借家権譲渡の承諾の効果

私は家主Aから家を借りていたのですが、Aの承諾をえたので、借家権を第三者Bに譲渡しました。この場合、私が入れている敷金はAから返してもらえるのでしょうか。また私に延滞賃料があったら、これは私が払わなければならないのでしょうか。それから新借家人Bは旧借家人たる私の契約関係をそのまま引き継ぐのですか、それともBはAと新たに賃貸借関係を結んだことになるのでしょうか。
家主の承諾があれば、借家権の譲渡は適法にその効果を発生し、譲受人は借家人(譲渡人)の有していた借家権を完全に承継取得するとともに、その反面、借家人は借家権を失って借家関係から離脱することになります。ところで、ここにいう借家権とは、借家人としての契約上の権利義務を包括した「借家人たる法律上の地位」を意味するのですから、言葉を換えていえば、譲受人が旧借家人の借家人たる地位を引き継いで、旧借家人に代わって借家人の地位につき、旧借家人は借家人たる地位を失って借家関係から脱却するということができます。このように、借家権の譲渡とは、借家権が同一性を維持しつつ譲渡人から譲受人に移転することをいうのですから、譲渡を目して、家主と譲受人間の新規借家契約の締結と同じだということはできません。もっとも、家主が借家権の譲渡を承諾しておいて、あらためて譲受人との間に新規に借家契約をしなおすということも世上往々に見受けられますが、それは当事者の自由であって、別に拘束を加えるべき筋合のものではありません。ただこの場合でも、譲渡すなわち家主、譲受人間の新規契約の締結と考えられるのではなく、いったん譲渡された借家権を合意解除により解消させ、そのうえで新規契約を締結したという関係になるのです。
もうすこし分かりやすくいうと、借家権の譲渡の場合には、家主と旧借家人との間に存した契約関係、すなわち、賃料額、賃料支払時期、使用目的等に関する契約条項、さらに特約があればその特約条項が、そのままそっくり譲受人に引き継がれることになるのです。もっとも期間は、たとえば五年と定められてあっても、旧借家人の時代にすでに三年を経過していれば、譲受人の引き継ぐのは残存期間の二年ということになります。

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借家権の譲渡とは借家人たる地位の承継であるといいましたが、それなら、旧借家人(譲渡人)に延滞賃料債務がある場合、これも借家人たる地位に基づいて発生した債務であるとして、譲受人において当然引き継がなければならないでしょうか。本問については、次のようにいうことができます。
借家権の譲渡は借家人たる地位の承継であるといっても、ここにいう借家人たる地位とは、借家人の有する基本の借家契約上の権利義務の包括的呼称であって、基本の契約関係に基づき現実に個々に発生した権利義務はそれぞれに独立の存在をもち、基本の契約関係から分離して別個に存在するるのですから、それは、もはや基本の契約関係と運命をともにすべきものではありません。旧借家人の延滞賃料債務も、基本の借家契約関係に基づいて発生したものであるとはいえ、すでに現実に発生したものである以上、基本の契約関係とは別個の存在を有し、これと不可分離の関係に立つものではありませんから、基本的契約関係の移転に伴って当然に移転することはありません。そういうわけですから、特別の約束をしないかぎり、旧借家人(譲渡人)の延滞賃料は、旧借家人において支払わねばならず、譲受人に支払義務はありません。
しかし、実際には、家主が、譲渡承諾の条件として、譲受人に旧借家人の延滞賃料債務を引き受けさせていることがままあるようです。それはそれで、当事者の合意によることですからさしつかえありません。
それなら、譲受人に譲渡人の延滞賃料を支払わせるためにはどうすればよいかというと、それには、いろいろの方法があります。まず、譲受人に保証なり連帯保証なりをさせることも一法です。それから重畳的債務引受といって譲受人に譲渡人の債務を重畳的に引き受けさせることもできます。以上の場合は、譲渡人と譲受人とが併存的に債務を負担することになりますが、譲渡人を免責して、譲受人だけに支払責任を負わせようとするなら、免責的債務引受をさせなければなりません。ただし、これには、家主、譲渡人、譲受人三者の合意が必要だとされています。
このような特別の契約をしないかぎり、譲渡人の延滞賃料債務は、当然には譲受人に承継されることはありませんから注意してください。
家主の変動があった場合、新家主が旧家主から敷金を引き継いでいなくても、新家主は当然に敷金返還債務を承継するということは判例理論となっています。しかし、逆に、借家権の譲渡により借家人の変動があった場合に、敷金返還請求権が新借家人によって承継されるかどうかという点については、まだ判例は見当たらないようです。本問の場合は、旧借家人が借家権の譲渡を理由に家主に対して敷金の返還を請求することができるかというのですが、結論から先に述べれば、できないというほうが妥当でしょう。
敷金契約は借家契約に付随してなされる契約であり、そもそも、敷金とは、借家契約が終了し借家が家主に返還されるまでの間に生じた、賃料その他、借家契約に基づいて発生する債務の担保として授受されるのですから、敷金契約は借家契約と運命をともにすべきものと考えられます。そうとすれば、借家契約が終了したのでなく、同一性をもって継続しているとみられる借家権譲渡の場合に、これを借家契約の終了の場合と同じようにみて、旧借家人に敷金の返還請求を許すことには無理があるといえましょう。もし、これを許すとすれば、家主は契約関係の途中において担保権を失 うことになり、既得権の侵害になります。もっとも、契約関係から離脱した旧借家人の立場だけからすれば、契約終了の場合と同じだといいたくもなるでしょうが、契約関係が同一性をもって新借家人に継続されるとみられる以上、家主の立場を考えれば、旧借家人としては忍ばねばなりません。
それなら、この場合、敷金返還請求権は新借家人に承継されるものでしょうか。家主の変動の場合に、敷金返還債務が新家主に当然承継されるのと同じような理論で、新借家人が敷金返還請求権を当然に承継すると考えるのがよいでしょう。もっとも、実際には、借家権譲渡の場合、敷金返還請求権の引継ぎを前提とし、敷金額を考慮に入れて譲渡の対価を決めるのが常のようですから、この点に関する問題はあまり起こらないのでしょう。それから、紛争を避けるため、場合によっては、借家権の譲渡にさいし、家主、譲渡人、譲受人の三者が合意のうえ、家主からいったん譲渡人に敷金を返還し、家主が譲受人から新たに敷金を徴収することも一方法かとも思われます。

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