営業上利害の対立での正当事由

私は繁華街に二軒の店を持ち、自分はそのうちの一軒で家具商を営み、隣の店は菓子商のAに貸しています。こんど自分の営業を拡張するため、Aに隣の店を明け渡してもらい、自分の店と一緒に取り払って、その跡にビルを建築したいと思い、Aに対して解約の申入をしたところ、Aは、自分のほうも菓子商のほかに喫茶店経営の計画を立てている、それには自分の店だけでは狭すぎるので、私の店の買取方を私に交渉しようとしていた矢先だから、とうてい明け渡すことはできないといって争ってきました。こうした商人間の争いの場合には、正当事由の有無はどういうことを基準にして決められるのでしょうか。
本問では、営業上の利害の対立だけが問題となっているようですが、建物が営業専用の建物なのか、あるいは併用住宅、つまり居住と店舗を兼ねた建物であるのか、が明らかでありませんので、両方の場合について考えておきましょう。
併用住宅の場合には、Aの居住利益と営業利益の双方が考慮されます。そして、Aのこれらの利益と家主の利益とが比較されて正当事由がきまります。一般的にいえば、併用住宅は営業専用住宅よりは正当事由が認められにくいといえましょう。

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併用住宅についての事例をあげましょう。
正当事由なしとした事例としてむ、借家人が相当多額の権利金や改造費用を店舗に投じ、十余年間そこで楽器商として営業、居住を続けている場合には、家主が相当困窮しており、そのため従前の生業である羅紗商を再開して生計を立てねばならないというときでも、正当事由なしとしています。
家主は糸繭の買入商で五人家族で一二坪の家に住んでいるのに、借家人は楽器販売業を営み一〇人家族で五六坪の家に住んでいます。借家人のほうがかなり余裕があるが、営業用店舗ではその居住人員と家屋の広狭の比例は、はなはだしく常軌を逸しないかぎり、正当性を判断するうえでさまで重要な資料とはならないとして、家主の明渡しを認めていません。
借家人は製パン業者で長年その建物に住んで改良を加えてきたが、新家主はこの建物を自分の店舗とするために適当な移転先を提供して明渡しを求めた事件で、裁判所は両者の建物利用の利益は同等であるとして、訴訟の一般原則によって借家人の占有を尊重して正当事由を否定しています。
家主側は同居している妻の妹に夫を迎えて店舗を与え、その母の家をつがせる必要があるのに対して、借家人はその店舗で二〇年以上も喫茶店を経営している場合には、借家人の必要のほうが大であるとしています。
新家主は楽器、写真機販売業で、借家人に現住家屋と貸家との交換を申出たのに対して、借家人は二十数年そこに居住し工芸美術商を営んでおり、移転は営業上の打撃が大きいこと、家主は貸家の隣家も買って飲食店をしていること、などから明渡しを否定しています。
正当事由ありとされた事例として、家主は借家人の隣で菓子製造業を営んでいるが、人数が多くまた拡張を必要とするために、洋裁業を営み、そこに居住している借家人に相当な移転先を用意して明渡しを求めたが、これを借家人が拒絶したので、正当事由ありとしています。
新家主は御嶽教育教師で自分の家だけでは行事に狭いので明渡しを求めたが、借家人は五人家族で向かいに六畳、四畳半、八畳、六畳の建物を所有し、借家を明渡ししても困らないので正当事由を認めています。
家主は第三者から借りた建物で酒類小売商を営んでいたが、その建物を明け渡さねばならなくなったので解約申入をしたが、家主は相当の資力を有し別に一六坪の建物を有し、居住には困らないが、借家人は、家族六人で表具師を営んでいました。裁判所は、借家人は現在、賃貸中ではあるが甥所有の住宅を近く使用しうる見込があること、表具師は裏通りでも営めるし、さらに住宅事情も好転していることなどを理由として、家主の主張を認めています。
ところで、本問が仮に併用住宅であると仮定した場合、家主の自己使用の必要は営業上の利益だけのようですから、これだけで正当事由を認めるのは無理でしょう。もっとも、この昭和三一年の最高裁のように住宅事情の好転を理由として家主の必要度をかなり重くみるものもありますから、一概に営業上の利益だけでは無理であるともいえないかもしれません。しかし、判例の一般的傾向からいけば、借家人に相当な移転先があるような場合には、比較的容易に正当事由が認められていますし、また最近では立退料の提供を補強条件として正当事由をみとめるという傾向もありますから、本問でもこれらの提供をしたほうがよいと思います。
営業専門建物の場合、この種の建物については、家主の正当事由が容易に認められています。若干の事例をあげてみましょう。
大きな家具商が戦時中、国から協力を求められて短期賃貸した営業用建物は、それが現に郵便局分室として使用され一五〇人もの人が勤務していても、家主の営業再開のために必要があれば国はそれを明け渡さねばならない、としています。
家主であるビル所有者たる財団法人基督教清美会が、それをクリスチャンセンターにする計画で、機械取引をしている一室の借家人に明渡しを求めた場合には正当事由ありとしています。
家主は生計を維持するには困らないが、明渡しを求めて浴場を経営する相当の理由があるのに対して、借家人は雇人をおいてパーマの営業をし、他に住居、営業所を有しており、営業も良好である場合には、正当事由ありとしています。
このように営業専用建物の場合には、家主の自己使用の必要さえ認められれば、ほぼ明渡しが認められているといえます。借家人の営業上の場所的利益その他の事情はあまり考慮されていないようです。そこで、学者によっては、この種の建物については借家法の適用を否定すべきであるとしています。本問でも、この種の建物であれば、このような事情でも明渡しを認められる可能性が強いといえます。ましてや、移転先や立退料の提供があれば、その可能性はより強いといえます。

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