新家主から借家人への正当事由

私は借家人のいることはわかっていたのですが、この土地で商売を始めるにはどうしてもこの建物が必要だったので買い受けたのですが、こういう場合には絶対に解約申入は許されないのでしょうか。それとも明渡しを求める何か適当な方法があるのでしょうか。
新家主だからといって絶対に正当事由が認められないわけではありません。今日では、他の場合と同じように新家主の地位も、借家人の事情と比較してきめることになっています。しかし、これをそのまま認めるわけにはいきません。なぜなら、家主が正当事由を有している買主 新家主を探してくれば、いつでも借家人を立ち退かすことができるというようなことになるからです。そこで、 ふつうの場合にくらべて解約申入の正当事由を厳格にする必要があります。裁判所は次のように述べています。新家主さえ出現しなければ、借家人の居住の安全は害されることがなかったのですから、「かかる解約申込の正当事由の有無を判断するに当っては、賃借人の居住の安全が保障されるかどうかの点が特に充分に考慮されなければならない」として、単に借家人について家屋明渡しの意思があるかないかを確かめたというだけでなく、さらに借家人に対して移転先の提供など家屋明渡しにおける借家人の居住の安全を保障したかどうかが、正当事由を判断する基準となるとしています。

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借家人に移転先がない場合、借家人が移転先を有していないので、正当事由が認められなかった事例として、新家主が狭い住居を転々とし母が病気で因っていても、借家人に移転先がなければ正当事由は認められないとし、また新家主は六畳に三人で住んでいるのに対して、借家人はハ畳、六畳、四畳半三間、二畳を六人で使用しているが、二十数年来居住しており、移転先がないという場合には、一部について応正当事由は認められたいとしています。
家主が移転先を提供しないので正当事由を認めなかった事例として、新家主の住居は手狭だが一応安定しており、借家人は生計が困難であるという場合には、家主は移転先を提供しなければ正当事由が認められないとしています。
借家人に移転先がある場合、家主が移転先を提供したので正当事由が認められた事例として、新家主が移転先を提供しているので正当事由ありとした昭和二五年の判例があります。ただこの判例は、学者によって、正当事由について従来の判例、学説が一致して認めている基準に反するものである、として強く批判されています。また住居に窮する妹一家を救うためこれを自分の借家に入れ、自分は隣に移る目的で隣家を買った新家主が、必ずしも不向きでない移転先を提供したのに借家人がこれを拒絶しかつ借家人夫婦が家主の老母に泥を蹴りかけるなど各種の強暴な言動に出た場合に、信義誠実の原則に反するとして明渡しを認めています。
借家人が相当の移転先を有しているので、正当事由が認められた事例として昭和二七年の二つの判例があります。
移転先さえあれば正当事由が認められるか判例は、借家人の居住の安全が十分に保障されているかどうかを基準としているので、移転先の質と量を問題にしています。例えば新家主が提供した家屋は狭く、借家人側の看板業の経営は、そこでは困難であるとして正当事由を否定した事例や新家主が現在より相当狭いトタン張りで水道、ガスのない移転先を一年間ただで貸すということをつけ加えても、正当事由にならないとした事例などがあります。
新家主が自分の借家先の家主から明渡しを求められている場合、この場合の特別な事情として、判例は明渡しを求められた度合が差し迫ったものであるかどうかを基準にしているといえましょう。新家主は妻子と三人でこ一畳の畳数の家を借りているが、それは明渡しを求められており、しかも婿養子を迎える必要があるのに、借家人は家族四人で階下六畳、四畳、台所四畳半、玄関二畳、二階八畳、六畳、三畳の家屋を使用しているので、二階の明渡しを認めています。新家主が自分の借家(同居)先の家主から明渡しを求められていることは同情に値するが、現在のところその同居生活は円満に行なわれており、差し迫った窮状にあるとは認め難い。これに対して借家人は現在肺結核に倒れ困窮状態にあり、人道上からも信義誠実の原則から応正当事由を認めえないとした事例もあります。
以上の事例から、新家主についても解約が認められる場合があるということが分かると思いますが、本問の場合は商売上の必要からということなので、それだけの事情では明渡しを求めるのは困難だと思います。借家人に相当の移転先を提供するとか、あるいは借家人が相当の移転先をもっているとか、という事情がないと無理でしょう。また仮に自分自身も借家人であれば、借家先の家主から厳しくく立退きを迫られているというような事情があれば、立場もかなり有利になります。

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