借家紛争の調停と和解

家主が、私に貸している家で商売を始めることになったから、明けてくれといってきました。私も、今すぐでは困りますが、いつまでも明け渡さないつもりはなく、二、三年猶予してもらい、なお若干の立退料をもらえれば、明け渡してもよいと思っています。このような場合、適当に妥協するにはどうしたらよいでしょうか。
一般に、民事上の紛争を妥協的に解決するとは、裁判のような一刀両断的解決ではなく、当事者双方がそれぞれ自分の立場のみならず相手方の立場も考え、お互いに譲歩して、争いを解決することをいいますから、そのためには、まず当事者間で話合いの場が持たれることが必要です。
交渉の場には、二つの場合が考えられます。第一は、当事者が、国家その他公共機関の手を借りないで、直接または第三者を通じて話合いをすることであり、第二は、公共機関の手によって、話合いおよび解決のための斡旋をしてもらうことです。したがって、本問のような借家紛争の場合も、これを妥協的に解決するには、いずれかの方法により必ず話合いをしなければなりません。その場合、ふつうまずとられるのは第一の自主的交渉の方法です。そして、方法により話合いができれば、いわゆる示談解決となるので、これがもっとも穏便なやり方です。なお、示談解決の場合には、多く当事者間でその旨の契約書を作成し、後日の紛争を予防していますが、契約書だけでは、将来当事者の一方が約束を破った場合に、ただちに他方が強制執行をすることができませんから、約束の履行確保のため、契約条項につき即決和解または公正証書等の債務名義を得ておくことが肝要です。
しかし、当事者間の自主的交渉では、なかなか妥協ができないことが多いようです。ただし、交渉のさいは、露骨に利害が対立し感情に走ったり、また示談屋等が介入して、円満な解決を妨げるからでありましょう。したがって、このような場合、あくまで妥協的に解決をするには、第二の方法、すなわち国家その他の公共機関に申し出て、その助力により、当事者間の自主的解決を斡旋してもらうほか途はありません。ところで、この方法にはいろいろなものがありますが、その中でもっとも公正かつ権威あるものは調停(民事調停)制度です。この調停とは、民事に関する紛争を当事者の互譲により条理にかない実情に即して解決するため、裁判官と二人以上の調停委員が調停委員会を構成して、委員会により当事者双方の言い分および事情を聞き、その結果、前記目的にそった解決案を考えて、これに基づき当事者を説得し和解させる制度をいいます。そして、調停により当事者間に合意が成立し、これを調停調書に記載すれば、その記載は裁判上の和解、したがって確定判決と同一の効力を持ち、これに基づいて強制執行をすることができます。しかも、この制度は手続が非公開で、調停委員会と膝つき合わせて胸襟を開き得るうえ、訴訟とは比較にならぬ安い費用および短期間で紛争が解決できますから、当事者間に妥協的解決の意思さえあるなら、きわめて合理的な制度といえます。それゆえ、本問の場合も、家主との間で示談解決ができないときは、ぜひこの調停制度を利用されるようおすすめします。

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借家紛争に関する調停の申立は、建物の所在地を管轄する簡易裁判所または当事者が合意で定める所在地を管轄する地方裁判所に、書面または口頭をもって、申立の趣旨および紛争の要点を明らかにし、証拠書類がある場合は、同時に、その原本または謄本を差し出し、なお所要の手数料を納付して、これをします。
調停の申立がありますと、調停委員会は期日を定めて当事者を呼び出し、調停室において当事者および関係人と面接し、申立書に基づいて、まず申立人、ついで相手方の順に各自の言い分および事情を聞き、同時に双方の証拠書類を取り調べ、さらに必要があれば、その後の期日に証人尋問、鑑定または検証等も行なって、紛争の実情を把握し、他方、両当事者から紛争解決の条件および希望等を聴取します。そして、以上の結果、当該事実においては、いかなる調停がもっとも適切妥当であるか、すなわち条理にかない実情に即した解決方法であるかを考えて、これに基づき双方を説得し、その互譲により、当事者間に円満解決の合意が成立するよう斡旋します。そのため、調停委員会はこの判断に誤りがないよう慎重を期するとともに説得および斡旋のしかたについてもいろいろと工夫をしています。
ところで、以上のような調停の結果、当事者間に合意が成立し、調停委員会がこれを相当であると認めますと、合意は調停調書に記載されます。そして、この記載が前に述べた債務名義となるわけです。しかし、何回調停を続行しても、当事者双方が妥協せず、またはその他の理由でとうてい合意の期待できない場合には、調停委員会は調停が成立しないものとして、その手続を打ちきります。もっとも、この場合でも、裁判所は紛争解決のため相当であると認めますと、調停委員の意見を聞き、当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で、両者のため衡平に考慮し、一切の事情をみて、必要な決定をすることができます。しかし、裁判は、元来例外的なものですから、二週間以内に各当事者から異議の申立がなされなかった場合だけ、前記調停調書と同一の効力があります。
一般に、当事者双方が、調停の際、特に注意すべき事柄は、次のとおりです。
調停委員会の呼出しを受けた当事者は、やむを得ない事情ある場合のほか、必ず本人が出頭すること。調停は代理人(とくに弁護士)によっても行なうことができますが、代理人だけを出頭させることは例外です。調停委員会の事情聴取の際は、冷静に落ち着いて、感情に走らず、必要にして十分な事情を秩序正しく、しかも分かりやすいように述べること。そのため、調停期日前、事件の大筋と枝葉末節、紛争の遠因と近因とを区別し、調停期日に整然と、まず事案の概要ついで紛争の要点を要領よく説明できるよう十分に準備を整え、他方、証拠資料も収集、整理し、いつでも提出できるよう、調停期日には必ずこれを持参すること。
調停委員会の質問に対しては、有利不利の区別なく真実を述べ、いたずらに有利な事実や都合のよいことだけを強調して、不利な事実や弱点を隠さないこと。当事者双方がこの原則を守らなければ、公正な調停はまず不可能です。そのため、当事者が真実を言いやすいよう、調停委員には秘密厳守の義務があります。
紛争解決の条件や希望等については、遠慮なく意見を述べるとともに、相手方の立場も考え、妥協すべきところは妥協して、円満解決へ協力すること。
調停案およびこれに基づき合意された調停条項については、単に常識だけでなく、法的にも十分理解し、疑問の点がないようにすること。また調停調書に記載される調停条項の原案は、その内容が明確でかつ特定されているか否か、および合意の中味と完全に一致しているか否かを確認し、後日、調停調書の効力をめぐり紛争が起きないように注意すること。
調停申立は、通常、訴提起前になされるのが常識ですが、訴後でも、当事者が円満解決を希望するなら、なおかつ、これをすることができます。また、訴を受けた裁判所においても、当該事件を調停によって処理するのが適当であると考えますと、職権でこれを調停に付し、解決することができます。そして、以上いずれの場合でも、裁判所は、調停の模様および結果をみるため、訴訟手続を一時中止するのがふつうです。
なお、訴訟係属後の妥協的解決の方法には、以上のほか、さらに裁判上の和解があります。これは、端的に、当該事件の受訴裁判所が、訴訟手続の経過を利用し、当事者の間に立って、調停と同様、両当事者の互譲により、紛争を円満に解決するよう斡旋する制度であって、斡旋の結果、和解が成立し、これを和解調書に記載すれば、その記載は確定判決と同一の効力を持ち、したがって強制執行できる債務名義となります。しかも、和解は訴訟中いつでもこれをすることができますから、むしろ、この方法こそ、訴訟係属後はもっとも便利な妥協的解決の方法といえるでしょう。

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