家計費捻出のための正当事由

私は事業に失敗し、資産を失い、多額の税金の支払に追われ、家計費、子供の教育費などの捻出にも苦しんでいる次第です。それで僅かに持家として残ったこの貸家を処分して急場をしのぐよりほかありません。しかし、空家として売却するのでなければ有利に換金処分することができず、そうでなければ、とうてい賄いきれません。このような場合には、解約申入をするにつき正当事由があるといえるのでしょうか。
家主が単に貸家を有利に売却しようとする意図でなした解約が正当事由を認められないことは、借家法の趣旨からして明らかです。問題は、家屋売却のための解約がいかなる場合にも正当事由となりえないのかにあります。この点、判例によっては、家主が非常に窮迫し、かつ借家人に移転先がある場合のような特別の事情があれば正当事由が認められるとするものもありますが、一般的には、家主が多額の借財のため生計に困っているとか、借家人に不誠意があるとか、という場合に、家主に空家として売却することを認めているようです。

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貸家を空家として売却することを認めた事例として、学業中の未成年の家主が財産税などのため多額の借財を負い、それから免れるためには貸家を空家として売却する以外に方法がないうえ、立退料を提供して明渡しの懇請をしたにもかかわらず借家人が応じない場合には、正当事由ありとしています。
老退職軍人である家主が生計のため貸家を売却する必要ありとして明渡しを求めた事件で、家主は現に立派な住宅に居住し他に貸家もあるので全面的な明渡しは認められないとして、家屋を売却しやすいように八畳一間を除いた他の部分の明渡しを認めた事例もあります。
家主は老女で、所有不動産を売却して衣食にあてる以外に生計の途がないのに、借家人は余力はないが調停にもほとんど出席せず移転先を捜す努力もしかいから、不誠意であるとして明渡しを認めています。
この事例は前の諸事例と違って、貸家を空家とするための解約申入ではなく、家主が現在の居住家屋を売却し、自分の居住のために借家人に明渡しを求めた事件です。家主には財産税や妻の病気死亡などで多額の借財があり、そのうえ自分も結核を病み居住家屋を売るより方法がなかった場合に、借家人に若干の余裕がある以上、同居が妥当であるとしています。
貸家を空家として売却することを認めなかった事例として、家主が家計上、家屋売却の必要があるが、それを有利に換価するには空家にする必要があるというだけでは正当事由にならないし、現在の建物より条件の悪い移転先を一年間貸すということをつけ加えたとしても正当事由にならないとしています。
この事例からすれば、生計に困っているので貸家を売却する必要があるという事情は、正当事由を判断する場合に有利な資料となります。しかし、これだけ の理由で明渡しが認められるとはかぎりません。この判例を詳細に眺めると、例えばこの一部明渡判決や同居判決を借家人に移転先の部分的な提供をしたものと解すれば、借家人に移転先があるかないかが重くみられているといえます。そうだとすると、初めに述べた家主の窮状と借家人に移転先があるというような特別の事情がある場合に、一般に正当事由が認められているともいえます。そもそも借家法がある以上、家主が貸家を空家として売却することによってその経済的困窮を借家人に転嫁するということ自体がおかしいのです。ですから学者によっては、このような事例ではいかかる場合にも正当事由を認めるべきでないという主張すらあります。したがって本問の場合も、借家人に移転先があるとか、立退料を提供するとか、ということをしないと無理ではないかと思われます。

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