられているからです。

スポンサード リンク
間取り

損傷朽廃した物置を取り壊して、新しい材料に一部旧材料を加えて別の位置に物置を建てた場合、事務所向き店舗兼住宅を改造して飲食店を始めたが、その改造が容易にもとの状態に戻せる程度であった場合、床のコンクリートの上に板張りをし、横開きのガラス戸を外して窓とドアをつくりつけ、土壁が落ちたのに家主が修理しないのでベニヤ板を張って修理した場合、歯科医である借家人が、雨の吹込みや漏電の危険を避けるため、やむをえず庇を外して二畳間を増築し、また、待合室の畳敷を板敷にするほどの改造をした場合、印刷業を営む借家人が、一家の生計上やむなく無断でドアをつけたり二畳間を板敷にしたが、家主がそれを知りながら異議を述べなかった場合、などには、無断増築を理由とする家主の解除は、認められていません。最高裁判所も、借家の裏手にあたる、北と東が建物で限られた空地に、借家人が無断で、「西と南を板で囲い古トタン板で葺いた東西二二尺余南北一〇尺余のバラック風の仮建築物を増築し、その内部に約四畳敷の仮部屋やフロ場などを設け、借家の板壁の内約三尺を撤去して両建物を内部で連絡させた」ほか、約半坪程度の勝手口構玄関を増設した事実について、「増築部分は、賃借建物の構造を変更せずしてこれに附属せしめられた一日で撤去できる程度の仮建築であって、賃借建物の利用を増加こそすれその効用を害するものではなく、しかも、本件家屋は借家人が昭和三年頃これを賃借した当時既に相当の年月を経た古家であって、借家人において自ら自己の費用で理髪店向その他居住に好都合なように適宜改造して使用すべく、家主においては修理をしない約定で借り受け、その当時所要の修理をして使用を始めたようないきさつもあり、家主は昭和二四年四月頃前記増築がなされていたことを発見したけれども、当時においては特に抗議もしなかった、というのであるから、借家人の所論の増築行為をもって家主に対する背信行為に当らず」とした、原審の判断を支持しています。
これらに対して、通常の住居として借り た者が、敷地内に店舗用住宅を新築しはじめ、家主の再三の中止申入にもかかわらず工事を進めた場合、借家(店舗併用住宅)遊持場を営むために、無断で模様替えしてはいけないという特約に反して、柱を二本切り取る等の工事をした場合には、相当の期間を定めて復旧を求めると同時に、それをしないときは解除する、との家主の意思表示を有効としたものや、住宅用建物の賃借人が敷地内に建坪五坪の工場を建てたのを、信頼関係を破壊し解除の原因となる、と断じた判決などがあります。
このあげた例からわかりますように、無断増改築をしても、もとの状態に戻すことが容易であるときや、借家人の生活の必要上やむをえず行なったような場合には、信頼関係の破壊にあたると認めるに足りない特段の事情があるとして、解除は認められない、というのが現在の状況であるとみられます。もちろん、そのさい特段の事情のあることは、借家人の側で主張、立証しなければなりません。
これに反して、増改築が建物の構造そのものを変更するような大規模のものである 場合とか、家主のしばしばの制止にかかわらず強行したという事情があるときは、解除できます。そんなときには、借家の寿命が延びて家主の期待を裏切り、また、造作買取などの問題にからんで不公平な結果を招くことになったり、家主がたえず借家人の義務違反におびやかされることになるからです。もっとも、この場合、解除が許されるといっても、そのまえに、相当の期間を定めて復旧を求めるという手続をとる必要があります。
例外的に、この手続をとっても無意味である、と客観的に認められるときは、これなしに解除できます。例えば無断改造工事の中止を求めたのに借家人が「家賃を払っているから自分の自由である」とか、「出るときに元どおりにすればよいだろう」とかいって工事を続行した例や、二回にわたる増築工事に対しそのつど強硬な中止申入をしたのに、これを無視して工事を強行した例などが、この例外的な場合に属します。
無断増改築を禁止する旨の特約それ自体は、借家法六条にいう不利な特約に該当せず、一応有効といえます。しかし、無断増改築したときは家主はただちに借家契約を解除できる、というような特約に違反した場合、常に解除権が発生するとはいえず、やはり、その違反が信頼関係を破壊する場合にかぎって、家主は解除できるにすぎません。したがって、この点では、特約があってもなくても、あまりちがわないといえます。ただ、特約があれば、無断増改築や無断造作が解除の原因になる、と一応推定されることになりましょう。

間取り
借家に適用される法律/ 間借りと借家法の適用/ 下宿と借家法の適用/ 使用貸借上の建物と借家法/ 借家のための事前調査と注意事項/ 借家契約書の形式/ 契約書のない借家契約/ 借家契約の特約の効力一般/ 個人の自由を制限する特約/ 本当の家主でない者との契約/ 代理人との借家契約/ 借家契約の保証人/ 契約の締結と建物の滅失/ 家賃の値上げと値下げ/ 適正家賃の算定/ 家賃の算定方法/ 家賃の値上げ、値下げ請求への措置/ 家賃を増減しない特約/ 滞納家賃の取立/ 家賃滞納を理由とする契約の解除/ 過大な催告/ 家賃滞納と無催告解除の特約/ 家賃滞納と失権約款/ 家賃支払の場所と時期/ 家賃受領の権限のある者/ 家賃の受領を拒絶されたときの措置/ 家賃の供託原因/ 家賃の供託手続き/ 家賃供託金の還付と取戻し/ 家賃と修繕費立替金との関係/ 権利金の性質/ 権利金の算定方法/ 新築前の権利金の前払い/ 権利金と借家権の譲渡、転貸/ 権利金の取戻し/ 家賃の滞納と敷金/ 家主の交代と敷金/ 新家主に対する抵抗力/ 借家人間の対抗力/ 借地権の消滅と借地上建物の賃借権/ 借家の修繕義務者/ 修繕に関する特約/ 借家の乱暴な使用/ 借家の無断増改築/ 借家人の敷地利用/ 借家の改装工事/ 家屋の使用目的の特約/ 一部類焼した借家の明渡請求/ 請負契約の解除/

       copyrght(c).間取りガイドドットコム.all rights reserved

スポンサード リンク

プライバシーポリシー