和解、調停と一時使用の賃貸借

家屋明渡しの調停を申し立て、結局、調停で、五年間賃貸するが、五年たったら明け渡すということが決められました。私は、貸すのはいやだったのですが、調停委員のたっての勧説もあり、また五年たったら必ず明け渡すということだったので、自分のほうの都合を無理に押えてやむなく承諾したのです。ところが五年たったので、明渡しをもとめたところ、相手方は、五年という長い期間を定めた以上、一時使用の賃貸借ということはできない、一時使用の賃貸借でないかぎり、たとえ調停で決めても明渡条項は無効であるといって争ってきました。どうしたらいいでしょうか。
家屋の明渡しをめぐって紛争が生じ、当事者みすがらの手で解決がつかないと、争いはやがて裁判所にもちだされてきます。その結果、裁判所が仲にたって、当事者双方の意見の妥協をはかって紛争を解決してくれる方法に、和解、訴訟前と調停があります。そこで当事者間に合意ができると、裁判所はこの合意の内容を調書に記載します。すると、この調書に記載された事項は判決と同一の効力を生じ、当事者はいずれもこれに拘束されることになります。
こうした和解、調停における合意の一つとして、当事者間に家屋についての賃貸借関係を認める場合があります。その多くは、紛争家屋について家屋の所有者が相手方と一定の期間をつけた賃貸借をする形式をとりますが、その実質的な意味は、紛争の内容、合意に到達した経緯によって千差万別であって、決して調書に記載された条項の文面そのもののように単純明確ではありません。
和解、調停の調書のうえにあらわれてくる賃貸借には、大きくわけて二つの場合があります。一つは、本当の意味での賃貸借です。紛争はしたものの、やがて誤解がとけて、争いを水に流し、従来の賃貸借を継続する場合とか、従来の賃貸借の条件を一部変更してあらためて当事者間で係争家屋についての賃貸借を結んだといった場合などがこれです。和解、調停条項に引きつづき賃貸する旨を述べている場合や、新たに期間を定めない賃貸借をした形をとっているときなどは、まずこの場合だといってよいでしょう。この賃貸借の性質はそれが調書に記載されているということによっては原則として特別な意味をもちません。ただ賃料については、和解、調停でその額が決められると、これが認可統制額となって地代家賃統制令の制限を合法的に変更することができますので、ときにはそのためにこの制度が利用されることもあります。この賃貸借に借家法の適用があることはいうまでもありません。
いま一つの場合は、賃貸借の形式はとっていますが、その本来のねらいは、明渡しのための猶予期間を置いたのにすぎないという場合です。
 すなわち、家屋の明渡しをすることに合意はできたものの、直ちに実行することは困難なので、移転準備のための期間を置き、この間を賃貸借として賃料を支払わせるといった場合です。二年とか三年とかの短い期間を定めた賃貸借を認めている場合などは、これにあたることが多いと思われます。もし、このような意味のものであることが明白であれば、この賃貸借は一時使用の賃貸借ということができます。

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明渡しのための猶予期間であれば、調書にその旨が明白に示されるように条項を記賊しておけば後で問題が生ずることはありません。例えば、「相手方は○○の賃貸借が平成一二年九月末日をもって解除されたことを認め、平成一五年九月一〇日限り家屋から退去して申立人に明け渡すこと」とか「相手方は○○の家屋をこの和解成立の日から三年内に申立人に明け渡すこと」としておけばよいでしょう。あるいは、やや変わった形としては紛争家屋についての賃貸借を「平成一五年九月三〇日限り合意解除する」としておけば期限付解除となって、そののちに、さらに賃貸借を主張されることはないはずです。
ところが、このような法律構成に注意を払わずに、ただ短期間の賃貸借を認める趣旨の条項にしてしまうと、あとになって、果たしてこれが一時使用の賃貸借なのか、借家法の適用を受けるふつうの賃貸借なのかが争われる原因となりかねません。
そして、もし借家法の適用を受ける場合は、期間が経過しても当然には契約は終了せず、法定更新されるのが原則です。これではせっかく和解、調停で話をまとめてもなんにもなりません。
あるいは、明渡しの猶予期間中といえども家を無料で使われるのではかなわないからなんらかのかたちで金を払わせたい、との賃貸人の気持が賃貸借というかたちになりやすいのかも知れません。それならば、またそれなりに方法があります。例えば、「明渡猶予期間中は損害金として毎月○○円を支払うこと」としてもよいでしょう。金を払わせるのに何も賃料にばかりこだわることはありません。同じ明渡しの猶予期間でもその表現が違うと、とんでもないことになるわけです。
賃貸借の形式をとりながら、しかも借家法の適用を避けて、約束の期間が満了したら、更新を主張されることもなく必ず明け渡してもらうには、やはり一時使用の賃貸借としての取扱を受けられるようにしておくよりほかはありません。そして、一時使用の賃貸借といえるには、短期の賃貸借期間が定められ、しかも、賃貸借の目的または動機などから考えて、賃貸借をその期間内にかぎり存続させることを相当とする理由があり、当事者が互いにそのことを了解している場合であることが必要なのです。もっとも学説のなかには、一年以上の期間を定めているときは、もはや一時使用の賃貸借ということができないという意見もありますが、一般には、たとえ一年以上でも、この事情を備えていれば一時使用といってよいとしています。ただ、これまでの裁判例では、借家関係で一時使用と認められているのは、ほとんど三年以内で、この点からすると、本問の五年というのは、やや長すぎるようでもありますから、一時使用とはいえないという相手の主張もあながち理屈がないでもありません。しかし、一時使用の賃貸借であるかどうかの判定は、短期間といえるものであればよく、三年ならよいが五年ならだめだというような画一的なものでは決してありません。
一時使用の賃貸借であれば、その期間が満了すると、借家人は借家を明け渡さなければなりません。しかし、それでも借家人が明け渡さない場合はどうしたらよいのでしょうか。
この場合、借家人に明渡義務があることは明白であるとしても、これだけでは、借家人がこの義務に違反したからといって、賃貸人が借家人の明渡行為を自分の手で強制することはもちろんのこと、強制執行の方法によるうとしてもその申立をすることもできません。強制執行のためには債務名 義という特別な文書が必要だからです。そして、この債務名義として最も典型的なものは裁判所の確定判決で、その内容が、相手方に家屋明渡しの行為を命じているものです。ところで、和解調書および調停調書には、ともに確定判決と同一の効力が与えられていますので、これがあるときは、これに基づいても強制執行をすることができるのですが、この場合も、和解、調停調書のなかに、相手方の家屋明渡しの行為を命ずる条項が記載されていなければいけません。この条項を明渡条項といいます。その形式は、「相手方は○月○日限り本件家屋を申立人に明け渡すこと」というように、要するに「明け渡すこと」を命じた趣旨の文言があればよいのです。これに対して、ただ「申立人は、相手方に対し、本件家屋を○年○月末日まで賃貸する」とか、「この賃貸借は○月○日限り終了し、更新しないものとする」などと賃貸借の終了期は示されていても、直接に明渡しを命ずる文言がないときは、強制執行をすることができないものとされています。賃貸借が終了することが明記されていれば、その後は借家人が家を明け渡さなければならないことは法律上明白ですから、とくにこのような文言はいらないのではないかとの反問もあるところでしょうが、強制執行は慎重であるべきですので、文書のうえに明白に相手方の行為を命ずる文言がないと強制執行はできないと一般に解されているのです。
したがって、せっかく苦心のすえ、和解なり調停がまとまって、短期間で法律関係が整理されることになっても、それがただ一時使用の賃貸借であることの確認にとどまり、この明渡条項を記載してありませんと、強制執行をするためにはあらためて訴を起こして給付判決をとり直さなければならないということにもなりかねないわけで、和解や調停の調書の記載には、慎重な注意が必要とされるものなのです。
ところで、本問の場合は、調停調書に、相手方は五年たったら明け渡すということが条項として明白に記載されているようですから、もし相手方が五年経過してもなお明渡しを実行してくれないときは、この調書に基づいて強制執行の申立をして、その目的を達することができます。

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