解除権の制限

借家権を無断譲渡、転貸したら、借家契約を解除されても、やむおえない思われますが、事情によっては、借家人、譲受人、転借人らに酷だと思われる場合もあるでししょう。それでこういう場合に、どんな救済方法があるのでしょうか。
借家契約は当事者間の個人的信頼関係を基礎として成立しているものです。
そこで民法六一二条は、借家人が借家権の譲渡または借家の転貸をするには、家主の承諾を要するとし、もしそれに違反して承諾なく無断で第三者に借家を使用収益させたときは、違反行為の制裁として家主はただちに借家契約を解除できることを規定しています。その立法趣旨は判例によれば、「借家人の何人であるかは賃貸人に著しい利害関係をもっており、借主の資力、性向、職業などが異なればおのずから用益の程度、方法にも差異を生じ、また賃料支払についても別異の結果を生ずる」からであるとされています。
ところで本条の解釈にあたっては、時代的な推移がみられ、戦前における学説、判例は、いやしくも無断譲渡または転貸の事実があれば、それ自体が家主に対する背信行為として、当然にこの規定によって契約を解除しうると解しました。戦後においても、かかる解釈をとる判例がまったくなくはありません。このような解釈は、家主の保護に重きをおきすぎ、借家人、譲受人、転借人にとってははなはだしく酷なものでした。
しかし、戦後における社会経済事情の変化、特に住宅事情の悪化に伴い、無断譲渡または転貸それ自体が背信行為として当然借家契約を解除できるという従来の解釈態度は改められ、背信性を具体的個別的に考えるようになりました。すなわち、形式的、外形的に無断譲渡や転貸の事実がありましても、それが当然に借家契約の解除原因とはならず、その無断譲渡や転貸が背信行為に該るか否かの判断を経て、そう認められる場合にのみ解除することができるとし、したがって、たとえ借家権の無断譲渡または転貸と認められる事実があっても、「背信行為と認めるに足りない特段の事情」のある場合には、借家契約の解除は許されない、解除権は発生しないという最高裁の判例法理が確立するにいたって、借家人の地位、財産権的ないし居住権的地位は著しく安定してきました。

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借家権の無断譲渡または転貸の事実にあっても、家主に対する背信行為と認められない「特段の事情」が存するときは、家主は契約の解除ができないのですが、その「特段の事情」とはなにか。ここにおける信頼関係の維持とは、主として家主の経済的利益が侵されないこと、すなわち家賃請求権と借家の保存に対する保障などです。しかし経済的利益と直接関係のない人的要素も、またまったく無視することはできないでしょう。例えば借家人が中間利得をしているとか、職業、品性が不適当であるとか家主の警告にもかかわらず違反行為を停止しなかったなども、背信性を強化するファクターになるのではないかと思われます。
したがって「背信行為と認めるに足りない特段の事情」の判断にあたっては、物的に借家の使用状況および賃料支払等の実質関係に従前と変わりがないことのみでなく、無断譲渡または転貸の事情、例えば、借家人と譲受人または転借人間に近密な身分関係があるとか、社会的、実質的に同一人であることなど、その他、諸般の事情が考慮されるでありましょう。
最高裁は「賃借家屋を使用してミシン販売の個人営業をしていた賃借人が、税金対策等のためこれを株式会社組織にしたが、その株主は賃借人の家族の親族の名を借りたに過ぎず、実際の出資はすべて賃借人がなし、該会社の実権はすべて賃借人が掌握し、その営業、従業員、店舗の使用状況も個人営業の時と実賃的になんら変更がない」場合は、賃貸人に対する「背信行為と認めるに足りない特段の事情があるから賃貸人に民法六一二条による解除権は発生しない」としています。これは背信行為の判断基準を物的信頼にのみ求めるべきでないことを示唆するものといえましょう。
その他、最高裁判例は、戦後制定された商工組合法によって借家人である組合が解散して、二つの有限会社を設立して借家権を無断譲渡した事案について、また他人の借りている家屋を安く買っておいて家主の地位を承継し、その家屋の借家人の病気療養中にその娘婿が自ら使用していた一間を勤め先の協同組合の事務所に一時的に無断転賃したことを口実として、すでに退去して原状に復しているのに借家契約を解除した事案について、いずれも家主に対する「背信行為と認めるに足りない特段の事情」があるとして民法六一二条二項による契約解除を否認しています。その他、下級審にもこの法理により契約解除を認めなかったものは数多くあります。
要するに、借家人の側に契約解除をもって制裁するに値するほどの背信性が認められない場合には、「特段の事情」があるとして契約の解除は許さ れないと考えられます。
それでは、民法六一二条二項により契約を解除し、家屋の明渡しを請求する訴訟において、その無断譲渡ないし転貸の背信性を家主側にお いて主張、立証する義務を負うのか、それとも契約解除を阻止しようと欲する借家人側に背信性のないことを主張、立証する義務があるのかの問題があります。
前述の無断譲渡、転貸を制限する最高裁の確立した判例法においては、背信行為と認めるに足りない「特段の事情」は解除権発生の障害事由とみるべきですから、解除 権の発生を争う当事者(借家人側)においてこれを負うのが立証責任の分配の原則からいって当然であるうと思います。判例も借地に関してではありますが、「背信行為と認めるに足りないとする特段の事情は、その存在を賃借人において主張、立証すべきである」としています。

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