造作の意義

造作という言葉が法律上意味を持つのは、借家法五条の規定する造作買収請求権についてです。つまり、次で説明しますような諸条件にあった造作は、借家関係が終了したときに、これを時価で買い収ってくれ、と借家人から家主に請求することができるわけなのです。さて、この意味での造作とはどんな物を指すのでしょうか。判例や学説によると、「建物に付加された物件で賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便宜を与えるもの」というふうに、定義されています。造作の代表的なものといえるのは、本問にもあるとおり、畳や建具ですから、たとえば、畳について、上の定義がどのようにあてはまるかを検討してみましょう。家主のAからBが借家をしたが、その借家には畳が入っていなかったとします。Bがこの借家に住むためには、畳が必要ですから、自分でそれを調達して、部屋に敷いたとします。畳は建物に付加されたわけです。しかし、そうかといって、この畳は建物に完全にくっついてしまったわけではなく、取り外そうと思えば取り外すことができ、取り外したからといって、畳の価値が減ることは減ってもほとんどゼロになるほどに減少する、というわけではありません。つまり、畳は、建物に付合し家主の建物所有権に吸収されてしまったのではなく、建物から独立の存在を保っており、賃借人Bの所有に属しているわけです。そして、畳なしの建物に比べて畳付の建物のほうがだれにとっても便利なことは明らかですから、この畳は、建物の使用に客観的便宜を与えるものだということになります。
以上の説明からまず分かるのは、造作というのは、ともかくいちおう建物に付加されたといえるものでなければならず、家具や什器のように建物から取り払うことがきわめて容易で、取り払っても価値をほとんど減じない動産は、造作ではない、ということです。裏からいえば、家具などは、借家関係が終了しても、借家人が引越しのとき持ってゆけば、それでかれにはなんの損害もないから、造作買取請求の問題とする必要はないというわけなのです。これに反して、畳や建具は、引越しのとき持っていくことはもちろん可能ではありますが、そうしても、引越先の建物にうまく適合しないのがふつうで、結局、二束三文で他へ売るぐらいしかできません。そこで、借家人としては、家主にこれらの物を買い取ってもらう権利が与えられることが必要となる、というわけです。もっとも、一口に家具といっても、たとえば、作りつけの食器棚など、取り払ってよそへ持ってゆくことが容易でないものも少なくなく、このようなものは造作とみるべきでしょう。そう考えると、造作でないふつうの動産と造作との区別がはっきりしないことになるのですが、要は、それを建物から取り払うとその物の価値がひどく減少するかどうか、つまり、借家人にその物の買取請求権を認めないと借家人が大きな損害を受けるかどうか、という点を基準として識別がなされることになります。

スポンサーリンク
間取り

前の例で借家人のBが自分の費用で借家の壁を塗り変えたとします。壁土は本来はBの所有物であっても、建物に塗りつけられると建物の一部になり、家主Aの建物所有権に吸収されてしまいます。これを付合といいます。つまり、建物はAのものだが、塗った壁の表層部だけはBのものだなどというのは、ナンセンスだからです。したがって、この壁の表層部は賃借人Bの所有 に属するものではありませんから、造作ではなく、それゆえ、買取請求権の問題も起こりません。
もっとも、それでは壁塗りの費用を出したBは丸損になり、他人の費用で自分の所有家屋がきれいになったAは丸モウケになるかというと、決してそうではありません。
借家人が屋根を葺き替えたとか、床を張り替えたとかいう場合も、同じことになります。
さて、実際の判例で、造作として認められているものはどういうものでしょうか。それには畳、建具のほかに、水道設備、電燈引込線、瓦斯電燈の設備および引込工事、鉄筋コンクリート造の建物使用の便宜のために付加された下回り木材一式、屋外の階段とその屋根、板の間、台所釣戸棚、電燈設備、店据付け戸棚等があります。
しかし、理論的に考えると、判例が造作としてあげているこれらの物が、前にあげた造作の定義に果たして完全に適合するかどうか、疑問の余地がないわけではありません。つまり、それが建物から独立の存在を保ち、賃借人の所有に属するといえるかどうかは、そんなにはっきりしておりません。例えば、水道やガスの引込施設は造作だというのですが、これを取り払うのには相当の手数率費用がかかるばかりでなく、取り払われた結果えられたものは、決して引込施設そのものではなくて、引込施設のための材料、古材料にすぎず、これを他の建物のために転用しようとすれば、かなりの費用がかかるはずです。階段などについても同じことがいえます。他方、屋根だとか建物の建増部分だとかは、造作ではなくて、建物の一部になってしまう、と解されています。しかし、たとえば、屋根瓦にしても、取り外して、別の建物のために転用することも可能で、その意味では、水道引込管などとどちらが独立性が強いともいいきれません。ですから、なぜ水道引込管は造作で、屋根瓦などはそうではないのか、理由がはっきりしません。
また、同種の物が、ある判決では造作だと認められ、他の判決では造作でないとされた例も少なくありません。例えば、自動車車庫の賃貸借におけるコンクリート舗装や、便所などは、その例です。
こう言いますと、そんなにあいまいでは、取扱が統一されないで困るではないか、という疑問が当然でてくると思います。しかし、この点は、実際には、それほど困った問題ではないのです。なぜかというと、たとえば、前にあげた便所を借家人が作ったのち、借家関係が終了して、彼がこの建物を立ち退く場合、彼がこの便所をつくるのに投下した費用を回収しようとして、家主を相手に訴訟することになったとします。もし、裁判所がこの便所を造作だと認めるというのでしたら、借家人は造作買取請求をしてその代金を支払えと請求すればよいのですし、また、もし裁判所がこの便所は造作でなく付合して建物の一部とたってしまったのだというのでしたら、それなら有益費を支払えと請求すればよいのです。したがって、この便所が造作かどうかということは、主として理屈や訴訟上の技術だけの問題で、どちらであっても、実際上の結果は大してちがわないのです。
そうはいっても、造作買取請求であるか有益費償還請求であるかによって、つまり、問題の物が造作であるか建物の一部であるかによって、網かい点では若干のちがいはあります。畳は、それを入れた借家人の所有物ですが、建増し部分は築造されたときに付合によって家主の建物所有権に吸収されてしまいます。したがって、畳を取り外して他人に譲渡したり、破壊したりするのも、自分の物ですから借家人の自由ですし、また借家関係終了のさいに、家主への買収請求をしないで自分で持ち去ることもできます。ところが、建増部分は、その材料が自分の物だったとしても、いまは家主の物ですから、借家人にはこのような自由はなく、ただ、借家関係終了時に有益費の償還請求ができるだけです。もっとも、造作について以上のような自由が借家人にあるといっても、そんなことをすれば自分の損になるのですから、通常このような自由が行使されることはまずなく、したがって、以上の点についての相違は、実際にはあまり重要ではありません。
造作の場合には、それが家主の承諾をえている場合にのみ、買取請求ができますが、有益費の場合には、家主の承諾の有無とは関係なしに償還請求ができるわけです。もっとも、造作の場合は家主の承諾が必要だといっても、借家をすることの目的の達成上付加することの必要な造作の付加については、はじめから家主の承諾が包括的になされているものとみられますし、逆に、有益費の場合に家主の承諾は問題とならないといっても、建物の客観的価値を増加させることのないような工事であるため家主が承諾しなかったという場合には、このような工事に投下した費用はそもそも有益費とはいえません。したがって、この点の相違も実際上はそれほど重要ではないようです。
借家契約を締結するとき、ないし借家関係がつづいているときに、家主と借家人とのあいだでたとえば「借家人の入れた畳の買取請求はしない」という約束をしても、それは、借家法五条の「規定に反する特約にして賃借人に不利なるもの」に該当しますから、このような約束は「之を為さざるものと看倣」されることになります。これに反して、有益背信遠の規定は、民法中に置かれていて直接には借家法六条と関係しませんから、判例には、借家人が有益費償還請求権を放棄する約束をあらかじめ家主としている場合には、この特約は有効だとしているものがあります。しかし、造作買収請求権をあらかじめ放棄する特約が無効だとする借家法六条の規定は、借家人が家主の圧迫によってこのような特約を結び、のちに著しい不利益を受けることがないよう、借家人を保護する趣旨です。だとすると、有益費償還請求権についても同じように借家人を保護する必要があるはずです。ですから、学説は、有益費償還請求の規定も、借家についてはこんにちでは強行法規になっていて、この権利をあらかじめ放棄する特約は無効だと主張しています。この主張にしたがえば、以上の点について応造作と建物の一部となってしまった物とで取扱の差はないことになります。

間取り
借家の期間の決め方と効力/ 更新後の借家の期間/ 一時使用の賃貸借/ 一時使用の賃貸借の特性/ 和解、調停と一時使用の賃貸借/ 抵当権と短期賃貸借/ 解約申入と更新拒絶の要件/ 解約申入と更新拒絶に必要な正当事由/ 正当事由の存在時期/ 新家主から借家人への正当事由/ 代償の提供による正当事由/ 家計費捻出のための正当事由/ 改築あるいは新築する場合の正当事由/ 家賃の滞納、借家の使用方法での正当事由/ 営業上利害の対立での正当事由/ 借家権の譲渡と転貸の自由の制限/ 借家権譲渡の承諾の効果/ 借家転貸の承諾の効果/ 差配人や管理人などとした承諾/ 事後承諾と包括的承認/ 借家の譲渡、転貸の黙示の承諾/ 譲渡、転貸の承諾の撤回/ 借家権の無断譲渡、転貸の効果/ 間貸と転貸/ 一部の無断転貸と全部の契約解除/ 解除権の制限/ 近親者への間貸は転貸にあたるか/ 個人契約の借家を会社名義で使用している場合/ 建物の賃借人が共同事業者に建物を使用させる場合/ 無断転貸がやむをえない事由による場合/ 契約解除される前に転借人を借家より退去させた場合/ 解除権が発生せず、解除権の行使がゆるされない場合/ 移転料、更新料、名義書換料の意味/ 移転料の効用/ 移転料、立退料の算定方法/ 更新料の効用/ 名義書換料、承諾料の効用/ 名義書換料の算定方法/ 造作の意義/ 造作買取請求権の効果/ 造作買取請求権の行使と建物の留置/ 費用償還請求権の成立/ 費用償還請求権行使の時期/ 費用償還請求権の行使と建物の留置/ 借家紛争の調停と和解/ 借家の仮処分/ 土地買収と借家権/ 区画整理と借家権/

       copyrght(c).間取りガイドドットコム.all rights reserved

スポンサーリンク

プライバシーポリシー