正当事由の存在時期

家主の建物使用の必要が借家人のそれより大であれば、正当事由が認められます。しかし、このような家主の正当事由は、ときによると途中でその基礎となる事実が変動することがあります。この場合、正当事由が消滅すると解約申入の効力も失ってしまうのか、あるいは一定の時点で正当事由が存在していればそれで十分であり、あとで消滅しても解約の効力に影響しないのか、ということが問題となります。いいかえれば、正当事由はいつ存在していることが必要なのか、ということです。
裁判所は、これについて次のように解しています。
解約申入のときには正当事由があったが、その後になくなった場合、これにはさらに二つの場合があります。
六ヵ月の解約申入期間中に正当事由がなくなった場合には解約の効力はなくなるとしています。
解約申入期間中には正当事由があったが、そののちになくなった場合、解約の効力は影響を受けません。
解約申入のときには正当事由がなかったが、そののちに正当事由が発生した場合には、正当事由が発生してから六ヵ月経過することによって解約の効力が生じます。これについて裁判所は、明渡訴訟を維持、継続している場合には、口頭弁論で弁論を行なうたびに明渡しの意思を表示しているものと解釈しています。
明渡判決の確定後に正当事由がなくなった場合には、解約の効力は影響を受けません。

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私は先代から家業として菓子商を営んでいたのですが、事情あって家業をやめ、その店を他人に貸しました。ところが最近、親戚、知人の勧めで家業を復活する段取りとなったので、借家人に対して解約の申入をしました。しかし開業資金の捻出ができず、解約申入後四ヵ月日に計画を断念しました。このような解約申入後まもなく正当事由がなくなったというような場合、解約申入の効力はどうなるのでしょうか。
この場合は先代からの家業の復活を理由として解約を申入していますが、この場合、家業復活そのものが正当事由にあたるかどうかについても問題があります。しかし、主眼が後半にあるようですから、ここではこれを問わないで、仮に正当事由があるものとして話をすすめます。ところで、家業の復活も途中で開業資金が捻出できず、解約申入のときから四ヵ月目にその計画を断念していますから、そのときに正当事由が消滅したことになります。したがって判例によると、六ヵ月の解約申入期間中に正当事由がなくなった揚合にあたりますから、解約の効力はなくなります。

私は家主から明渡しの訴訟を起こされ、訴訟は三年も続いています。その理由は、家主は知人から六畳一間を間借して家族五人と住んでいるが、窮屈なので、私に家を明けてくれというのです。ところが最近になって、家主の家族五人が事故で亡くなり、家主一人だけになりました。この場合はどうなるのでしょうか。
これは家主から住居の狭阻を理由として明渡しを求められているとのことですが、家主は家族五人と六畳一間に間借しているとのことですから、ほぼ解約申入について正当事由がありそうな事例です。ところがその後、事故で家族五人が亡くなり、家主一人となったのですから、家主は正当事由を失ってしまったことになりますが、正当事由が消滅した時期は、家主が訴訟を提起してから三年後ですから、六ヵ月の解約申入期間中は正当事由があったが、そののちになくなった場合にあたります。判例からいくと、正当事由の消滅によって解約の効力は影響を受けないということになります。つまり、家族五人の死亡という事情は考慮されずに、家主は依然として住居の狭を理由として裁判を継続することができます。しかし、学者の多くはこれに反対して、借家法の趣旨から、口頭弁論が終結するときまでの一切の事情を考慮して判決すべきであると主張しています。この立場だと、たとえ六ヵ月の解約申込期間後であっても、口頭弁論が終結しないかぎり新たに発生した事情は考慮されますから、本問の場合には解約の効力が否定されます。

私の家主は、老人であるアパート四畳半を借りていましたが、近く退職して帰京する長男一家と一緒に居住し長男に商売をさせるという理由で、家屋明渡しの訴を起こしました。しかしその後、調停を申し立てたので、私も争うことを好まないから家屋明渡しの調停に合意し調書をつくりました。ところが、長男一家が帰京しないことがあとで分かったので、私としては明渡しを阻止したいと思いますが、できるでしょうか。
この場合は正当事由の存在時期に関連して問題となるのですが、訴訟の途中で争いを簡易に解決するために、調停や和解などで解約が行なわれることがあります。そのときにつくられる調停調書や和解調書は、法律上強い効力を持ちそれに基づいて借家の明渡しを強制することができます。ところで、調停に合意していますが、この際問題となるのは家主の正当事由を認めたうえで、調停調書がつくられたのかどうかということです。調停で合意した理由は、争いを好まないというだけではなく、内心、家主の窮状を察してのことであるうと思います。しかし、このような家主の正当事由を調停の内容つまり調停条項として認めたうえで、解約に合意してはいないようです。このような場合には、判例はあとで正当事由がなかったことを理由として、調停の無効を主張することができない、としています。したがって、家主の長男が帰京しないということがあとでわかっても、それを理由として調停の効力を阻止することはできません。学者もこのように解しており、さらに正当事由があると主張する調停でも、正当事由の有無を正確に判断していないことが多いから正当事由がなかったことを理由とする調停の無効を一般に認めないほうがよいとしています。なお、調停成立後に正当事由がなくなった場合には、調停の無効を主張できません。これは前に述べた確定判決後に正当事由がなくなった場合と同様に解されます。

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