一時使用の賃貸借

建物の賃貸借には、賃借人が生活の本拠として永続的に利用する場合と、数週間だけ行なわれる記念行事の会場として借りるといったように建物の利用目的が臨時的なもので、数日または数カ月という短期間でその一応の目的を達する場合があります。前者の場合は、建物の利用が一般に借家人の生活と深いかかわりを特つため、借家人の立場をある程度保護してやらなければなりません。このため借家法や地代家賃続制令等が設けられています。これに対して後者の場合は、特にこのような特別な保護を必要としませんので、当事者の自由な約束をそのまま護ってやればよいと考えられます。こうした建物利用の性質の違いから賃貸借を分けて、前者をふつうの賃貸借、後者を一時使用の賃貸借と区別することができます。その結果、一時使用の賃貸借と認められる場合には、借家法、地代家賃統制令等の借家人保護のための特別法の適用が排除されますので、借家関係は一時使用の賃貸借であるか否かで、その取扱に大きな違いを生じてきます。では一時使用の賃貸借とは正確にいってどのようなものをいうのでしょうか。この点について借家法八条は、一時使用の為建物の賃貸借を為したること明なる場合とだけ述べているにすぎません。一時使用という概念が、賃貸借契約に対する借家法等の適用の可否を決する重要な基準であるにしてはいささか内容が不明確であるといわねばなりません。したがって、一時使用の賃貸借であるかどうかは、もっぱらこの条文の解釈にまかされているわけです。

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博覧会の展示場とするためとか避暑、避寒のためというように、借家期間が短期間に限定されていることが必要です。とはいっても、この期間が、何月何日までというように必ずしも確定的なものである必要はありません。期間が不確定でも期限が短期間内に到来することが確実であるならばそれで十分です。例えば、二、三カ月後に子供が結婚をして、その建物に居住しますが、それまでの間だけ貸しまししょうという場合のように、近い将来に、しかも確実にその時期がくるとみられるような場合であればかまいません。したがって五年先か一〇年先かは不明だが、いずれ結婚したら、その建物に居住するから、それまでの間だけ貸しましょうというような場合は、一時使用の賃貸借とはいえません。借家人が家を建てるまでという約束で賃借した場合は、現に建築に着手しているとか、計画を立て、近々に着工することは確定しているが、その時期を確定しかねているといった状態であれば、一時使用といえますが、自分の家を建てたいという希望はいだいているがまだ建築することも確かでない場合には、一時使用とはいえません。借家法の法定更新や造作買収請求などを避けるため、契約書に一時使用の賃貸である旨を明示して賃貸期間を限定することは、しばしばみられますが、理由のないこうした限定は借家人に不利な特約としてこの限定部分が無効とされます。ここでの短期ということを、賃貸期間が一年未満である場合だけにかぎり、一年以上の場合は、借家法の規定の適用を受ける普通の賃貸借であると解する学説もあります。一年以上の期間を定めていれば、その賃貸借の目的や動機がどのようなものであれ、賃借期間中建物を使用するについて、いろいろと造作を付加する必要も考えられようから、造作買取請求権を認めて借家人を保護する必要があるなどの考えが、この見解を生じた理由のようです。借家法三条の二は、一年未満の期間を定めた賃貸借は、期間の定めがないものとしていますが、これは、決して借家法の適用を排除するかどうかの基準を示したものではありませんし、一時使用の賃貸借であるかどうかは、賃貸借の目的、動機等からその利用が臨時的なもので期間もおのずから短期間に限定されていることに着目しているものですから、あなたの病気が全快するまで、というような相当の長期間であることも予想される場合はあてはまらないにしても、一年とか何カ月とかの期間によって画一的に決まるものではないと考えるのが正しいでしょう。しかし、実際には一年未満の場合が多いことは否定できません。
賃貸借の期間が短期間であることが明確であっても、それだけの事実では、ただちに賃貸借が一時使用のものであるということはできません。一時使用であるかどうかの判定は、借家の目的、動機その他諸般の事情からみて、その使用が臨時的なものであり、その期間が経過したのちは、賃貸借関係を打ち切ってもよいと考えられる相当な理由が存在する場合で あるかどうかを基準にすべきであるとされています。すなわち、
借家の目的が、展覧会、祭典の興行のため数日間借家するとか、避暑、避寒のため一、二カ月建物を借用する場合のように、短期間だけしか建物の利用を必要としないときは、一時使用の賃貸借です。これらの場合は、借家期間が過ぎるとその後の利用が不要となるものです。
家主の敷地利用権が一時使用の借地権であるため、その消滅時期を考慮に入れ短期の借家契約を締結した場合も、一時使用の賃貸借とされます。たとえば、建物の敷地の区画整理が確定的である場合、それを前提にして区画整理のときまでの一時的借地人からその事情を知り、区画整理までという約束で店舗を賃借した場合とか、地主が区画整理実施のときはいつでも取り壊すことを条件に東京都から建築許可を得てバラックを建て、その後、区画整理が確定的となった頃、その建物を期間は一年間、この期間は延ばしてもよいが区画整理のときは無条件で明け渡すことを条件として賃貸した場合。
借家契約が営業権を与える契約といったいとしてなされた場合に、営業に関する契約が短期間に限定されているときは、借家関係も一時使用のものとされます。たとえば、期間を一年と定め、駅構内の建物を賃貸して売店契約をした場合、この建物の賃貸借は、営業権が存続する限度で、賃貸借がなされている一時使用のものとされます。
借家人としては、ふつうの住宅として借りたもので特に短期間の使用を約束する理由はないが、貸主の側に短期に限って賃貸しなければならない明確な理由がある場合も、一時使用の賃貸借となります。しかし、例えば近い将来、自分で使用しなければならないために、特に短期間に限定して賃貸したのだから一時使用の賃貸借であると家主がいえるためには、賃貸借契約を行なうときに、家主の自己使用の計画が実現の時期、内容などについて十分に明確なものとなっていなければなりません。これまでのほとんどの判例が家主からのこのような理由による一時使用である旨の主張をしりぞけてきた理由は、実はこの点が不明確であったことによると思われます。
借家をした動機が借家法による特別の保護に値しないとされる場合も、一時使用の賃貸借となります。例えば建物を無断で使用している者に対し、または賃貸借の解除または解約の効力に争いがあるため、家主がやむなく明渡しの時期を約束して、その間、賃貸した場合など、一時使用の賃貸借とみることができます。
以上のように、借家の目的、動機その他諸般の事情からみて、当事者が賃貸借を短期間に限定した理由が客観的で、しかも相当なものと考えられるときは、一時使用の賃貸借であると認められます。
当事者間に「明らか」であるといえるためには、短期の期間を定めた相当の理由が契約当時に客観的に存在していたというだけでは十分ではありません。借家契約に際して、その旨が文書なり口頭なりで表示せられ、しかも借家人もこの点を了解し、承諾している場合でなければならないことを意味しています。もし、このように理解しなければ、借家人のたまたま知らない家主側の事情のため一時使用の賃貸借とされることもでてきて、借家人の保護に欠けることになるからです。
次に、たとえ契約書のなかに一時使用の賃貸借とする旨を明記してあったとしても、先に述べてきたような一時使用とすることを相当とする理由が実際に存在しないときは、一時使用の賃貸借とならないことはいうまでもありません。
裁判上の和解や調停によって借家期間の決められた賃貸借契約が、一時使用の賃貸借として、法定更新や借賃増減請求の適用を排除するかどうかは、これまでに述べてきた場合とまったく同様で、一時使用の賃貸借と認められるだけの目的、動機等を根拠づける客観的事情があるかどうかによるのであって、契約締結の基礎が裁判上の和解、調停によったかどうかに左右されるものではありません。ただ和解調停で賃貸借の期間を決める場合には、それが明渡しの猶予期間の意味で、更新を予想していない場合がしばしばあります。このような事情が明らかなときは、この賃貸借は、一時使用の賃貸借ということができます。
借家関係が、契約の当初は一時使用の賃貸借と認められるものであっても、その後、賃料の値上げをしたり、借家人の手による本格的な増改築や営業の開始を認めたりして、借家人の家の使用を臨時的なものとしてではなく本格的なものとして認めたような事情がみられると、それまでの一時使用の賃貸借は、ふつうの賃貸借に変わったものとして扱われるようになります。

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借家の期間の決め方と効力/ 更新後の借家の期間/ 一時使用の賃貸借/ 一時使用の賃貸借の特性/ 和解、調停と一時使用の賃貸借/ 抵当権と短期賃貸借/ 解約申入と更新拒絶の要件/ 解約申入と更新拒絶に必要な正当事由/ 正当事由の存在時期/ 新家主から借家人への正当事由/ 代償の提供による正当事由/ 家計費捻出のための正当事由/ 改築あるいは新築する場合の正当事由/ 家賃の滞納、借家の使用方法での正当事由/ 営業上利害の対立での正当事由/ 借家権の譲渡と転貸の自由の制限/ 借家権譲渡の承諾の効果/ 借家転貸の承諾の効果/ 差配人や管理人などとした承諾/ 事後承諾と包括的承認/ 借家の譲渡、転貸の黙示の承諾/ 譲渡、転貸の承諾の撤回/ 借家権の無断譲渡、転貸の効果/ 間貸と転貸/ 一部の無断転貸と全部の契約解除/ 解除権の制限/ 近親者への間貸は転貸にあたるか/ 個人契約の借家を会社名義で使用している場合/ 建物の賃借人が共同事業者に建物を使用させる場合/ 無断転貸がやむをえない事由による場合/ 契約解除される前に転借人を借家より退去させた場合/ 解除権が発生せず、解除権の行使がゆるされない場合/ 移転料、更新料、名義書換料の意味/ 移転料の効用/ 移転料、立退料の算定方法/ 更新料の効用/ 名義書換料、承諾料の効用/ 名義書換料の算定方法/ 造作の意義/ 造作買取請求権の効果/ 造作買取請求権の行使と建物の留置/ 費用償還請求権の成立/ 費用償還請求権行使の時期/ 費用償還請求権の行使と建物の留置/ 借家紛争の調停と和解/ 借家の仮処分/ 土地買収と借家権/ 区画整理と借家権/

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