居住環境

日本では、古来より自然を友として生活するという風流の伝統があります。草をしとねの旅枕という境地が尊いものとされる半面、人為を軽んずる傾きがなかったとはいえません。仏教思想の影響もあってか、現世的なものはうつろいやすきうたかたの夢とも観ぜられたのであり、未世により多くの希望を託したことも否定できません。都市の形成は、煉瓦や石という耐久的な材料ではなくて、竹と紙という崩れやすいものによって形づくられました。しかも人本主義の発達がみられなかっただけに、支配者こそ築山や泉水に自然の美をとり入れたりはしましたが、庶民は草の屋根に雨露をしのぐだけで満足しなければならなかったのです。都市の形成も、封建時代には城の防衛に都合のよいように袋小路や死角を利用した見通しのきかない市街地構成をとっており、軍靴はなやかなころは軍用優先の都市形成が行なわれたことも否定できません。そこには、人間優先どころか住民犠牲の市街地形成があっただけでした。

スポンサード リンク
間取り

都市の形成において、日本と西欧とのあいだには根本的な相違があります。したがって、都市の実態を形づくる住居に対する考え方についても根本的な相違があります。西欧では住居は個人の自由なプライバシーを防衛するための城砦であるのに、日本では住居は雨露をしのぐ仮寓にすぎません。このような考え方が支配するところで人間中心の都市形成が行なわれるはずはなく、したがって居住環境に対する適切な考え方も発達しないままに都市形成が行なわれたのです。人為の中心である都市に自然のままの農村がもちこまれ、都市はさながら巨大な農村という形で存在するにいたったのです。今日においてすら日本の都市が巨大な田舎と評されるのは、西欧的水準からみれば居住環境が田舎なみにしか整備されていないことを意味しています。
居住環境という言葉によって意味されるものも多様です。社会環境、文化環境、教育環境、衛生環境などの言葉も、居住環境と関連を有することは否定できません。これらの言葉は、有形無形の様々な仕方で私達の日常生活に影響を与えるものが意味されています。子供の教育のために三たび居を移したといわれる孟母三遷の言葉にも示されているように、隣近所に面白からぬ施設があったり非行少年の巣くつがあったりすることが居住環境に重大な影響を与えることは、何人も否定しません。芸術家の集まるグリニチビレジやモンマルトルがそれにふさわしい環境を形づくっていることも否定できません。山谷や釜ケ崎には、それ、独自の環境がつくり出されています。このようにみてくれば、居住環境というのは、単に物理的、外形的なものだけでなく、精神的、内面的なものまで含んでいることが理解できます。住宅問題が単なる住居という家づくりだけでなくてコミュニティづくりという視点から取り上げられる理由も、多分にこうした事実にもとづくといえます。
しかし、ここで取り上げようとする居住環境は、行政の対象ことに地方財政支出の対象としてのそれです。したがって、ここでは物理的環境を中心に、せいぜい人間環境として望ましいと考えられるものを主として取り上げることとします。行政は、外的な社会的、客観的条件の整備に当たるとしても、精神的、内面的なものを直接対象とすることは不可能だからです。
社会は人間の共存の場であり人間が相互に意欲を交通し合いながら存在するところであるかぎり、居住環境は精神的なものから物質的なものにいたるすべてを含むといえるのですが、そのすべてが行政の対象なのではありません。行政の対象となるのは、その外的、有形的なものに限定されます。この意味で、その主要な内容を形づくるものをあげれば、次のごときものがあります。
まず住居は、それ自体が人間の居住を可能ならしめる容器を形づくりますが、それとともに、人間に対する一つの環境をも形づくります。過密、過小住宅、壕舎、工場、洞窟といった非住宅、老朽陳腐化住宅などは、いずれも適切な居住環境とはいいえません。しかし、住宅は、環境というよりも、それ自体として取り上げられるべぎものであるため、ここでは除外すべきです。
居住環境という場合、居住するのは人間自身であるため、環境というのも、こうした人間生活との関係によって規定されます。この場合、最も基本的な環境的条件を形づくるのは、人間の生命や健康との関連における環境です。低湿地、軟弱地盤、地すべり地帯、亜硫酸ガス、一酸化炭素の多発地帯などの場合は、立地の問題にとどまるだけでなく、都市形成の問題でもあります。
生存を可能ならしめる環境的条件につぐものとしてあげることができるのは、人間らしく衛生的に生きる条件として、塵芥、し尿の処理から下水の問題があります。上水は人間の生きるための不可欠の条件です。人間らしくという事の中には、動物と異なるということが含まれますが、このためには幼稚園、学校などの教育環境があげられます。しかしながら、これを拡大して文化的条件までふくめるとすれば、文化面において著しく立ちおくれているのが日本の現状です。
人間関係を中心にみれば、ことに市民精神の振興と関運する市民団体があります。それは集団生活の快適を左右する人間的条件ですが、これらの要素も環境的条件を形づくることはいうまでもありません。地方行政は、これらの側面について住民の需要を充足するために施設の整備に当たり、都市の活力の培養をはかる使命を有するのです。

間取り
住宅地計画と社会的課題/ コミュニティの分離と異質化/ 物理的都市化とコミュニティ/ 住宅地計画と人口構成/ 公共機関による住宅地計画/ 住宅地計画と定着性/ 居住環境/ 上下水道/ 公害/ 住宅地計画と実情/ 住宅地の形態/ 田園都市をめぐる思想/ 近隣住区理論による宅地計画/ 住宅地の空間構成と土地利用/ サーキュレーション/ 住宅の配置計画/ 生活環境施設の配置/ 生活環境施設の住宅他構成手法/ 景観の構成/ プログラムと住宅地経営/ 地域自治会と団地自治会/ 公営住宅自治会の日常活動/ 住宅団地の管理/

       copyrght(c).間取りガイドドットコム.all rights reserved

スポンサード リンク

プライバシーポリシー