差配人や管理人などとした承諾

私はいつも家主の差配人のところに家賃を届けていましたが、友人から借家権を譲ってくれといわれたので、差配人のところに家賃を届けに行ったさいに差配人に対し借家権を友人に譲ってよいかとたずねたら、差配人は承諾してくれました。それで私は友人に借家権を譲渡したところ、家主から、差配人には家賃の取立を命じてあるだけで、譲渡、転貸の承諾の権限は与えていないから、譲渡を認めるわけにはいかないと文句をいわれました。差配人や管理人などは譲渡、転貸の承諾を与える権限はないのでしょうか。
借家権の譲渡、転貸について、適法かつ有効に承諾をなしうるものは、家主と、家主からその点についての代理権を与えられている者とに限られます。それでは、家主の差配人や管理人などは、つねに、家主に代わって承諾を与える権限をもっているかというと、必ずしもそうではありません。一概に差配人、管理人といってもその権限の内容は様々です。家賃取立の権限しかない場合もあり、さらに修繕等家屋保存に関する権限を与えられている場合もあり、さらには広く借家人の選定、借家契約の解消など家屋の管理に関する一切の権限を任されている場合もあります。ここに、差配人とか管理人とかいっても、それはいわゆる俗称であって、その名称に伴って法律的に権限の内容が一定しているわけではありません。要は、家主とこれらの者との契約によってその権限の内容が決められるのであります。そういうわけですから、差配人、管理人だからといって、つねに承諾の代理権があると考えるのは早計です。この設例において、家屋管理に関する一切の権限を任されている場合には、もちろん承諾の代理権があるとみてよいでしょう。しかし、それ以外の場合には承諾の代理権があるとみることはできません。もっとも、家屋管理に関するい、さいの権限を有する場合でなくても、特に家主から、譲渡、転貸に関する承諾の代理権を与えられていれば、それでさしつかえな いことは当然です。本問の場合は、差配人は家賃取立の権限があるだけで、譲渡、転貸の承諾の権限は与えられていないということですから、このような差配人から承諾を受けても、適法有効な承諾があったということにはなりません。
しかし、このような場合でも、民法一一〇条の表見代理の法理によって有効な承諾があったとみられることもありますから注意を要します。それではそれはどういう場合かというと、本問のように、差配人は、実は、家賃取立などの権限しかなく、譲渡、 転貸に承諾を与える権限はもっていないが、差配人の態度、言動その他周囲の状況などからみて、第三者の側からすれば、いかにも差配人に承諾の代理権がありそうにみえ、したがって第三者、ここでは借家人または転借人がそう信じたというような場合です。このような場合には、民法一一〇条によって、家主は、差配人に承諾の代理権を与えていなくても、みずから承諾を与えたと同じように取り扱われます。
「甲は従前乙家の家業及びその土地の管理権を有し、現在応乙の店舗で乙を代理して営業をする権限があり、かつ乙の土地の地代の督促及び領収につき代理権があり、従前どおり乙の使用人として、その土地の管理をなしているような状況を備えていたのであるから、賃借人丙が本件転貸借の承諾について、甲に代理権があると信じたのは、正当の事由があるというべきである」として表見代理の成立を肯定した判例もあるが、「甲の代理権限としては賃料及び敷金の受領程度以外に認められないから、同人のした本件の承諾はその権限外の行為と認めなければならない。甲が管理人と呼ばれ、賃料の取立をしていたことから、直ちに転貸の承諾をする権限があると信ずることは全く軽率であり、これらの事情から乙がかく信じたとしても、これを正当の理由ありとは判定し難い」として表見代理の成立を否定した判例もあります。しかし、表見代理の成否は要は事実の内容いかんによって決まることです。

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