個人契約の借家を会社名義で使用している場合

私は建物を借りて、そこで個人営業をしていましたが、税金対策の関係から、従前の個人営業を会社組織に改めました。しかし、改組の前後を通じて経営の実態には本質的な変動はありません。このようなときでも会社の看板を出したら、無断賃借権譲渡または転貸ということで契約解除されることになるのでしょうか。
建物の賃借契約は、当事者間の個人的信頼関係を基礎としているものでありますから、信頼関係を裏切って借家人が第三者に賃借建物を使用収益させたときは、その背信行為 に対する制裁として民法は賃主に契約の解除権を認めています。
この規定の解釈について、戦前は賃借権の譲渡または転貸の事実それ自体を背信行為として賃貸人に契約の解除を認めていましたが、戦後の住宅事情の悪化に伴い、従来の解釈態度は改められ、背信行為を個別的、具体的に解して、外観的、形式的に賃借権の譲渡または転貸の事実があっても、それが賃主に対する信頼関係を破るものでないかぎり、貸主の解除権は発生しないと解されるようになり、いまでは、背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には契約の解除権は発生しない、解除はできないという判例法理が確立しています。

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背信行為と認めるに足りない特段の事情とは何か。背信行為の判断基準は、主として物的に賃貸人の経済的利益を中心に考えるべきで、例えば賃料請求権や建物の保存を危うくすることであります。したがって、賃貸人の承諾をえずになされた賃借権の譲渡、転貸であっても、建物の管理、使用方法において従前と格別変わりなく、かつ賃料支払においても、賃貸人に対して損害を与えるおそれがないと認められるかぎり、そこに背信性はないとしなければなりません。
しかし、背信行為の判断にあたっては、このような経済的利益ばかりでなく経済的利益に直接関係のない人的要素、例えば賃借権の譲渡、転貸の事情もこれをまったく無視することはできないと思います、譲渡または転貸の事情とは、例えば譲渡、転貸が軽微であるとか賃借人と譲受人ないし転借人間に近密な身分関係が存するとか例えば、賃借人の内縁の妻が賃借人の相続人より借地権を譲り受けた場合や、賃借人が夫と息子に転貸したなど、賃借人が譲受人または転借人と社会的、実質的に同一人であることなどがこれであります。
賃借人が譲受人または転借人と社会的、実質的に同一人である場合として、判例は賃借人たる商工組合が有限会社に改組して、賃借建物を会社に使用させている場合、経営の実態が同じであるから、背信行為とならない特段の事情がある、まり背信行為がないとして賃貸人の契約解除を否認しています。
また昭和三九年一一月一九日最高裁は「賃借家屋を使用してミシン販売の個人営業をしていた賃借人が、税金対策のため、これを株式会社組織にしたが、その株主は賃借人の家族や親族の名を借りたにすぎず実際の出資はすべて賃借人がなし、該会社の実権はすべて賃借人が掌握し、その営業、従業員、店舗の使用状況等も個人営業の時と実質的になんら変更がない等の事実関係のもとにおいては、賃貸人の承諾なくして賃借家屋を会社に使用させていても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるから、賃貸人に民法六一二条による解除権は発生しない」と判示しました。これによって明らかなように、賃借人が賃貸人の承諾なしに賃借家屋を第三者たる新会社に使用させたが、それが物的に賃貸人の経済的利益を害するおそれがないだけでなく、人的にも第三者に使用させた事情が税金対策のためであると、また株式会社組織にしても、その株主は賃借人の家族や親族の名を借りただけで、実際の出資はすべて賃借人がなし、会社の実権はすべて賃借人が掌握しているのであるから、賃借人と譲受人ないし転借人とは、社会的、実質的に同一であるという事情が考盧されて、賃借人の行為は賃貸人に対する信頼関係を破るものでないこと、つまり背信行為とならない特段の事情があると判断されたものです。
さて本問の場合も前例と同様に考えてよいわけで、税金対策の関係で個人営業を会社組織に改めて、会社の看板を出し、賃借建物を賃貸人に無断で会社に使用させても、法形式的には個人から会社に賃借権の譲渡または転貸が行なわれたような外観を呈しますけれども、改組の前後を通じて経営の実態に本質的な変化はないのでしたら、先に述べたように賃借人と譲受人ないし転借人とが、社会的、実質的に同一人とみることができますので、借家人の行為は賃貸人に対する信順関係を破るものではありませんから、賃貸人は賃借権の無断譲渡または転貸を理由に契約解除をすることは許されません。
もっとも賃貸人は、もともと借家人を個人的に信用して建物を賃貸したのですから、将来、もし会社の代表取締役たる地位を第三者に譲り、経営の主体的地位を退くということになれば、実質的な観点からみる最高裁の判例からすると、その段階で無断譲渡または転貸となるのではないかと思われます。

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